作られた絶望
コンテナヤードの奥、錆びついた扉の向こうに隠されたのは、馬島が用意した安息の地などではなかった。
そこに並んでいたのは、無数の巨大なモニターと、カプセルの中で眠る「俺たち」のクローンだった。 モニターには、これまでの三十一回の死に様が、あらゆる角度から記録され、数値化されている。
……何よ、これ。
母さんが震える声で呟き、膝から崩れ落ちた。 俺は、自分の脳が焼き切れるような衝撃に襲われた。 死に戻りなどではない。 俺たちは、この施設で作られた実験体として、何度も「夜逃げというシチュエーション」を強制的にシミュレートさせられていたのだ。
美咲の力も、馬島の裏切りも、すべては計算の内だった。
絶望、という言葉では足りない。 俺が必死に繋いできた三十一回の記憶さえ、奴らにとってはただの「データ収集」に過ぎなかった。
ようこそ、三十一号。 今回の君の動きは、実に興味深かったよ。
天井のスピーカーから、感情の欠落した男の声が響く。 と同時に、施設の照明が一斉に赤く染まった。 超絶望――。 本当の地獄は、ここからだった。
美咲!
俺が叫ぶより早く、天井から降りてきた機械のアームが、熱を出して倒れている美咲を強引に拘束した。 美咲の能力、現実改変。 奴らの真の目的は、絶望の極致でその力を最大化させ、兵器として完成させることだった。
お兄ちゃん、助けて……!
美咲の悲鳴が、現実に亀裂を入れる。 施設の壁が捻じれ、コンクリートが飴細工のように溶け始めた。 美咲が願えば願うほど、この建物そのものが彼女の苦痛に同調して崩壊していく。
逃げなさい、良太!
母さんが、俺を突き飛ばして美咲の元へ走った。 だが、施設の床が開き、母さんの体は一瞬で暗黒の奈落へと消えていった。
ああ、あああああああッ!!
俺の叫びは、轟音にかき消される。 母さんは死に、妹は実験材料として溶解していく世界の一部になった。 そして俺の目の前には、拳銃を手にした「俺自身のクローン」が立っていた。
無表情な俺が、俺に銃口を向ける。 これが三十一回目の結末。 これまでで最高の、最悪の、完璧なバッドエンド。
意識が遠のく中、スピーカーの男が満足げに囁いた。
さあ、三十二回目を始めようか。 次はもっと、君を追い詰めてあげよう。
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