第2話 少年、初戦闘を行う
自分の意識が電気信号となってVR機へと転送され、しばらくは真っ暗な世界に飲み込まれていて、不意に目の前が急に明るくなると、僕は神殿のような場所にいた。
服装は遊牧民みたいなもので、ゲーム開始地点としてはありがちだなーと思っていたら、
「お、おぉ!神託の通り、勇者様が降臨なされた!」
なんて声が聞こえたから、声のした方を向いてみると、いかにもにも賢者みたいな出で立ちの老人が立っていた。その老人はすごく興奮した様子で
「勇者様!どうか、この世界を御救いください!あの呪われた種を封印できるのは、勇者様だけです!」
などと言いながら詰め寄ってきた。なるほど、召喚された勇者もといプレイヤーが、呪われた種を封印するのが目的なんだ。とりあえず首を縦に振ったら老人が嬉しそうに、
「ありがとうございます!これは餞別です、どうかお受け取りください!」
そう言いながら袋を渡してきた。老人から袋をもらうと、チャリーンという音が聞こえて袋が消えた。
どうやらお金だったみたいで、目の前にに『500ゴールド取得』という文字が出ているウィンドウが出てきた。やっぱり先立つ物がないと大変だもんね、なんて考えていたら
「この神殿を出たらすぐ近くに町が見えます、そこで装備などをお揃えくださいご自分のステータスはメニューを開いて項目を選択すれば確認できます。メニューは呼び出せば開きますぞ、それでは、お気を付けて……」
そう言い残して老人はスッと消えた。老人はNPCだったみたいだ。
僕は老人に言われた通りに試してみることにした。
「メニュー」
そしたら、音もなく目の前に半透明なウインドウが現れた。急に出たからちょっとビックリしたのは黒歴史としておこう。とりあえずステータスを確認してみると、
勇者:KOU
LV1
HP 100
MP 95
攻撃力10
防御力10
敏捷値25
精神値15
回避率5%
こんなステータスだった。まあ、平均的かね。
そう言えばさっき突っ込み損ねていたけれど、プレイヤーの数だけ勇者が居たら、敵からすると無理ゲーだよね、まあ、オンラインだし、種を封印した者が真の勇者だ!みたいな感じなんだろうね。
よし、ずっとここにいても仕方がないから、町に行ってみよう。
もしかしたら他のプレイヤーと早速パーティが組めるかもしれないな!と期待を胸に町へと僕は向かった。
※※※
「おお!以外と大きい!」
いま、目の前には西洋の城下町と言った雰囲気の町が広がっていた。すげえ。
テンションが上がりつつ、町に入ろうとしたら
「ドナハンの町へようこそ!」
と、入り口近くの草原に立っていた茶髪ロングのお姉さんが話しかけてきた。
この人もNPCなのかと思い、近付こうとしたらゴスッと見えない壁みたいな物にぶつかった。
「痛い!え?何これ?」
もう一度お姉さんに近付こうとしてもやはり壁みたいな物にぶつかった。少し下がってゆっくり進んだら、つま先が草の生えていない道から、草の生えている所に出る直前に見えない壁にぶつかった。
「何でだ?」
何度か試してみたけれどバグって訳じゃ無さそうだ。も、もしかして、プレイヤーって決まった道しか歩けない……?
「い、いやいやいや!きっと偶然だ、そんな自由度低かったらVRの意味ないじゃないか!」
はははは、あのお姉さんの所だけ行けないんだきっと、さっさと町に入ろう!そうしよう!
半ば現実逃避気味に僕は町へと早足で向かったけれど、しばらくは後ろからずっと
「ドナハンの町へようこそ!」
と聞こえていた……。
町は煉瓦づくりの建物ばかりですごく綺麗だった。どこからともなくおいしそうな臭いもする。でも、一つ気になった。みんな、道の端で立っているだけで道を歩いていない。何か寂しい!
話しかけても反応しないし、ここには僕の他にプレイヤー居ないのかな?そう不安になっていたら、市場らしい場所が見えてきた。とりあえずは、道具やら装備揃えないと。もしかしたらプレイヤーが居るかもしれないし。そう思って不安をかき消しつつ市場へ足を向かわせた。
※※※
この町、物価が安い!鉄の剣が100ゴールド、皮の鎧が150ゴールド、回復の種が一粒5ゴールドで、回復の種は50粒買った。鉄の剣と皮の鎧は攻撃力と防御力をそれぞれプラス10で、回復の種は一粒噛むとHPが150回復するアイテムだった。この世界では種が重要なアイテムみたいだ。
これで財布はスッカラカンになったから、これからは腕で稼いでいかないといけない。
市場で仕入れた情報によると、市場を抜けた先にある森で最近魔物の活動が活発化しているらしい。
これは呪われた種の影響だとか何とか。お金と経験値稼ぎついでに、少し様子を見に行ってみよう。
市場にも他のプレイヤーが居なかったから寂しくて、森の方に行ったら居るかもしれないなんて思ってないからな!
