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逢魔ヶ時 SENSATIONAL  作者: 巡理 圍
帰省。
8/9

それぞれの敵の定義。

竹林の言葉に俺は息を飲む。

彼が、桜鬼の言っていた、人外の様な雰囲気を纏った者なのかと思考が巡る。


「なぁ...」


「妖は妖の血を浴びれば、浴びる程 強くなる」


「何言って...」


麟太郎の表情が一気に変わる。

先程まで漂わせていた胡散臭さが跡形もなく消える。その不自然が深く印象に残って、奇っ怪に感じた。


ーーーこの感じ...俺を襲って来た人外達と同じだ...


「俺は復讐したい...俺を苦しめた奴等に...

だから、その為には力が必要なんだ...ッ!!」


突然 繰り出された右腕は、人のそれを遥かに凌駕する異様に爪で覆われて居て、破壊力の高さが窺えた。


それに、一人称も変わっている。


紙一重で竹林の攻撃を躱すと、後ろに飛び退き、睨み合う。


何故か俺達の周りを避ける様に、人の気配は消え、喧騒が遠退いていた。


「これが...常世?」


ついこの間、桜鬼から話された常世に自ら赴く事になるとは...

確か、黄昏時...つまり、逢魔ヶ時は浮き世と常世の区切りが曖昧になって、移動するんだっけか...


それが神隠しの正体とか、桜鬼が自慢気に話してきた事を思い出して、笑ってしまう。


「何が面白いんだ?」


「いやぁ...慣れない事ばかり起きているのに...

相変わらず流され続けている自分が可哀想でな」


「意味わかんねぇ...お前これから死ぬんだぞ?」


「あぁ...その態度だ...高圧的な態度に上から目線...最高にムカつくんだよ...糞野郎がッ...!!」


全てが夕焼けに包まれる逢魔ヶ時...

赤に染まる町の路地裏で、大嫌いな人外と対峙する。耳を澄ますと遠くで豆腐屋のラッパが鳴っていた。


Ⅹ Ⅹ Ⅹ


先に動いたのは麟太郎だった。

軽くステップを踏むと、人間離れした瞬発力で踏み出し、縷々との間合いを詰める。


ただの人間である縷々が、その速さに対応出来るはずもなく、人差し指と薬指、そして小指から生えている、異様に長い爪で胸を切り裂かれる。


「ぐ...あぁ...」


倒れ込むまいと気力で立ち続ける縷々に、追撃を仕掛ける為 左手を伸ばすが、待ってました!と言わんばかりに学生鞄でそれを防がれ、カウンターを貰う。


縷々も細身の割りに、異常に力が強い。

それは、縷々自身も人間離れした存在であるためかは本人も知らないが、それでも使えるなら使ってやるさ。と、麟太郎の顔面を殴り飛ばす。


「効いただろ?」


「...妖の割りには大したことねぇよ!!」


爪に付着した、縷々の血液を舐める。

それだけで、麟太郎の顔は恍惚に染まる。


「気味悪いな」


縷々が呟いた瞬間。再び右手が伸びてくる。

すんでの所で腹に風穴を空けられる所だったが、咄嗟に出した学生鞄で防ぐ。


「おいおい...教科書も鞄も買い直さなきゃだな」



学生鞄を見事に穿つ程の攻撃に汗が伝う。


縷々は、特筆すべき『誇れるモノ』や『武器』を持っていない。


それなのに...人は、妖は、彼を目の敵にし、傷付ける。そんな理不尽な状況を受け入れる事が出来る者は居るかもしれない...けれど、納得出来る者など居るはずもない。


「俺は人外が大嫌いだ...」


だから、長年 人外に苦しめられた縷々は、迷いなく吐き捨てる。


「相変わらず同感だ、縷々。

ただし、俺は人間が嫌いだけどな」


フワァ...と煙の様に現れた桜鬼も呟く。

突然の登場に麟太郎は少し驚いた様に、姿勢を正す。


「「だから、お前は特に嫌いだ...ッ!!」」


桃色の花吹雪が舞う。

徐々に西へ沈む太陽の赤に染められた花弁達は、本来持つはずのない輝きを放ち路地裏で踊る。


「妖怪変化か...?」


「お前が知る事じゃねェよ...

血とか復讐とか大層な理想掲げた所で、力を持った奴なんて全員が気付かない内に大嫌いだったはずの敵みたいな行動しちまってんだよ...」


ワルツを踊る様に、軽く宙を舞っていた桜の花弁が、麟太郎を包み込む。



Ⅹ Ⅹ Ⅹ


「はぁ......はぁ...く、そがぁ」


もはや、竹林は虫の息だ。

みすぼらしく地面を這い、俺を睨みつけている。

コイツは、大嫌いな人外だが、命まで奪おうとは思わない。それは、優しさではなく、自責の念に駆られたくないだけだ。


その場を後にしようと思い、振り返る。


「くそがぁ...ッ!

殺してやる...絶対、殺してやる」


「理由は知らねぇが、何かを憎んで生きているのが自分だけだと思うなよ」


気付けば、夕陽は完全に沈み、町の上に夜が覆い被さっていた。


ーーー


「ふざけんなよ...アイツ、何時か殺してやる...」


「そんなに怒って、どうしたんだ?」


麟太郎が痛む傷口を抑えながら歩いていると、桜の木の下で声を掛けられた。


「あ、源本君...君こそどうしたんだい?」


源本と呼ばれた男は、不敵な笑みを浮かべる。

彼は、麟太郎のクラスメイトだ。

確か、神凪達と仲が良かったはず...とか思考し、口調を人間に紛れて生きている時のそれに変える。


「...お前が最近 手当たり次第に人間を襲ってる人外だとはな...」


「な、なんのこと?」


「悪りぃ...俺はお前を助けてやれねぇ...

だから、せめて、安らかに眠ってくれよ」


速過ぎる斬撃が麟太郎の命を摘む...

抜刀した刀を振り、血を落とすと、鞘に収める。


源本は小さく溜め息を漏らすと...


「きっと、強くなる...」


そう呟いて、源本は、その場を後にした。

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@ittoot123

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