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第4話 少年、挫けずに頑張る

 人間という生き物は、自分に対してあまりにもショックな出来事が起きた場合に思いも寄らない行動をとる場合がある。

 

『ゴブリンA、B、スライムが現れた!』

「……ブツブツ」

「ギィィィ!」

 

 それは物に当たったり、幼児退行を起こしたり、突然叫びだしたりする事が多い。

 

「……!」

 技能《一文字切り》

「ギィィィイ!」

 

 少年の手によって繰り出された剣は、風を切り裂き、激しい一撃をモンスターの集団へと叩きつけ、ゴブリンAとBは、防御に繰り出した棍棒諸共切り裂かれて少年の経験値へと還元される。

 

 どうやら浩二少年の場合は、運動による発散であったようだ。

彼は現在、始まりの森で生気の感じられない虚ろな眼になりながら、ひたすら雑魚敵狩りを敢行していた。少年自身はコマンドを指定するだけで自動で戦闘は行われるため、楽といえば楽ではあるだろう。

 

 最後に残っていた瀕死のスライムを通常攻撃で切り倒すと、戦闘終了を知らせるファンファーレが鳴り、彼の目の前にリザルト画面が現れる。さらに、レベルアップを知らせる別のファンファーレが鳴り響いた途端、瞬く間に浩二少年の眼に生気が戻った。

 

「よし!これだけレベル上げれば十分だろう」

 

 意外にも、少年は挫けてなどいなかった。少年の眼に生気が宿っていなかったのは、コマンドをひたすら入力するレベル上げ作業が辛かっただけのようだ。

 

 今日は、浩二少年が自分のVR環境がオフラインである事を知り、血の涙を流したあの日から実に一週間が経った日である。

 

 浩二少年は初めの3日ほどはショックで落ち込んでいたのだが、貧乏性かはたまたゲーマーとしての意地なのだろうか、この「タブーシードストーリー」をクリアしようと、再起動したのだ。

 

 それからは、初めの森のモンスターを狩り尽くさんばかりの勢いで経験値稼ぎに没頭し、現在へと至ったのだ。彼のステータスは今、この様になっている。

 

 勇者:KOU

 LV15

 HP 145

 MP 98

 攻撃力35

 防御力35

 敏捷値27

 精神値24

 回避率6%

 

 レベルアップにより、技能もいくつか覚えていた。先ほど使用していた一文字切りも技能の一つである。一文字切りは、斬撃タイプの全体攻撃技だ。消費MPは8であり、とても使い勝手が良くモーションが格好いいため、少年のお気に入りの技である。

 

 リザルト画面が消えると、少年はおもむろにメニューを呼び出し、あるアイテムを取り出した。

 

『スライムの羽』


 このアイテムは名前で分かる通り、スライムがドロップするアイテムである。使用効果は、行ったことのある町まで使用者を転送するという便利なアイテムである。

 

 実はこのアイテム、浩二少年が初めて取得した時に、スライムに羽が生えているのなのかと考え苦しみ、アイテム詳細を開いて状況を打開しようとしたが、状況という火に油を注いだだけで、遂には地面に倒れ込み、見苦しく悶えさせられた一品である。

 

 ちなみにアイテム詳細にはこう記してあった。

 

『スライムの羽』

 薄い黄緑色で、プルプルしています。

 少しひんやりしており、食用は可能、食感はコリコリしていて、大変美味。

《使用効果》

 一度行ったことのある町に転送されます。町は指定可能。

《使い方》

 行きたい町を思い浮かべながら地面へ叩きつけるだけ。

 

「何なんだこの説明欄は……!結局これって何なんだ?回復アイテムなのか?それとも使用アイテムなのか?どっち何だぁぁ!!」


 そうやってしばらく悶えてから一度使用してみたら、普通に転移アイテムだったため、浩二少年は今後一切アイテム説明については細かく考えることを辞めることにしたそうな。

 

 そんな浩二少年の苦悩話を語っている内に、少年はスライムの羽を地面に叩きつけ、ドナハンの町へ転移した。どうやら体制を一度立て直してからボスに挑むようだ。

 

 

 ※※※

 

 

「いよいよ初めてのボスだ、しっかりと準備しないとな!」

 

 誰も返事をしてはくれないけれど、商店でアイテム補充しながら思わず口にしてしまった。店主は相変わらず物を買う度に

 

「回復の種は十分持ちましたか?」

 

としつこく聞いてくる。既に回復の種はストック99となっとります、店主さん。

 

