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大和サッカー  作者: ジョヴァン2
高校編
1/3

Lesson0 やっぱり……

※この物語はフィクションです。実在する人物・団体などとは一切関係ありません。また、この作品は非常に現実離れした超次元要素を含みます。純粋な、あるいは正統なサッカー小説が読みたい方は、気分を害する可能性がありますのであらかじめご注意下さい。※

 ようやく煩わしかった西日が雲に隠れ、日光に反射した黒板の色が暗くなる。小うるさい日本史教諭の担任の長い話も、それを境にやっと終わった。教室の扉が開かれ、そこから生徒達がせわしく出入りする。早くも騒然とした、賑やかな放課後が始まった。この教室からも聞こえる、無邪気な声の数々。担任の先生は誰だった。初めての授業はどうだった。どの部活に入るの。高校生活が始まってまだ間もない新入生達は、各々が話す体験や話題に花を咲かせた。しかしそんな和気あいあいな雰囲気とは同調しないように、避けるようにこの教室を後にする生徒が一人いた。

 凛とした切れ長な目元に、細い顔。ここまで紹介すれば、さぞ男前に聞こえるだろう。なのに、まゆ毛が何より太いこと。その上、球児と思わせるような、青々した坊主頭。ネクタイを緩め、Yシャツの第一ボタンを外したまま、「1-B」の掛札の下を過ぎた。中央階段を下る最中、少年はあそこにはない、自分の本当の居場所を探すような心情を抱いた。

 元々、この学校は自分が望んで入学した学校ではない。だからと言って、滑り止め校でも志望校の一つでもない。血も繋がっていない養親が、この学校の理事長を務めていることから、正式に受験してはいるが、当然のように入学することが出来たからだ。幼時に実の両親を亡くしてしまった自分を、私立高校まで通わせてくれる。それは何よりも感謝している。けれど、ここで何がしたいのかはっきりしない。親の財力のおかげで一生養ってもらえる。学校生活を終えれば、一生遊んで暮らせる。何もしなくても食べていける。そのせいで、将来のために努力する必要が失われる。

「お前は英語が非常に優秀だ。国際関係の仕事には興味ないのか」

 周りの人間はそんなことばかり口を揃えて言う。だけど、そんな堅苦しい仕事に微塵(みじん)の興味はないし、ネクタイまで締めて仕事するなんて真っ平だ。しかしながら、ネクタイを締めない仕事も限られている。机の上の勉強や仕事もうんざり。もっと、こう、俺も、皆も、ワクワクするような。そんなことがやりたい。そう、それは……。

 少年は校庭の隅にある、隣の体育倉庫と同じ大きさの建物の前に立っていた。錆びた扉に「サッカー部」の掛札が吊されていた。二回戸を叩いても、返事がしない。恐る恐る入室すると、誰もいないことが確認できた。足元までの床には、サッカースパイクやハンガーなどが散乱していた。傾くホワイトボード、棚に掛かったゼッケンやおそらく練習時に着るであろうサッカーウェア、カゴに入っている革がめくれたサッカーボール。それらが窓から照りつける夕日で橙色に輝く。その輝きに誘われるかのように、部屋の奥へ進む。すると腰辺りに黄昏(たそがれ)のスポットライトが照らす。

 やっぱり、ここしかないなぁ。ため息混じりにつぶやきたい時だった。「ここがサッカー部?」という数人の声が、先程入った扉から聞こえた。振り向くと、先に入った一人、色白で茶色の瞳の男の姿があった。見るからに日本人ではなかったが、少年は驚かなかった。背丈からして同学年であることと、入学以前から顔見知りだったからだ。彼もそれを認識したようで、「やあ」と気さくに話しかけた。

「お前も来たんだ」

 少年は決心した。彼と一緒にサッカー部に入部する。彼となら、きっとこの部は楽しくなれる。それに、サッカー以外やることがないから。いや、サッカーが何より好きだから。やりたいから。

「サッカー部に入るんだろ?」

「愚問だな。でなきゃこんなボロ小屋に来るかよ!」

 少年が言い放った後、彼の真後ろに、ジャージ姿の白髪も生えていない、見た目四十代くらいの男性が、やや丸顔の眉間にしわを寄せてこちらを睨んでいることに気づいた。後に、その人物がサッカー部顧問と知った。

次回、西春大和高校サッカー部、始動。

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