売れ残りの花をもらった日【2000文字】
花をもらってみたいというのは、我儘なんだろうか。
「この前は、ネックレスをいただいたんです」
「いいですわね〜!私は毎回花なんですよ。花を渡せばいいと思っているんだから」
「私なんて領地の名産品ばかりですよ、もう少し考えて欲しいものですよね?」
「わかります。殿方ってどうしてこう一辺倒なのかしらね」
みなさんそう言いながらも、自慢のような嬉しさが滲み出ている。
…もらえるだけいいじゃないと思ってしまう私は、性格が悪いかしら。
「アリッサ様は、何をもらうんですか?」
「…私も、お花をいただきますよ」
私は悟られないように平然と嘘をついて笑ってみせた。
「ふう、疲れたわ…」
帰ってくるなりソファーに座って寝そべった。
「アリッサお嬢様、お行儀が悪いです」
「見逃してちょうだい…。嘘をつくのも大変なの」
「…また、婚約者様のお話ですか?」
「ヘクター様から贈り物なんてもらったこともないのにね」
「お嬢様は一度文句を言った方がよろしいかと思います」
「ふふふ、だめよ。婚約しただけでも有難いお話なんだから」
ヘクター様とは、もちろん政略結婚前提の婚約中だ。
我が家の益も大きいので、下手に逆らったりしたらあとがない。
贈り物がないだけで、蔑ろにされているわけではない。
必要な時はエスコートしてくださるし、定期的に顔も合わせている。
「これ以上望むのは、罰当たりよ」
私はうまく笑えていなかったのかもしれない。
侍女が複雑そうな顔をしていたから、家の中とはいえ気を抜きすぎてしまったかも。
「アリッサ嬢、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、観劇に誘ってくださいましてありがとうございます」
ほらね、ちゃんとよくしていただいているわ。
今流行りの劇は悲恋もので、主人公は好きな人とは結ばれなかった。
互いに思い合っていたけれど、家のために違う相手を選んでいた。
貴族としてそんな当たり前のことが劇になって、巷で流行っている。
私には、その理由がいまいちわからないまま、劇は終わった。
連れて来てくださったのに、面白くなかったなんて思いたくなかった。
「このあとはどうされますか?」
「明日、早朝に登城しないとなりませんので」
「…あら、それはお忙しいのに誘ってくださってありがとうございました」
「劇はいかがでしたか?」
「…とても素敵でした。皆さんが観に行ったと言っていらしたから観に来たかったんです」
「それはよかったです」
大丈夫、ちゃんと笑えているはず。
馬車に戻る途中で、花売りの少年が見えた。
花屋に売っている立派なものではなくて、行き交う人たちの目には入っていない。
あれでは売れ残ってしまうだろう。
カゴに入った花が夕方なのもあり、萎れている気もする。
なんだか、私みたい…。
「どうかしましたか、アリッサ嬢」
「あ、いえ、お花を売っている少年が、可愛らしいなと思いまして」
「…ああ、あんな貧相な花じゃ誰も買わないでしょうね」
「そう、ですね…」
ヘクター様の腕にかけている手の力が入ってしまいそうになった。
ぼんやり少年を見ていると、目が合った。
「あっ、綺麗なお姉さん!お花、いかがですか?」
「君、近寄らないでくれたまえ」
ヘクター様はその子に厳しい声掛けをした。
貴族としては、おかしな行動じゃない。
信用できるかわからない人物を、わざわざ近づける意味はない。
それがいつもなら気にならないはずなのに。
…ううん、『気にしないように』心がけているだけね。
「坊や、1輪いくらかしら?」
「…アリッサ嬢?」
「えっと、本当はお金をもらうんですけど、お姉さんにあげますっ!」
「…えっ、そんな悪いわ」
「ううん!お姉さんだけは僕と目を合わせてくれたから!」
カゴいっぱいの花を全部まとめてリボンをかけると、少年は嬉しそうに手渡してくれた。
「はい、お姉さん。声をかけてくれてありがとう!」
私はヘクター様から手を離して、ゆっくり両手で受け取った。
花束とは言い難いが、間違いなくはじめて異性からもらった花だった。
…どうして、今叶っちゃうのかしらね。
「お、お姉さんっ、どうしたの!?」
少年の慌てた声に、私は自分が涙を流していることに気づいた。
「君、何をしたんだ?」
「えっ、僕なにも…!」
ヘクター様が少年の胸ぐらを掴みそうになって、私は間に入った。
最近、心から笑えた日なんてなかったから、私上手に笑えているかしら。
「ありがとう、坊や。今ね、すっごく嬉しいの」
「…僕、何かしちゃいましたか?」
「ううん、お花をプレゼントしてくれただけよ。それが、嬉しかったの」
「売れなかった花だよ?」
「自分のためだけの花をもらうのが夢だったから、坊やが叶えてくれたのよ。どうもありがとう」
私がそうお礼を言うと、少年は驚いたように頭を掻いたけど、はにかんでくれた。
「綺麗なお姉さんには、薔薇とかが似合うよ」
「ふふ、この花が一番よ」
ヘクター様は何か言いたげにしていたけど、私は晴れやかに「帰りましょう」と言って馬車に向かった。
了
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