襲来のクラスメイト。
昼休み。それは学生にとって至福の時間。
皆が仲の良い友人と昼食を取り、この後の予定や放課後の予定を語り合う。
素晴らしい時間だ。
「お前、寂しくねぇの?」
一番 端の席で突っ伏していると、何時現れたのか桜鬼が俺に話しかけてきた。
勿論、無視する。
転校生で馴染めていない上に一人で会話していた等と噂されたら本当に寂しい学校生活になるからな...俺はいそいそと席を立ち、屋上を目指す。
教室から出る時 何人かに見られたが気にしない。
「なぁ、桜鬼。
人が居る所ではあんまり話しかけないでくれ」
「ん?あぁ、わかったよ」
「どうした?」
「いや、学校ってのは見える奴が集まんのか?
お前とか神凪の娘見たいに」
突拍子の質問に一瞬 戸惑う。
桜鬼の態度からすると、俺のクラスに見えてる人が居る。ということになる。
それを多数だ。
「基本は見えないと思う。もし見えたとしても黙ってるだろ...俺みたいに。
それより、何故 神凪の名前を知ってる?」
俺が戸惑った理由。
それは桜鬼が神凪の娘。と玲のことを認識していたからで、つい何日か前に目覚めたはずの桜鬼が神凪のことを知っているはずがない。
「お前、ボーっとしてる割には鋭いんだな」
「鋭くなくても気付くと思うけど...
それより、質問に答えろよ」
もし、桜鬼が神凪達に害をもたらそうとしているのならば、それは阻止しなくてはならない。
ふと、桜鬼が俺と契約した理由が頭に浮かぶ。
罰とは俺が親しくしている奈緒さんに危害をくわえることではないか?俺が神凪家に出入りする日人間だから契約したんではないか。
溢れだした疑問が口から出そうになるが、飲み込む。
「俺は何処に封印されてた?
神凪の神社の祠だぞ?名前ぐらい知ってても普通じゃねぇか?」
「つまり、神凪家の誰かに封印されたとかで怨みがあるんだな」
「早まるなよ、朝言っただろ?
何百年か前に河童を見たって、俺が封印された頃には神凪家なんてなかったよ」
桜鬼の言い分はもっともだ。
俺の考え過ぎで桜鬼に嫌な思いをさせたかと思うと少々 気分が悪い。
「あぁっと、ごめんな...
なんて言うか勘違いで」
「気にすんな。それより、お前が居た部屋なんか匂うぞ」
「いや、それはないだろ?
幼稚園児じゃないんだし...」
「違うに決まってんだろ!
人外みたいな気配があったんだよ。
どいつが人外かまではわからなかったから、おそらくは小者だろうけど。一応 報告だ。
気を付けろよ」
俺は桜鬼に奈緒さんの面影を見た。
顔は似ていないし、人間と人外で同じ要素の無い二人。でも、似ていた。
俺のことを心配してくれたり、許してくれる。
奈緒さんやオッサンと同じ表情を桜鬼は浮かべていた。
「なんで、俺の為に忠告なんてするんだ?」
「あ?決まってんだろ。
ノリとはいえ契約交わしたんだ。お前が殺られるのは構わない...いや、むしろ大歓迎なんだが、俺の名前が奪われたりしたら面倒だし...」
「そうか」
「そうだ」
桜鬼の腹の裏は未だ見えない。
でも、信用してみても良さそうだ。
春の穏やかな風の中 桜が舞う。
優しい匂いが広がる屋上から校庭ではしゃぐ生徒を見る。誰も皆 友達と楽しそうにして居る。
昔は羨ましそうにそれを見ているだけの俺だったけど、今は俺の隣に人外が一人居る。
それだけで不思議と心は満たされた。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「憂月君だっけ?
あっちの方向に行くなら僕も同じだし、一緒に帰らない?」
「えぇ~と...」
「あ、僕は同じクラスの竹林 麟太郎。よろしくね」
放課後、一人で帰ろうと校門を出た瞬間に小柄な男に声を掛けられた。
竹林と名乗った男は身長が低く、細身でナヨナヨしていた。顔はつり目だが美形で黙っていればクールなイケメンに見える。
だから、口調との違和感が目立ち胡散臭さを覚える。
「あぁ、それなら途中まで一緒に」
久々に人間と並んで歩く道はなんというか...
変に緊張してしまう。
家と学校の丁度 中間地点に差し掛かった時 竹林が口を開いた。
「憂月君はさ...妖を見たことがある?」
春の陽気の中、俺達の周りの温度が急激に下がった様な気がした。
割りとバレンタインは嫌いです。