禁止された錬金術 ~勇者と愚者たち~
「空を見ていたんだ、青い空をね。」
その老人はそっとイスから立ち上がりベッドに入る。
静かな森の中にある一軒の家。
そこには老人しか住んでいなかった。
雪が積もる寒い日のことだ。
「そうだ暖かいコーヒーを持ってきておくれ。」
老人は自分しかいないはずなのに誰かに頼みごとをする。
コツコツと足音が聞こえる。
「はい、ご主人様。」
透き通るような美しい声の女性がコーヒーを持ってくる。
老人と同居しているその女性。
その女性は死んでいる。
そして生き返っている。
老人が錬金術で亡くなった妻を若く蘇らしたのである。
そんなことは当然赦されるものではない。
だが心のより所が無くなった老人は錬金術で蘇らした。
だからひっそりとした誰もいない森の奥に住んでいる。
この世界は錬金術で人を蘇らすことは大罪である。
例えどんな理由だろうがそれを行った場合死罪にあたいする。
そこまでして老人は愛する妻を生き返らせたっかた。
老人にとって妻は生き甲斐であった。
その生き甲斐を失った老人は必死で禁断の錬金術を独学で学び妻を生き返らせた。
彼らには子供はいなかった。
妻が不妊症だったのである。
もし老人に子供がいればこんなことはしなっかったのだろう。
もし老人が妻を殺してなければこんな事にはならなかったのだろう。
愛する妻だったが憎かった。
それは妻が浮気をしていたからだ。
自分の物でなければならなっかた。
「コーヒーがなくなったよナンシー。」
老人はその妻をナンシーと言った。
「あなたそれには毒が入っていたのよ。」
ナンシーはコーヒーに毒を盛っていた。
それを飲んだ老人マイク苦しみながら死んでいく。
「お前なぜだ?」
「あなたが以前私を殺したように、私はあなたを殺して蘇らせてあげる。」
老人はナンシーの手により錬金術で若く蘇った。
「ナンシーきれいだよ。」
「あなたもよマイク。」
禁断の錬金術で二人は森の中でひっそりと暮らした。
永遠に死ぬことなく。
しかしある時ここに訪ねてきた勇者グレントスが二人の様子が変だと気付いた。
勇者グレントスは愚者の二人に命じた。
「アルバキオ、キオスルバお前達に命ずるあの夫婦が何者なのか調べよ。」
アルバキオとキオスルバは双子の姉妹で錬金術で蘇ったもの。
今は愚者として勇者グレントスの命令を何でもこなすいわば奴隷だ。
「はい、勇者さま。」
アルバキオとキオスルバはマイクたちの家に上がり込みオイルが垂れていることに気がついた。
この事をグレントスに報告した。
「そうかやはり愚者だったか。」
グレントスはマイクとナンシーを旅のお供にする事に決めた。
その旅とは魔王ハウナグンを打ち破る旅である。
魔王ハウナグンは多くの愚者を支配し奴隷にして自分の欲を満たしていた。
法もハウナグンには逆らえず野放しにしている。
グレントスはそんなハウナグンに反旗を翻し戦おうとしていた。
「勇者さまはどうしてハウナグンを打ち破るのですか?」
マイクの愚問に答えるグレントス。
「愚者の自由の為だ。」
ナンシーもまた愚問をした。
「でも、法は私たち愚者を赦してくれません。愚者を作った者もまた裁かれる。」
グレントスは答えた。
「法は強者を裁きはせず弱者だけを裁く。許せないのだ。」
グレントス、彼は真に勇者だった。
この方なら自分たちを任せられると信じたマイクたちはグレントスに従う事にした。
その選択はマイクたちを地獄に突き落とした。
実のところグレントスはハウナグンの手下である。
愚者狩りをしていたのだ。
そうとも知らない哀れなマイクたちは魔王ハウナグンの下で奴隷になった。
ナンシーはその美貌からハウナグンの良き玩具にされた。
快楽に尽きたハウナグンはナンシーをスクラップにする事にした。
「待て。」
マイクの反乱が始まった。
しかしハウナグンにはかなわずマイクもまたスクラップにされる羽目となった。
後日、多くの愚者たちが見る中処刑は行われた。
(本当の勇者は現れないのか?)
マイクが願ったその時剣を持った男がハウナグンに切りかかった。
マイクはその男に見覚えがある。
グレントスだ。
彼は機を計っていた。
アルバキオとキオスルバも戦っていた。
「立ち上がれ愚者たちよ。」
グレントスの指揮の元愚者たちはハウナグンに立ち向かう。
志気は高まりハウナグンの兵隊達を圧倒していく愚者たち。
マイクもその一人としてナンシーとともに戦う。
「本当にあの人は勇者であられた。」
マイクは関心した。
そして法もようやくハウナグンを裁けるようになった。
それと同時に勇者グレントスも裁かれる。
罪状は「多くの愚者を引き入り反乱を起こした。」と、ある。
法はあくまでも愚者すなわち禁断の錬金術を赦さない。
法で裁かれ多くの愚者とともにマイクとナンシーもスクラップになる。
「法め覚えていろ。」
最後の断末魔は勇者グレントスだった。
首だけ残った時に発した最後の言葉。
グレントスも愚者だった。