旅の始まり
「どこにいるの!?アヴァ!!返事してっ!」
「私はこっちを。リインは向こうをお願いします。日が落ちる前には。」
「わかったっ!・・・アヴァァっ!!!」
アヴァに私の叫びは届かない。まだ山の中にいる?分からない。おじいさんの家?どこにある。山を下ったのか?検討もつかない。私はどこに何があるかさえ知らない。小さな世界。二人でアヴァを探し続けたが、痕跡すら何も出てこない。
「アヴァァァ!!!」
何度も叫んだ。でも伝わらない。いつの間にか空は夕暮れに差し掛かる。声なんてとっくに枯れている。こんなにも私が望んでいるのに。彼女はどこにもいない。
「あの子は救われるべき人間。昨日の夜に出会ったのに。アヴァのことでいっぱいになる。心配になる。優しくて、可愛くて。きっと誰からも愛されるような。つらいこと沢山あったのに!!私も。こんなに好きになっている!なのに!!こんなの・・・あ!!ぐっ!」
草の根が足に絡まり躓いて、私は地面に顔と身体を擦りつけた。痛い。惨めだ。それに私は無力だ。そのことを嫌と言うほどに思い知らされた。わかったから。私が悪かったから。どうか。
「どうだい。アヴァの人生を理不尽だと思うかい?思うよね。」
突然、私に話しかけた声の主はアヴァでもバトランでも無かった。
「・・・カナイ。お願いです。アヴァがいる場所を教えて下さい。どこにいるんですか!」
「リイン。変なことを言うね。以前にあったじゃない。過去に。」
「仰っている意味が・・・。いや。・・・あ・・・。あ。あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああ!!!」
私は思い出した。あの空間で資料を手に取り、客人について確認しているとき。とある地域に訪ねた人の多くが、客人として招かれていることに私は一度、違和感を覚えた。でも、何も調べなかった。知ろうとしなかった。目の前の業務を遂行することに必死だった。
アヴァ。人気がある名前だ。だから同じ名前の人は多い。それがカモフラージュになっていた。あの空間でアヴァは私に、既に出会っていたんだ。
「転生の女神、リイン。ここは過去だ。過去を変える力なんて誰も持っていない。例外的にありし日の出来事に介入することが出来るのは転生した者のみだ。転生させる者ではないよ。」
そうだとしたら、アヴァは。
「アヴァはこの世界で亡くなったよ。死因は毒死ではなく溺死。この山を下ると湖がある。日常的に花の成分が溶け出した水で作られたパンを食べていたから、幻覚症状があった。朝、おじいさんとパンを食べるときに。症状はいつも夜には落ち着いていた。」
「キミに最初に出会ったとき、伝えてた願いは覚えてる?パン屋さんになること。何故だと思う?おじいさんは悪くないからだって。だから違う世界では美味しいパン屋さんをやるんだって。」
アヴァは知らない。少しずつオピの花の成分が混入したパンを食べる度に幻覚症状は現れ、身体を少しずつ蝕んでいったことを。彼女はこの地域の人間ではないのだから。一緒に食べた場合、幻覚症状に苛まれるのは一緒だが、彼女だけが解毒出来ない。僅かな毒は身体を少しずつ蝕んで、依存性を高めていく。幻覚症状がどんどん酷くなるのもアヴァだけだ。
生まれ故郷が違うだけなのに、一方は快楽を貪り、他方は弊害を享受する。
「キミは叶えてしまった。それは、間違いじゃないけれど。今、事実を知ったキミはどう思う?皮肉みたいな人生を歩ませることにならない?真の幸せなんて誰にも分からないけれど、それは最善の幸せかい?」
私は沈黙する。答えなかった。答えられなかった。
「人は判断を後悔する。神ってのはね。そういう人の判断による後悔を背負ってあげることが出来るんだ。神の判断によってね。気持ちが楽になる。もちろん、その神も後悔するんだけどね。」
その通りだ。今、私が流している涙に意味なんてない。後悔に涙を流すくらいなら、涙を流すくらいにもっと向き合えば良かった。
「・・・反省しました。もう神様なんて辞めさせてください。ううう。ごめんねぇ・・・。アヴァ。」
「カナイ様。やり過ぎです。リイン様。大丈夫です。」
バトランが私とカナイの間に割って入った。
「・・・大丈夫って?」
「小屋で眠ったとき。数時間してカナイ様が現れました。私はそこで全てを知りました。すみませんでした。黙っていて。確かに最近の態度は良くなかったですが、私が客人の中で流石に、という者は少し願いに変更を加えております。アヴァも例外ではなく。だから辞めないでください。」
「・・・それはリインには伝えてはいけない事項だよ、バトラン。何故そんなに彼女に肩入れする?」
カナイがひきつった表情で言った。
「私にとっての神様はリインですから。」
私は驚いた。声色からしてカナイに反抗している。そんなバトランを初めてみたからだ。同時に申し訳なくなった。
「バトラン。私にはもう。」
「アヴァは言いましたね。あなたを神様みたいと。あなた以外に代わりはいないでしょう。言われたんだったら!神様らしくしてください!・・・不本意ですが。私はメイドらしくサポートしますから。どうか。辞めないでください。彼女に再会したときに悲しいじゃないですか。それとも、私達の神様はそんなにダサいんですか!?」
私がやる気を出すように、ムキになるように挑発しているんだ。でも、そんな安い挑発に乗るなんて。
「ダサ神。ダメ神。ザコ神様。」
・・・私だけに何かが切れる音がした。いや、これはもう完全に逆ギレなんだけれど。
「ダサくない。ダサくないっ!ああ!ムカつく!ムカつく!ムカつく!どいつもこいつも!やってみろってんだ!私は神様だ!転生の神様、リインだ!やります!やります!やります!来た人みんなが幸せになるように!」
私は叫んだ。神様は他責思考をしないか?する!めちゃくちゃする!だってムカつくから!
私の苦労や葛藤も知らずにのうのうと生きている人たち!末永く幸せに!そして、理不尽な仕打ちを受けて死んだ人達!私が救ってやる!幸せに!
「あははっ!」
カナイが笑いだす。
「キミはずっと神だよ。これからも。否応なしに。でも本当に面白いね、二人とも。感情豊かで。キミ達みたいのがいると僕は嬉しいな。反省を促すためだけに来たんだけど。そうだ!頼んじゃおっかな!キミに足りないのは経験。だから、たくさん経験を積んだ方がいい。」
しばらくしてから、アヴァは私達のことを覚えているとバトランは教えてくれた。私を安心させるためなのかは分からなかったが嬉しかった。それ以上のことは聞かなかった。
私達には罰が課された。私は職務怠慢で、バトランは秘密を私に伝えたこと。理解している。これはカナイの粋な計らいだ。
だって、私達が課された罰は。
「リイン。バトラン。様々な世界を見てくるように!都度の報告も忘れずに!情報収集!それが目的なんだからね!わかったね!」
「「はいっ!」」
人を知るために旅をすること。期間は飽きるまで。カナイの命令で私達の世界は広がった。ここから私とバトランの色んな異世界への旅は始まった!




