追憶
……た、良太! 起きなさい!
三十三回目。 いつもの六畳間、いつもの母さんの声。 だが、良太はもう騙されなかった。
彼は無言で立ち上がると、傍らにあった古びた木製の椅子を手に取り、全力で窓ガラスを叩き割った。
良太!? 何をするの!
母さん――いや、母さんの姿をしたナニカが、驚愕の表情で俺を見る。 俺はその顔を見つめ、静かに涙を流した。 目の前の母さんは、記憶も仕草も完璧だ。 でも、さっきの「死体の山」の頂上で、本物の母さんは死んだ。
ごめん。
良太は短く謝ると、割れた窓から外へと飛び出した。 二階からの着地の衝撃で足首が悲鳴を上げるが、止まらない。 背後で「アパート」という装置が、ガタガタとノイズを立てて崩壊していくのが分かった。
外に広がっていたのは、やはりあの荒野だった。 夜逃げの雨など降っていない。 ただ、赤い月が、錆びついた瓦礫の街を照らしている。
良太は歩き出した。 目指すは、地平線の彼方に見える、天を突くような巨大な塔。 あそこが、自分たちを管理している「実験施設」の本拠地に違いない。
道中、いくつもの死体を見た。 そのすべてが自分であり、美咲だった。 中には、俺と同じように目覚め、施設を目指そうとして力尽きた「過去の俺」もいた。 彼らの遺品を漁り、ナイフとわずかな保存食を手に入れる。
……美咲。 待ってろよ。
美咲はまだ、あの施設の中で「本体」として繋がれているはずだ。 この世界に、母さんのオリジナルはもういない。 三十一回、俺たちが愛した母さんは、すべてシステムが生成した幻影だったのだ。 その残酷な真実を、良太は胸の奥底に、焼け付くような痛みと共に刻み込んだ。
数日後。 喉は干らび、体は傷だらけになりながらも、良太は施設の入り口へと辿り着いた。 そこには、自分と同じ顔をしたクローンの兵士たちが、無機質な銃を構えて立っている。
止まれ、サンプル三号。 予定ルートを逸脱した個体は、その場で廃棄する。
無感情な警告。 だが、良太の瞳には、もう絶望さえ残っていなかった。 あるのは、燃えカスのような執念だけだ。
廃棄しろよ。 そのたびに、俺はまたここに来る。 お前らが俺の記憶を消しきれない限り、俺は何度でも、美咲を取り戻しに来るぞ。
良太はナイフを逆手に持ち、自分自身の顔をした兵士へと突っ込んだ。
本当の自分。本当の妹。 それを見つけ出すまで、俺の三十三回目は終わらない。
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