※※※
森にはあっという間にに着いた。町を出てすぐに見えたから迷いもしなかった。
森の中は薄暗くて迷いそうだったけれど、道から逸れそうになったら見えない壁ガードが発動したから無事だった。見えない壁、超便利!……森なのに一本道とは如何に。
そんな事を考えていたら、急に目の前がグラリ、と歪みだし、二つの影がその歪みからで出て来た。
緑の肌、醜い顔、頭から生えている曲がった角、僕の半分くらいの身長、間違いない、ゴブリンだ。
『ゴブリンA,Bがあらわれた!』
「キシャー!」
初エンカウントに僕は興奮した。さすがはVR、すごくリアルなグラフィックだ!すぐさま戦闘態勢を取るために、僕は腰に吊っていた剣を引き抜いて構えた。ここまでは良かったんだ、ここまでは。
問題は、剣を構えた途端に頭上と左手辺りに表示されたウィンドウだ。うん、おかしいね。
頭上のウィンドウには、勇者KOU LV1 HP100 MP95の文字が標示されている。
HPとMPがバーで標示されていないのは気になったけれど、それ以上に気になったのは左手の方だ。スキルか道具を使用するウィンドウかと思ったんだけれど、違うみたいなんだ。だって、選択肢が
戦う 逃げる おまかせ
だったんだから。
思わず構えを解きそうになったけれど、左腕と頭は動いたけれど、体が動かなかった。徐々に嫌な予感がしてきて、恐る恐る左手で選択肢の 戦う を選ぶと今度は
攻撃 技能 防御 道具
に選択肢が変わった。嫌な予感が的中してしまった。このゲーム、『タブーシードストーリー』は……
「コ、コマンドゲー……だと!?」
何てこった!これじゃあVRの意味無いじゃないか!
僕は頭を抱えたくなったけれど、いかんせん身体が動かないから左腕でしか抱えられなかった。
この状況では、どうするにしても、目の前にいる雑魚を片付けるべきだ。そう思い直して僕は、攻撃を選択し、対象はゴブリンAとした。
その瞬間、視界がぶれた。
「へ?――――」
ゴブリンに攻撃されたのかと焦ったけれど、違った。僕の体が勝手に動いていたんだ。剣を構えて姿勢を低くし、風を切るように疾走してゴブリンAとの距離を縮め、あっという間に鉄の剣でゴブリンAを逆袈裟切りに切り裂いていた。
「ギギィ!?」
切り裂かれたゴブリンは真っ二つになりながら空中に吹き飛び、あっけなくそのまま消えた。
攻撃を終えた僕は、また勝手にさっきまで立っていた場所に後ろ向きに跳んで戻った。
どういうことなんだ?攻撃を選択したら、勝手に体が動いてゴブリンを攻撃し、元の場所に戻ってきた。戦闘中の行動は、コマンドを選ぶ事以外は全部オートってこと?
「これじゃあ本当にコマンドゲーじゃないか!!」
思わす出た僕の叫びには誰も答えず、返事の代わりにゴブリンBの棍棒が襲いかかってきた。
「キシャー!」
「うわっ!」
僕は避けようとしたけれど体は動かなく、もろに棍棒を食らう。鈍い打撃音の後に、響くような痛みが右肩に襲いかかった。
「痛ぅぅ……」
洒落にならない、正直こんなに痛いとは思わなかった。
リアルすぎる痛みに思わず涙目になりつつ、HPを確認したら、HPは85に減っていた。
あの痛みで15ダメージ……だと!?しかも任意では敵の攻撃を避けられず、避けるには回避率に祈るしかないみたいだ。
何という仕様なんだ、このゲーム。始める前に説明書読んでおけば良かったなぁ……。
いかんいかん、余計なことを考えすぎだ。今は戦闘中なんだから、ゴブリンがまた襲いかかって来るんじゃないかと思って身を強ばらせたけど、襲ってくる気配は無かった。
……幸いなことに、リアルタイムなコマンド仕様じゃなく、ターン制のコマンド仕様みたいだ。
僕はまた、攻撃を選択した。今度は疾走しながら跳躍し唐竹割りだったかな、そんな風な切り方で脳天から真っ二つにし、ゴブリンBを倒した。あ、ちょっと爽快かもしれない。
軽いファンファーレが鳴って、戦闘終了を知らせた。目の前にリザルト画面が出てきて、獲得経験値とドロップアイテム、獲得ゴールドが表示された。
経験値は100、レベルアップまでは後900だ。ドロップアイテムは無しで、獲得ゴールドは50ゴールドだった。リザルト画面が消えた途端に体が自由になったので、僕はその場に座り込んだ。
「武器や防具にはお金かけておいた方が良いな……痛いの軽減できそうだし」
僕の少し情けない呟きは、森の中へと静かに溶け込んだ。
※※※
ひとまず僕はログアウトするために、町にあった宿屋へと戻った。宿屋は体力回復以外に、セーブとログアウトが出来るからだ。女将さんに宿代の10ゴールドを払って、部屋に案内してもらった。
何だか色々有りすぎて疲れた。ボフッとベッドに倒れ込んだら、メニューが現れて体力回復をするか、セーブしてログアウトするか聞かれたため、僕は迷わずログアウトを選んだ。
しばらくしたら、少しずつ意識が遠くなっていき、僕はログアウトした。
感想、批評、誤字訂正などがありましたら、遠慮なくお願いします。