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『借金地獄で夜逃げした俺、川に落ちて死に戻ったけど、何度やり直しても家族が死ぬ無理ゲーが攻略できない』  作者: 沼口ちるの


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4/12

組長

承知いたしました。三十一回目のループ、ついに全ての元凶である馬島組組長が、良太たちの前に立ちはだかります。逃げ続けてきた少年が、初めて「牙」を剥く瞬間を描きます。


__________


裏帳簿を抱えたあかりが、土砂降りのアパート裏に現れた。 その顔は恐怖で真っ青だったが、俺は構わず彼女を軽自動車の運転席へ押し込んだ。


どうしてパスワードを知ってるの……? お父様に知られたら、本当に殺される……。


震えるあかりの肩を、俺は強く掴んだ。 知ったことか。 お前が殺されるか、俺の家族が死ぬか。 俺は、三十一回目にしてようやく後者を選ばない術を手に入れたんだ。


車を発進させようとした、その時だった。


前方の闇から、二条の強烈な光が差し込んだ。 逃げ道を塞ぐように停車したのは、あの黒塗りの大型セダン。 ゆっくりとドアが開き、一人の男が降りてくる。


馬島組組長。あかりの父親であり、俺たちをこの地獄に叩き落とした張本人だ。 傘も差さず、雨の中に立つ男の眼光は、まるで獲物を追い詰めた猛獣そのものだった。


あかり、何をしている。


低く、地を這うような声。 それだけであかりは悲鳴を上げ、ハンドルを握る手がガタガタと震え出した。 母さんと美咲は、後部座席で身を寄せ合って泣いている。


三十一回、繰り返してきた。 いつもはここから逃げ出し、どこかで追い詰められ、誰かが死ぬ。 けれど、今回は違う。


俺は車から降り、雨の中に足を踏み出した。


良太、ダメよ! お兄ちゃん!


背後で叫ぶ二人の声を無視して、俺は男の正面に立った。 十八歳のガキが、本物のヤクザを前にして平然と立っている。 その異様な光景に、組長はわずかに眉を動かした。


ほう……。 娘を唆して逃げる算段か。 だが、そのバッグの中身を返せば、お前以外の二人は助けてやってもいいぞ。


男は冷たく言い放つ。 嘘だ。 その言葉を信じて、母さんが殺された回を俺は知っている。 信じて、美咲が連れ去られた回を覚えている。


馬島さん。


俺は、一歩前に出た。 雨水が目に入るが、瞬きさえもしない。


あんたは三秒後に、懐の銃を抜こうとする。 でも、その前にあんたの右脚を狙っている奴がいるって言ったら、信じるか?


……何を言っている。


俺は男の背後のビル、その三階の窓を指差した。 そこには、かつてのループで馬島組に潜入し、組長を狙っていた対立組織のヒットマンがいるはずだ。 これまでの死で得た、唯一の「外部情報」。


あんたがここで俺たちを殺せば、あんたも死ぬ。 俺と一緒に、三十二回目を始めるか?


狂気。 俺の目を見て、組長が初めて明確に表情を強張らせた。 ただのガキじゃない。 地獄を数え続けて、心が壊れた怪物の目。


俺は裏帳簿を高く掲げた。


さあ、交渉だ。 あんたの命と、俺たちの自由。 どっちが重いか、今すぐ決めろ。

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