『ヴォイ』
気づくと、目の前に星があった。
いや、目の前に、というのは間違っている。
あの、星も、ここから何光年離れているのか想像もつかない。
だが、地球から見えるものとは比べ物にならないくらい大きいのは確かだった。
私は黒い空間の中に浮かんでいた。
私は宇宙服を着ていた。
何故、何のためにここにいるのかは分からない。
それでも、不思議と不安はなかった。
振り向くと、直ぐ側には黒い円がある。
……ブラックホールだ。
そう理解した。
手を小さく動かすと、それだけで身体がゆっくりと進む。
ゆっくり、ゆっくり。
誘われるようにブラックホールへと潜ってゆく。
そして視界が暗転し……
———ねぇ、ドクター。
その直前に声が聞こえた。
……何故、彼女の声が——
「——おーい、ドクター。起きて、起きてー」
まだ幼さが少し残る、あどけない声が聞こえる。
朧気だった意識が、だんだんと明確になり、ゆっくりと思考が回転し始める。
——よしてくれ。俺はまだ寝たいんだ。
そう思ったところで、向こうは納得してくれる筈もなく。
「ドクター、早く起きないと、昨日の研究データに誤字を大量に紛れ込ませる。」
「………。」
馬鹿め。世の中にはバックアップというものがあるのだ。
「もちろんバックアップもね」
だがしかし、それも対策済みだ。
本命は……
「あっ、本棚に挟んであったUSBメモリも——」
「……起きた。」
「うん。起きたね。でももっと早く反応してよ。」
……誤字だけは、あの、陰湿な誤字だけは止めてくれ。
書き直すのと同じくらい面倒なんだ。
「……おはよう」
「はろー、ドクター。……ねぇねぇ、かの天才、アインシュタインが特殊相対性理論を発表したのは何歳の頃か知ってる?」
「なぁ、俺もう寝ていいか?」
ガン無視する。
こいつと話すだけで無駄に体力を持っていかれる。
「んー、不正解。正解は26歳の時よ。……もしかして先週の悪戯のこと、まだ怒ってる……?」
ひっじょーーーに面倒くさい性格の裏腹、その容姿は非の打ち所がない。
白磁のようにシミ1つない肌に、真っ直ぐに下ろした長い黒髪。
日本の慣用句で並べるなら、容姿端麗、明眸皓歯、歩く姿は百合の花——というところだろうか。
……要するに無駄にビジュが良い。
「ドクター、また寝たら……頭に電極ぶっ刺すよ。」
彼女の名前はヴォイ。
俺の義理の娘であり、
若干16歳にして、国際宇宙研究機構『AIOS』の科学者兼、技術者兼、航行宇宙士。
……そして、自他共に認めた、世界最高の頭脳を持つ天才である。
素人が作ったなんちゃってSFです。
一応続きも書いていますが、更新は不定期になると思います。
誤字や誤用などおかしな部分もあると思いますが、ご指摘いただけると幸いです。
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