第一話 【馬鹿】誕生
お兄様たちが居る世界を覗くことが出来る、透き通った水が揺れる泉に反射して、きらり光ったと紫色。
あたしはそれを見るために、顔を上げた。
光は空高く上がって、パッと消えた。
あたしはそれをただ見上げて、ふっと思ったの。
『静かになっちゃったなぁ……』
って。
だってもう、ここには王様も、お妃様、お父様、お母様。
セメロ公爵家で一緒だった皆。
……仲良くなった人も。
みんな。
皆、居なくなっちゃったんだもん…………。
大往生だったルファネスさんが居なくなっちゃったから、私より先に生きていた人は誰もいなくなっちゃった。
…………あたしは、後八年。
八年間も、あるんだ……。
でも、まぁいいや。
子供達と悠々とすごしていよう。
あ。
後ね、ルファネスさん。
ルファネスさんより先に順番が来たレティさんと、ウィルロットさん。
ノエルさんの甥で、レティさんの従兄弟のセイドさん。
……この三人はね。
うん、そうだね。
…………大変なことになってるよ。
まぁ。
どうせ。
アルがルファネスさんにバレないように、色々やってたこと。
気づいてないんだろうけどさ……。
ついでに、この泉にも……ね……?
アルは自分の楽しみのためにしか、動かないの。
だから、何がいいたいのかって言ったらね。
例え。
ルファネスさんが『人間の女の子になる』って言わなくても、アルは強制的に『人間の女の子』にしてたんだよ。
アルはルファネスさんを『人間の女の子』にしたがってたから……。
……そうだ!
まだ時間あるんだからルファネスさんの成長を覗いていれば良いんだ!
* * *
なにやら暗いぞ?
って。
ん……?
動いて……――――痛ったぁぁぁぁああああ!!
なんだ?!
なんなんだよ?!
めちゃくちゃ痛いんですけど!!!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁああ!!」
「おめでとうございます! 元気なお姫様でございます!!」
「はぁ……はぁ。……おん、なの…………こ……?」
「はい! とても元気でお美しい姫様でございます!!」
「……そう……それは、よかった……わ……」
嬉しげな産婆(?)の声と、疲労の濃い女性の声が聞こえた。
おそらくその疲労の濃い女性の方が俺の母親なのだろう。
……どんな美姫だ?
っと。
いかん。
ついそっちを考えてしまった……。
俺の母親が美姫でないはずがないというのに……。
うっすらと目を開けられるかを試み。
ぼやける視界で女性を認識することが出来た。
…………うむ。
やはり、母上か……。
ということは、俺の父親は――――。
「シャンディ。良く、頑張ったな」
「っ…………あなた……」
「ありがとう。君に似て、とても美しいな」
「……ふふ。ありがとう」
…………うむ。
やはり父上であったか……。
と言うことは。
俺は世界一の美女だ!!
ふわぁっはっはっはっは!!!!
超美少女な俺様爆誕だぜっ!!
はーっはっはっはっは!!!!
――ルファネスが高笑いをしている時、あちらでは――
「うわぁ……。ルファネスさん、転生してもナルシストのままなんだ…………」
と。
泉を覗いていたニコラがげんなりとして言った事を、ルファネスは知らない……。




