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土曜日、朝四時半

作者: かな
掲載日:2026/05/16

 ひんやりとした、少し水気を含んだ空気が顔に触れる。雨はもう止んだ。見慣れた街は、いつもと違って静まり返っている。夜のような空気がまだ残る、明けていないようなはやいはやい朝。車も人も姿が見えない。無機質な信号機の点滅だけが、時間が動いていることを伝えてくる。私だけが歩いている。


 肩から斜めにかけた大きな鞄には、念のために、が詰まっている。鞄が服と擦れ、カサ、カサ、とテンポ良く響く。小さな音だけど、この静かな街では大きく感じる。街の静寂に相反する私のリズム。いつもバスの中から見下ろしている通りを歩いて行く。景色の流れが随分ゆっくりに感じる。行き先はいつもと違うけど、まだ地図はいらない。ひとりの時間は頭の中から湧き出てくるものがよく聞こえる。


 友人に連絡を入れたいな。彼女は起きているだろうか。まだかな。起きていても、準備の邪魔になるかも。遅刻の心配はしていない。ただ、スキップをしたくなるようなこの気持ちを共有したい。彼女も同じ気持ちだと嬉しい。送らないけれど、自分の中に留めておけない感情が、歩幅を大きくする。前方からゴロゴロと、スーツケースの転がる音。反対側の歩道の少し先の方に人影が見える。ふたり。


 彼らは泊まりがけの旅行だろうか。こんな場所から一緒にいる。同じ家から出てきたんだろうな。私も早く合流したい。会うまで語れない気持ちが溢れそう。


 カサカサ、カサカサ、テンポが上がる。日帰りの身軽さで抜いていく。坂道で早歩きなんてしてるから、息が上がってる。それでもテンポは落ちない。早く着いたって待ち合わせの時間が変わるわけでも無いのに、早く辿り着きたくて仕方が無い。今日は長い日だから、体力は温存しないといけない。わかってる。でもきっと大丈夫。疲れてもずっと楽しい日になる。予感じゃ無くて確信している。理性なんてどこかに吹っ飛んだようで、荒い息で歩き続ける。そもそも始発なんだから、そんなに急いでも意味ないのに。いつもの調子で一本前の電車に乗れるかも、なんて思ってからやっと気付く。


 ほんの少しだけ、テンポが落ち着いた。駅はもう目前。落ち着くのが遅かったかな。こんなに興奮していても、電車の揺れは眠りを誘うのだろうか。わからない。今日初めて知ることの一つだ。始発なら座れるだろうな。座ったら寝るかな。いつもは寝ている時間だし。興奮が大した意味の無いことをずっと考えさせる。脳がずっと回転しているみたい。

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