吉祥寺くんは三鷹市在住
王道を目指している、と宣言はしてみます。
■十二神候補
ニート神
中二神
バルセロナ神
さえずり神
維新神
スマフォ神
エコ神
次世代エネルギー神
48神
電子出版神
リア充神
俺、吉祥寺ヒロト。高校二年生。
んー! 今週末の連休は何をして過ごそうかな?
「えー、であるからして。諸君らには当校生徒としての自覚を持ってこの連休を……」
朝礼とか学校行事で校長先生の話が眠たいのは世界共通。
だけど、俺は明日から来る連休の妄想によって終業式のけだるい風景を脳内リゾートへと変化させることに成功させんとしていた。
連休って言ったら、やっぱり旅行とかかな。金はないが、近場の海とかでアバンチュールを体験したりするのだ。
あ、ところでアバンチュールってどんな意味だっけ。
まぁいいか。ウチの高校はいわゆるエスカレータ式だし、英語が少々分からないことを気に病む必要はない。
まぁそもそも旅行とか行かないんだけど。引きこもり万歳である。
ところで平凡な俺ではあるが、結構な夢がある。
だけど誰にもそれは言わない。
夢は自分の内に秘めてこそ、美しいのだ。
高校へはチャリンコ通学。「宿題はちゃんとやるように」なんつー退屈なホームルームをやりすごし、一台九千九百八十円(防犯登録の五百円を含めて一万四百八十円)の愛車、黒王号でもって自宅へ速攻ダッシュで帰宅せんとする。
そう、俺には、帰らなければならぬ家があるのだ黒王号よ。
見せてくれ、お前の疾駆を!
……と心の中で叫びながらギイコギイコとペダルを漕ぐ。
待ってろよ。
家に帰ったら556噴射してやるからな。
――よし、もうすぐ家だ。三鷹市上連雀は妙に道がしっかりしてて走りやすい。今日は連休前で半ドンだから、急げば母さんがパートから帰ってくる前に時間指定で頼んだ宅急便を回収できるはず。ついに、昼食代を削りに削って注文したソフトが届くのだ。
長い鍛錬の末編み出した必殺のドリフト(ただし止まるときだけ)で玄関横の駐輪場に黒王号をストップさせ、自室に籠もり何食わぬ顔でその時を待つ。
♪ピンポーン
「宅急便でーす」
キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
はい、吉祥寺ですけど。インターホンの受話器を取って、応対する。
あ、はい……、そうです。三鷹市だけど名字は吉祥寺です。
……軽く宅急便のお姉さんに失笑される。
いいもん、こんなの慣れっこなんだもん。
玄関に出て、サインをせんと呼吸を整える。
「お荷物は二つですね」
ほう。
「こちらのクール便と、『萌え萌えアバンチュール、海の家で妹108人』のお二つです」
あ、違います、『108人』の所は「いっぱい」って読むんです。
……などと冷静にツッコむことなど聡明なる俺には当然できず、宅急便のお姉さんの意地悪に涙しながらハンコを押す。
「もう、ヒロト君もこういうの、好きよねぇ」
……ほっといて下さい。
通信販売と宅急便が一体化した次世代配達サービス、「アマぞん」は俺達ひきこもり組の御用達だが、最初はまさか配達員まで女の人だとは思わなかった。しかし今ではなぜかすっかり、顔見知りである。
「あ、クール便の方は生ものっぽいから、早めに冷蔵庫に入れておいた方がいいかも」
ういうい。わかりましたよ。それじゃ、お疲れ様ー。
……しかし、クール便なんて珍しいな。母さんが注文した「お取り寄せ」の果物でも入ってるんだろうか。
「あ、カッターはやめて下さいね」
うん? 何か声がしたような。ま、まさか母さんが帰ってきたとか。息を止め、辺りをうかがう。『妹108人』の事が母さんなどに知られては、人間としての尊厳の問題に関わりかねない。俺にだって恥じらいはあるのだ。
……よしうむ、人の気配はしない。
「……できれば、端の方からやさしくピリピリッって破って下さると」
な、何だ? 俺に気配を感じさせず声だけ聞こえる?
いかん、早くも夏バテかな……。そう言えばさっき、黒王号とギャロップしすぎたこともあるからな。うん、これから一日の攻略人数は二人までにしておこう。それでも108人ならたっぷり54日は楽しめる。
ふう。まぁいいや。端の方からやさしくピリピリね。
まったく、最近のクール便は注文が多いなぁ。
「お、そうそう。いい感じです」
ダンボールを半分ほどピリピリ開けたところで、うん? また聞こえた?
「あ、ここまで開けば自力で大丈夫です」
ビリビリビリビリビリ……。
何と、ダンボール箱から美少女が出てきた。
これが、俺と軍師、イングリッドさんの初めての出会いであった。