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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ひめごと

放課後の春の陽気がここちよい。

化学室の窓際に座り、杉田(すぎた) 文彰(ふみあき)は窓を開けて、そこから見える景色をいつものように眺める。

ここちよい春の風が、ふんわりと化学室のカーテンを揺らしていた。


ここは、とある県の名門私立清陵高等学校。

文彰はこの春に3年生に進級したばかり、どちらかというと内向的で大人しい、色素の薄い茶色掛かった髪をボブにし、よく言えば色白。悪く言うとただのもやしっ子。

黒縁丸型眼鏡はいい趣味だ……

文彰のささやかな野望は、未来のノーベル化学賞。

部員7名の化学部は、平日放課後必須で、日々その野望への道を歩む。



最近、そんな文彰の野望への道の手を止めるものがあった。

新学期に入ってからというもの、文彰は放課後化学室へ入ると、いつもこうして窓際に座り、窓の外を眺めるようになったのだ。

はあ~。

文彰は窓の外を眺めては、そうやって深いため息を吐くのだ。


そこから見えるもの……。

校舎はA棟とB棟が向かい合っていて、化学室はB棟でA棟側を向いていた。

だから窓から見えるのは、なんも編綴も無い向かいのA棟の校舎と、ちらりと見える中庭だけ、文彰もついこないだまでそうだと思っていた。

だからいつも、放課後化学室へ来てただ換気のために窓を開ける。

それだけの習慣。


それが、新学期へ入ってすぐのころ。

文彰がいつものように窓を開けると、かすかに音がした。

聞きなれない音。

スタンッ。スタンッ。

と、かすかに聞こえた。

その不思議な音の正体が気になって、文彰にはあるまじき、窓から身を乗り出してその音の正体を探していた。


文彰がきょろきょろとしていると、見つけた。

それは、文彰のいるB棟側。

A棟からは死角になっていて、きっと見えない。

彼はきっと見つけたんだろう。

どこからも見えないだろう、秘密のスペース。

それは、B棟中二階の屋上。

いろいろな外付けの機材用のスペースで、その機材に覆われているからA棟からのみならず、B棟からだって彼を確認できないと思ったのだろう。

けれど、文彰のいる化学室からだけは、機材の隙間を縫って、彼を確認することができた。

きっと、彼を確認できる唯一の場所。


彼がそれに気づいていないのは一目瞭然だった。

だから、彼はあんなに真剣な表情で、あんなに真剣にDANCEしてる。

誰にも気づかれないように、音楽なしで、ステップを踏んでいる。


でもそれが、文彰の場所からはよく見えるのだ。

彼の服装は、指定の制服なのにそれと見えない。

指定のシャツはしわくちゃで、裾もだらしなくズボンからだして、ボタンだってきっと1つか2つしか止まってない。

細見の彼に、少しサイズが大きいんじゃないかと思われる黒のズボンは、腰履きで赤いベルトでかろうじて腰に固定されているその先から除く彼の下着。今日は紺だ。


なんで下着まで見えるかって?

