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売れ残りの花をもらった日【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/03/18

花をもらってみたいというのは、我儘なんだろうか。


「この前は、ネックレスをいただいたんです」

「いいですわね〜!私は毎回花なんですよ。花を渡せばいいと思っているんだから」

「私なんて領地の名産品ばかりですよ、もう少し考えて欲しいものですよね?」

「わかります。殿方ってどうしてこう一辺倒なのかしらね」

みなさんそう言いながらも、自慢のような嬉しさが滲み出ている。


…もらえるだけいいじゃないと思ってしまう私は、性格が悪いかしら。


「アリッサ様は、何をもらうんですか?」

「…私も、お花をいただきますよ」

私は悟られないように平然と嘘をついて笑ってみせた。



「ふう、疲れたわ…」

帰ってくるなりソファーに座って寝そべった。


「アリッサお嬢様、お行儀が悪いです」

「見逃してちょうだい…。嘘をつくのも大変なの」

「…また、婚約者様のお話ですか?」

「ヘクター様から贈り物なんてもらったこともないのにね」

「お嬢様は一度文句を言った方がよろしいかと思います」

「ふふふ、だめよ。婚約しただけでも有難いお話なんだから」


ヘクター様とは、もちろん政略結婚前提の婚約中だ。

我が家の益も大きいので、下手に逆らったりしたらあとがない。

贈り物がないだけで、蔑ろにされているわけではない。

必要な時はエスコートしてくださるし、定期的に顔も合わせている。


「これ以上望むのは、罰当たりよ」

私はうまく笑えていなかったのかもしれない。

侍女が複雑そうな顔をしていたから、家の中とはいえ気を抜きすぎてしまったかも。


「アリッサ嬢、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、観劇に誘ってくださいましてありがとうございます」


ほらね、ちゃんとよくしていただいているわ。


今流行りの劇は悲恋もので、主人公は好きな人とは結ばれなかった。

互いに思い合っていたけれど、家のために違う相手を選んでいた。

貴族としてそんな当たり前のことが劇になって、巷で流行っている。

私には、その理由がいまいちわからないまま、劇は終わった。

連れて来てくださったのに、面白くなかったなんて思いたくなかった。



「このあとはどうされますか?」

「明日、早朝に登城しないとなりませんので」

「…あら、それはお忙しいのに誘ってくださってありがとうございました」

「劇はいかがでしたか?」

「…とても素敵でした。皆さんが観に行ったと言っていらしたから観に来たかったんです」

「それはよかったです」


大丈夫、ちゃんと笑えているはず。


馬車に戻る途中で、花売りの少年が見えた。

花屋に売っている立派なものではなくて、行き交う人たちの目には入っていない。

あれでは売れ残ってしまうだろう。

カゴに入った花が夕方なのもあり、萎れている気もする。


なんだか、私みたい…。


「どうかしましたか、アリッサ嬢」

「あ、いえ、お花を売っている少年が、可愛らしいなと思いまして」

「…ああ、あんな貧相な花じゃ誰も買わないでしょうね」

「そう、ですね…」

ヘクター様の腕にかけている手の力が入ってしまいそうになった。


ぼんやり少年を見ていると、目が合った。


「あっ、綺麗なお姉さん!お花、いかがですか?」

「君、近寄らないでくれたまえ」

ヘクター様はその子に厳しい声掛けをした。

貴族としては、おかしな行動じゃない。

信用できるかわからない人物を、わざわざ近づける意味はない。

それがいつもなら気にならないはずなのに。


…ううん、『気にしないように』心がけているだけね。


「坊や、1輪いくらかしら?」

「…アリッサ嬢?」

「えっと、本当はお金をもらうんですけど、お姉さんにあげますっ!」

「…えっ、そんな悪いわ」

「ううん!お姉さんだけは僕と目を合わせてくれたから!」

カゴいっぱいの花を全部まとめてリボンをかけると、少年は嬉しそうに手渡してくれた。


「はい、お姉さん。声をかけてくれてありがとう!」

私はヘクター様から手を離して、ゆっくり両手で受け取った。

花束とは言い難いが、間違いなくはじめて異性からもらった花だった。


…どうして、今叶っちゃうのかしらね。


「お、お姉さんっ、どうしたの!?」

少年の慌てた声に、私は自分が涙を流していることに気づいた。


「君、何をしたんだ?」

「えっ、僕なにも…!」

ヘクター様が少年の胸ぐらを掴みそうになって、私は間に入った。


最近、心から笑えた日なんてなかったから、私上手に笑えているかしら。


「ありがとう、坊や。今ね、すっごく嬉しいの」

「…僕、何かしちゃいましたか?」

「ううん、お花をプレゼントしてくれただけよ。それが、嬉しかったの」

「売れなかった花だよ?」

「自分のためだけの花をもらうのが夢だったから、坊やが叶えてくれたのよ。どうもありがとう」

私がそうお礼を言うと、少年は驚いたように頭を掻いたけど、はにかんでくれた。


「綺麗なお姉さんには、薔薇とかが似合うよ」

「ふふ、この花が一番よ」


ヘクター様は何か言いたげにしていたけど、私は晴れやかに「帰りましょう」と言って馬車に向かった。





お読みくださりありがとうございました!  毎日投稿77日目。

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