 しっかし、レベル上げは本当に辛かった……精神的に。肉体は、ほら、勝手に動くし、楽だし、コマンドを延々と打つ方が辛いに決まっているよ。

 

 そうそう、動きといったらこのゲーム、すごく動きが多いね!いや、コマンドゲーなのに何言ってんだお前、とか思うかもしれないけれど本当に多いんだよ。


 まだ森にいるゴブリンとスライムとしか戦っていないけれど、通常攻撃だけでそれぞれに6、7通りの攻撃パターンがあるんだ。ゴブリンに対しては横なぎに切ったり、袈裟切りをしたりするんだけれど、スライムに対しては剣の柄で叩いたり、蹴り飛ばしたりするんだ。

 

 モンスターに対応して攻撃方法を変えるのはすごい凝っていると思う。普通は切りかかって終わりだからね。

 

 このモーション考えた人は素直に凄いと思うけど、願わくば自分で動きたかった!自分で動いてのアシストでこのモーションが働くとかだったら絶対爽快感が凄いもん。

 

 まあ、自動でも十分楽しいから良いんだけどね。そうそう、レベル上げして、ずっと同じ攻撃行動したからなのか、少し体が動きを覚えちゃったよ。自分の部屋でなんとなくプラスチックバットを持ったときには思わず体が動いた時には自分でもビビった。


 でも、現実じゃこんなに身体能力高くないから動きに体が追いつかないし、そんなに意味は無いかな。ちくしょう、こんな動き覚える余力があるなら、英単語を一個覚えた方が遙かに有益な気がしてきた。

 

 ぐちぐちと他愛のないことを考えていたら不意にアラームが鳴りだした。もうそんな時間か、ログアウトしないとな。

 

 親との約束でゲームは6時までとなっている。メニューを開いてアラームを止めると時間は5時55分となっていた。そういえば少しは夏休みの宿題減らさないといけないなと思いつつ、買い物を済ませて宿屋へと向かった。明日は初ボス戦、楽しみだ。

 

 

 ※※※

 

 

「っと、アイテムは……有るね、よし!」

 

 今、僕は何処にいるかと言うと、森の一番深い所にあった明らかにボスエリアっぽい遺跡の入り口に立っている。レベル上げ作業に没頭して森を進んでいたとき見つけたんだよね、この遺跡。

 

 まあ、例のごとく見えざる壁ナビゲートによって誘導されたから見つけざるを得なかったんだけどね。

 

 しっかし分かりやすい。明らかに見えてはいけないオーラ的な物が遺跡の至る所から出ているもん。ボス、確実に居るねここ。アイテム確認も終わって、ふと時間を確認したらPM9:00と表示されていた。


 え?お前宿題している素振りが無いだって?失礼な!3分の1は終わらせてます!夏休みはあと半分だけど……。夏休みの残りの少なさに気落ちしながらメニューを仕舞ったら、すぐになんだかワクワクしてきた。初のボス戦、楽しみじゃないはずがない。


「よし!行くか!」


 さあ、遺跡探索の始まりだ!!待ってろよ!遺跡の中の強者達よ!そう意気込んで遺跡の中へと足を踏み入れた。



※※※



「えぇ~……」


 現在、僕は猛烈にテンションダダ下がり中だよ……何でだよ……何で入ってすぐボスの間なんだよ……レアアイテムの入った宝箱は?チョイ強い新モブモンスターは?侵入者を苦しめるトラップは?隠しエリアは?


 ……無い!目の前には何かの種みたいなマークの刻まれた大きな石の扉しか無い。畜生!あっさり過ぎる!!さっさとボスを倒して、パーティーを組んで、次の町に行こう。それが良い。そうと決まったら早速行動だ。目の前の扉を開けようと近づくと、勝手に扉が開きだした。おおう、ハイテクですな。


 扉が開ききり、僕はボスの部屋へと入って行った。中は意外と広く、あたり一面苔やら蔦やらに覆われていた。


「……ボスは何だろうな?」


 遺跡と言えば大きな蜘蛛やらゴーレム的な物が多い気がするけど、どんなボスが来るだろうか?

 なんて思っていたら、突然目の前が大きな影に覆われたかと思うと、


「グォォォォォォ!!!!」

「いぃ!?」


 とんでもない大きさの咆哮が上がった。それに伴って、勝手に足が震える。

 これはヤバい、洒落にならないくらい、怖い。


感想、批評、誤字訂正などがありましたら、遠慮なくお願いします。


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