彼が踊るたびに、ジャンプするたびに、白いシャツが舞い覗くから。

それだけじゃない。

彼がステップを踏むたびに、ジャンプするたびに、彼の締った腰が覗く。

お腹が見える。

自然と焼けただろう小麦色の肌。

腰はきゅっと締り、お腹には縦に一本のライン。

背中は背骨に沿って、まっすぐのラインと丸いお尻とその割れ目が少し覗く。

彼がステップを踏み、ジャンプするたびに、それらが彼の筋肉のしなりに合わせて表情を変える。

初めて見つけた時から魅入ってしまった。

誰にも教えたくない。

それはその日から、文彰の秘密の宝物になった。



DANCEする時の彼は裸足だ。

いつもはわからない。

でも、あの秘密のスペースで踊る時は裸足。

きっと、ステップを踏む音を聞かれないように。


裸足の彼の足首は細い。

ジャンプして着地するときにアキレス腱がしなる。

見えるのはそこまで。


彼の小麦色の肌は、もやしっ子の文彰から比べて、だいぶ健康的だ。

髪は赤み掛かった茶髪に染め、くりんとくせが掛かっている。

整った顔立ちに、細く整えられた眉が少しきつい印象で、ヤンキーチックなところが、まるで文彰と住む世界が違うよう。

そんな彼が、真剣にDANCEする。

真剣な表情で、細い首に筋を走らせ、舞うたびに浮き出る鎖骨。

彼のすべてが、無知の世界で、だからこそ文彰は甘く魅了された。

そして、いつしか文彰は彼を視姦するようになった。

彼から覗く肌を、その表情を、文彰は舐めいるように視線を注いだ。



ある日、文彰は欲しかった情報を手に入れた。

名前もしらなかった彼は、1年下 2年生の相澤(あいざわ) 哲稀(てつき)

素行不良じゃないかと思っていた哲稀は、まさかの生徒会役員だった。

文彰に情報をくれたのも生徒会役員の同級生。

哲稀はああ見えて意外にきれいな字を書く生徒会の書記だそうだ。

以外…と言う同級生に、文彰はそんなことはないと思った。

哲稀はあんなに繊細なDANCEを踊るのだから。

でもそれは、誰にもおしえたくない文彰と彼の秘密。



今日も文彰は化学室から哲稀を眺めていた。

真剣にDANCEする哲稀。

しわくちゃのシャツが哲稀に合わせて舞って、小麦色の肌が露出する。

DANCEが激しさを増せば、しなやかに舞う哲稀の身体が、筋肉が跳躍してこぼれる。


わずかに止められたシャツのボタン。

あれが外れれば、ボタンなんて留めていなければ、シャツなんて着ていなければ…

舞いに合わせて露出する哲稀の身体、シャツの先の胸板。

見えることのない、その先の尖り。


露出する腰骨、きゅっと締った腰。

緩やかな丸みを帯びたお尻と割れ目。

その先は見えることのない。


もっと見たい。

哲稀のすべてが。

文彰はそう望むようになっていた。

同性の男に興味があるわけじゃない。

哲稀だから興味があるのだ。

いつだったか、文彰が無断で忍び込んだ姉の部屋。

そこで見てしまった姉の所有の本の世界。

マンガも小説も、男が男を抱いていた。

その時は寒気がした。

気持ち悪いとさえ思った。

でも今は、毎夜のように文彰は妄想の中で哲稀を犯して抱いている。

ふだん見ることのできない哲稀の身体の部分に、触れてやると哲稀は身をくねらせ、甘く啼くのだ。

ときにやさしく、ときにひどく。

そうすれば哲稀は文彰の腕の中で、あの恐る恐る姉の部屋で見た、マンガのように泣きわめく。


はあ~。

文彰は窓から視線を落とし、深いため息をついた。

実際、哲稀はどんな声で喘ぐのだろうか?

聞いてみたい。

触ってみたい。

ああ、はあはあする。

そう、切に思い、文彰が顔を上げると、視線の先の哲稀が止まっていた。


哲稀が何かを見ている。

一歩一歩、歩んでくる。

とうとう屋上の端まで来ると、こちらに向かって何かを叫んでいるようだ。

そして、右手を振り上げると、中指を立てた。

左手は手招きをしている。


何をやっているのだろう?

文彰はそう思った。

丸型眼鏡は伊達じゃあない。

それどころか、年々悪くなる視力に、また度が合わなくなってきている気さえする。

そんな文彰には、いまいち哲稀がどこを見ているのかわからないのだ。


ただ、文彰の視線の先で、哲稀が右手を強調させ、叫んでいるのだ。

でも、哲稀がなにを叫んでいるのか、文彰には聞こえなかった。

屋上の中央で鳴る、ステップの音はわずかながら聞こえるのに、端で叫ぶ声は聞こえないのだ。と、新しい事実に関心する。

その視線の先で、何かを訴え続ける哲稀に、文彰は、まさか自分に宛てて叫んでいるのだろうか?

