円環
爆光がすべてを飲み込み、施設の深層は跡形もなく消滅した。 美咲という心臓を失った「滅びた世界」のシミュレーターは、激しいノイズと共に崩壊していく。
これで、やっと終わったんだ。 俺も、美咲も、偽物の母さんも。 繰り返される地獄の円環から、ようやく抜け出せた。
純白の意識の中で、良太はそう確信していた。
だが。
……た、良太! 起きなさい!
心臓が跳ね上がる。 鼓膜を揺らすのは、聞き慣れた、憎たらしいほど優しい母の声。 良太は絶望に喉を詰まらせながら、ゆっくりと目を開けた。
視界に飛び込んできたのは、あの六畳間。 チカチカと点滅する、呪いのような蛍光灯。 スポーツバッグに荷物を詰める、生身の温かさを持った母の姿。
「……あ、あ、あああああ……ッ!!」
声にならない叫びが漏れる。 施設の自爆さえ、この「システム」を止めることはできなかった。 いや。 自爆したという「記憶」さえもが、新たな絶望を抽出するための「最高のスパイス」として、次のループに組み込まれたに過ぎない。
「良太、どうしたの? そんなに震えて」
母が心配そうに駆け寄ってくる。 ふと、その背後を見る。 部屋の隅に座る美咲は、虚ろな目で宙を見つめたまま、機械的に口を動かしていた。
_三、十、四、回、目……。
妹の意識は、もう戻っていない。 彼女は今や、壊れた人形のように回数をカウントするだけの装置に成り果てていた。
「さあ、良太。夜逃げの準備をして。今度はきっと、うまくいくわ」
母の笑顔。 窓の外からは、あざ笑うような激しい雨音が聞こえ始める。
坂口良太、十八歳。 彼が本当の意味で死を許される日は、まだ、遥か先のことだった。
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最後まで見てくださりありがとうございました。
途中からSFちっくになってしまいましたが、楽しんでいただきましたら幸いです。
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