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下僕(?)1日目

第弐話

「下僕(?)1日目」


波多野徹、高校一年生。階級は特待生・学級委員長、そして下僕。高校生活二日目の朝、徹は珍しく布団の中でぐずぐずしていた。一昨日までは新しく始まる高校生活に胸を踊らせていた。筈だった。出鼻を挫かれおまけに運悪く話しかけてしまったのは自分のような庶民は下僕として扱っても平気というようなとんでもないお嬢様。そして今日から下僕としての生活が始まる。始まってしまうのだ。

「徹ー、九條院さんって人が来てるわよ?」

階下から母親の声がする。徹は布団に潜り込んで二度寝をしようとし、はたと母親の言葉を反芻してみる。『九條院さんって人が来てるわよ。』…。

徹は布団から飛び出した。と同時に部屋に入ってきた藍と目が合った。藍の方は少し不機嫌なようで腕を組んで仁王立ちで戸口に立っている。

「下僕の分際で主人より遅くまで寝ているなんてどういう了見か知らないけれど起こしに来てあげたわ。感謝しなさい。」

徹は寝間着のスウェットのまま呆気にとられていた。家を教えた事もないのに何故ここがわかったのだろうか。そもそも何故家まで来るのか。しかも下僕とはいえ男の部屋に恥じらいもなく仁王立ちで立っているのか。いろんな事が脳内を駆け巡り徹は危うくパニックに陥りそうだった。

「早く着替えなさいよ。いつまで私を待たせるつもりなの?」

藍は少し苛ついたようで言葉が怒り口調になった。藍の言葉で少し冷静になった徹はため息をつくとおもむろにスウェットの上を脱ぎだした。程よく締まった徹の上半身が露になるにつれ、藍はようやく理解したらしい。ここが男の部屋だという事実に。藍は黙って踵を返し部屋の外に出た。徹は着替えを終えて部屋の外に出ると顔を真っ赤にした藍の飛び蹴りを食らった。それはもう見事に綺麗な形の蹴りだった。


「俺は何故ここにいるのでしょう?」

徹は隣に座っている藍に問う。徹は今黒塗りの藍の送迎車の後部座席で藍と並んで座っている。結局朝食を摂る間も与えられず車に乗せられていた。徹自身あまり朝食は摂らない方だがあえて抜かれるというのは少し辛く感じた。携帯で時間を見るとまだ6時になったばかりだった。会って二日目で堂々たる姫様ぶりに徹はため息をついた。

「辛気くさいわね。ため息なんてつかないでくれるかしら。」

藍は徹のため息を咎めた。徹は肩を竦めると窓の外を見た。学校の始業時間は9時前で今は6時台。学校までは徹の家からは一時間もかからない。窓を通り過ぎる景色でも楽しむかと思った徹はふとある事に気が付いた。窓から見える景色を見る限りこの送迎車は学校へは向かっていなかった。

「姫、この車は一体何処に向かっているのですか?」

あまりいい予感はしなかったが徹は恐る恐る聞いてみた。藍はそっぽを向いたまま返事をしなかった。徹は鞄から参考書を取り出すとパラパラとページをめくった。藍はその様子をつまらなそうに眺めていた。車は高級住宅地の奥の一等地へと入っていく。そしてとある一軒の豪邸の前で止まった。

「着いたわ。降りて。」

徹は参考書を閉じると車から降り、藍を通した。豪邸の扉の前には執事らしき人が立っており、恭しく扉を開いた。藍は中へずんずんと入っていく。徹は中へ入っていいものか悩んだ。ここはどうやら藍の自宅らしい。

「波多野様も中へ。」

送迎車の運転手に促され徹は恐る恐る中へと入った。赤い絨毯で彩られた床、慌ただしく掃除をしているメイド、高い天井からぶら下がっているシャンデリア。まさに豪邸中の豪邸だった。シャンデリアの明るさに目眩を起こしそうになり徹は頭を振った。藍についていくと書斎のような部屋に着いた。

