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『借金地獄で夜逃げした俺、川に落ちて死に戻ったけど、何度やり直しても家族が死ぬ無理ゲーが攻略できない』  作者: 沼口ちるの


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壊れた世界

良太は、自分と同じ顔をした兵士の喉元にナイフを突き立てた。 噴き出す血の熱ささえ、もはや何も感じない。 「廃棄」という言葉を吐き捨てたクローンの銃を奪い取り、無機質なゲートを蹴破って施設内部へと突き進む。


警報が鳴り響き、赤い回転灯が視界を狂わせる。 だが、良太の脳内には三十三回分の「死の地図」が刻まれていた。 どの角に罠があり、どの扉の先に追っ手が潜んでいるか、理屈ではなく本能が理解している。


止まれ! 廃棄個体が!


前方から現れたクローン部隊が斉射する。 良太は迷わず、近くに積み上げられていた「自分自身の死体(予備サンプル)」を盾にして突撃した。 肉弾戦。銃声。怒号。 自分を殺し、自分を盾にし、自分を超えていく。 その光景は、地獄という言葉ですら生ぬるい。


良太は、最下層へと続くエレベーターの制御盤を銃底で叩き壊した。 強引に扉をこじ開け、数千メートル下へと続く奈落のワイヤーに飛び移る。


摩擦で手のひらの肉が焦げる。 骨が軋む音を聞きながら、良太は叫び声を上げた。


馬島ッ! そこにいるんだろ! 出てこいよ、この化け物!


底に辿り着いた良太を待っていたのは、巨大な培養槽が並ぶ円形の広間だった。 中心には、無数の管に繋がれた一人の少女。 美咲だ。 だが、その姿は良太の知る十五歳の妹ではなかった。


体中に機械のパーツが埋め込まれ、肌は透き通るほどに白い。 その瞳は虚空を見つめ、彼女の意識が「現実改変」の演算回路として使い潰されていることを示していた。


……みさ、き。


良太が駆け寄ろうとした瞬間、天井から巨大な機械の塊が落下してきた。 半身を戦車のような重機と合体させた、完全武装の馬島だ。


不完全なサンプルが、ここまで辿り着くとはな。 だが、そこまでだ。 その娘はもう、この世界の『再構築』を維持するための心臓そのものだ。 引き剥がせば、世界は形を保てなくなる。


馬島のガトリング砲が、容赦なく良太の足を狙って火を噴く。 良太は床を転がり、コンクリートの破片を浴びながら叫び返した。


世界なんて、とっくに滅んでるんだろ! そんなもののために、美咲を使い続けるなんて、俺が許さない!


良太は、奪った手榴弾のピンを歯で引き抜いた。 狙うのは馬島ではない。 美咲にエネルギーを供給している、背後の巨大なメインサーバーだ。


やめろ! それを壊せば、お前たちも、この施設も、すべて消滅するぞ!


馬島が初めて焦りの声を上げた。 良太は、血塗れの顔で、今日一番の冷たい笑みを浮かべた。


……ああ、知ってるよ。 三十三回繰り返して、ようやく分かった。 俺たちの夜逃げのゴールは、ここだったんだ。


良太は、美咲の瞳を真っ直ぐに見つめた。 機械仕掛けの瞳に、ほんの一瞬だけ、本当の妹の光が宿った気がした。


美咲。 ……一緒に、終わろう。


爆音。 視界が純白に染まる。 施設の崩壊と共に、良太の三十三回目は、かつてない規模の爆発の中に消えていった。


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