そう思い、窓の外を見渡した。


再確認した事実。

他にも哲稀の場所が見えるところがあるのかと思ったが、そんなところはない。

だとすると、やっぱり哲稀は自分に宛てているのだ。

そう思うと、文彰に自然と笑みが浮かんだ。

哲稀にジェスチャーで自分か?と、問うと、哲稀は大きく首を縦に振り、左手で来いと示した。


これはチャンスだ。

文彰はそう思うと、窓を閉め、立ち上がった。

シュミレーションは毎夜している。

その行為を思い出すと、またはあはあする。

哲稀を、自分のものにしたい。

気持ちが先走る。


「杉田、実験始めるけど……」

大好きな実験もそれどころではない。

「お腹痛くて…、先に進めてて。」

文彰はそう言うなり、化学室を後にした。

向かう先は、哲稀の待つ中二階の屋上。



もともと外付けの機材置場スペースの屋上は、どこかの教室から入れるわけではない。

二階から三階へ向かう、階段の踊り場の隅にある扉。

そこからつながっている小さな屋上スペース。


文彰がその扉を開けて、屋上に出ると、哲稀が腕を組んで、仁王立ちになって待ち構えていた。

いままでDANCEしていたせいか、彼は全身汗ばんでいて、思ったより彼は小柄だった。

いや?無駄に180cm近い身長の文彰がでかいだけだろうか?

ひょろ長いところがさらにもやしっ子に見えるらしい。

そんな文彰より、哲稀は頭一つ分くらい背が低い。

そして、意外に華奢だった。


文彰に、ほんのり哲稀の汗の匂いがする。

「てめえいつも見てるだろっ?」

言われた言葉に文彰はびっくりした。

見ていたことを気づかれていたのだ。

「遠くから見られてても気持ち悪いから、見るんだったらここに見に来い。わかったか?」


なんだ。と、文彰は思った。

ケンカでも売られるかと一応内心ドキドキはしていたのだ。

安心した文彰の目の前で、哲稀は自分のシャツの裾を掴むと、持ち上げて自分の顔の汗を拭った。

とたんに露わになる哲稀の小麦色の肌。

良く締ったお腹は縦に一本割れている。ローライズに下げられ、露出する腰骨のライン。多少肉厚な胸板。

しかし、やっぱり見えないその先の尖り。

身体を動かした後で、ぷっくりと勃起したそこを想像する。

何色なのだろう?

肌のように小麦色か?それとも淡いピンク。

……ピンク、やっぱりピンクだろう。

ああ、もっとシャツを持ち上げないか?

そもそもボタンをはずせっ!


「なんだよ?」

舐めいるような文彰の視線に哲稀もさすがに眉根を寄せ、顔を上げた。

しかし、一歩遅くて、いきなり迫ってきた、自分より背の高い文彰に抱きとめられると、タコ口の顔に迫られた。

それが気色悪くて、ひるんだすきに唇を奪われたのだ。

タコ口のまま、チューっと吸い上げられ、哲稀の身体に悪寒が走った。


「なにしやがるんだっ!」

哲稀のその叫びと、文彰が地面とお友達になったのはほぼ同時だった。

バキッと文彰の頬に衝撃が走った瞬間、文彰は、

ああ、未来のノーベル化学賞。

そう思っていた。



文彰の視界の中で、裸足の哲稀が、上履きを拾ってどすどすと去っていく。

ああ、シュミレーション通りにはいかなかった。

でも、唇やわらかかったなあ。

文彰はそう思うと、指を自分の唇に当て、先ほどの哲稀の感触の余韻に浸った。


もう哲稀はここでDANCEしないかもしれない。

そしたら、廊下で、今まで興味の無かった生徒総会で、哲稀を目で追えばいい。

彼はひとりでいることが多い。

必ず見つける。

チャンスはまだある。

哲稀の声はハスキーだった。

あの声が喘いだら、良く啼いたら、どんなだろう?


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