「連れてきましたわ。お父様。」

藍のその一言が徹の緊張を更に加速させる。いきなり父親に引き合わされるというのは流石に自分の状況が読めなかった。

「波多野徹君だったかな?」

書斎の奥からバリトンボイスが響く。徹は緊張のあまり返事をする声も出ず首を縦に振った。書斎の椅子から立ち上がった藍の父親は貫禄たっぷりで更に徹を萎縮させる。

「君は特待生らしいな。勉学に長けるようだが。」

パラリと紙をめくる音がした。徹が藍の父親の手元を見ると父親は資料とおぼしきモノを見ながら徹と話をしているらしい。徹の視線に気付いたらしい。父親はその資料を徹に見せた。

「君の家族構成から何から何まで君の全てがここに書いてある。」

『波多野徹についての報告書?』とそれには書いてあった。?という事は?が存在するあるいはこれから増えるという事である。

「ここにサインしたまえ。」

父親は机に置いてあった紙を指差した。徹が内容を読もうとするとあのバリトンが響く。

「早くしたまえ。」

徹は既に冷静でなく、また急かされ焦っていた事もあり徹は内容をあまり読まずサインをしてしまった。父親は紙を受け取ると少しニヤリとし、引き出しにしまい鍵をかけた。

「早朝から押し掛けてしまって悪かったね。朝食がまだだろう。軽く摂っていきなさい。」

部屋の時計はまだ7時前を指しておりかなり時間に余裕があった。どうやら藍の家は徹の家から車で30分程で着くらしく徹にこれからの受難の日々を容易に想像させた。どうやら藍と父親も朝食がまだらしく一緒に摂る事となった。


徹は教室の机にうつ伏せ、ため息をついた。朝の5時台から強引に連れ回され、何かわからない書類にサインをさせられ、その上あの父親と向かい合って朝食を摂る羽目になったせいで既に精神的疲労はピークに達していた。登校の際も藍の送迎車から一緒に降りてきたという事で周りから喜ばしくない視線で見られその事が徹を更に落ち込ませていた。何とか3時限目まで気力で乗り切ったが流石に少し疲れていた。

「徹、この問題わからないのだけど。」

徹が顔を上げると不意に藍がノートを突き付けてきた。

「九條院さん、それなら僕に任せてくださいよ。」

徹がノートを受け取ろうとすると横から男子が1人間に入ってきた。その生徒はあからさまに徹の事を見下した様子だった。『お前のような庶民が九條院さんに目をかけてもらうなんて分不相応なんだよ』そんな心の声が聞こえてくるようだった。藍も徹を下僕扱いするつもりなのだから周りがそういう扱いをしてきてもおかしくはないし恐らく当たり前なのだろう。藍も庶民を相手にするよりは同じ富裕層を相手にする方が話も合うだろうし庶民が周りを彷徨くのはむしろ迷惑かも知れない。徹は黙ったままノートを取ろうとした手を退いた。

「分不相応なのは貴方の方でなくて?」

藍が発したのは徹には予想もつかなかった言葉だった。男子生徒も驚いた様子だった。藍は腕を組み、男子生徒の方を向き直る。

「確かにお金持ちか庶民かで比べたなら徹は貴方より財力はないでしょう。」

藍が男子生徒に一歩近付く。

「でも特待生という事はこの学校がそれだけの能力があると認めたって事で望まれてこの学校に迎えられたのよ?貴方はただお金持ちだから入学出来ただけの人間じゃない。」

藍が詰め寄る度男子生徒の顔は青くなる。徹はどうコメントしていいかわからず黙っている。周りがざわざわとどよめく。

「別に貴方を庇った訳じゃないわ、あの人の態度が気に入らなかっただけよ。」

徹と目が合った瞬間に藍は目を反らしぶつぶつとそう呟いた。徹はその姿を見てあっという間に緊張が解けた。

「ノート、貸して。」

徹は手を出すと催促するように少し上下させた。


徹の心理的描写が何か難しい。藍のお父さんの名前がなかなかいいのが浮かばずなし崩しに父親呼称。いつか名前出す予定です。次回は藍お嬢様が庶民の遊びに興味を示すかもです。

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