強い子、アヴァ
私以外にはあまり感情を見せないバトランも、ここばかりは悲しそうだ。
「アヴァ。あなたは強い子ですね。だから申し訳ありませんが・・・教えてください。ここの人達に悪気はないって言ってましたよね。」
「うん。ここの地域の人が完全に悪いわけではないんだ。記憶が失われたり、感情が鈍ったりするんだ。いくら摂取しても、ここの人たちには毒だけが効かない。だから常用することが出来る。それで少しずつ善悪の判断が薄れていったんだ。だからね。恨まないことにした。」
バトランの問いにアヴァはそう答えた。それで、私は理解してしまった。この地域は自分で生きている。住人は花によって統治されている。人が介入しなくても、自らが成長し、発展していくための構造が出来上がっているんだ。
ここの住人は来客をもてなす。単純にそれだけでいい。花の中毒者となれば、あとは利潤をもたらしてくれるから。何故、私達をもてなすのか?その問いに対する答えはなんだっていいんだ。
オピの花によって人々が理由を忘れてしまったとしても。ここに来た者があの茶色の液体さえ勝手に飲んでくれれば。
ここは花の都というらしい。アヴァが教えてくれた。ここにいる人々が毒の花の常用によって、全てを忘れたとしても。花の強大な引力で、人を養分にしながら、永遠に成長していく。
自然の力は人々を圧倒した。到底、抗うことは出来なそうだ。神であるというのに、私は死後の世界でしか、その権能を発揮することが出来ない。役立たずもいいところだ。この私が花なんかに負けるなんて。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。もし、神の存在をアヴァが信じていなかったとしても。私は言わずにはいられなくなった。
「アヴァ。神のご加護がありますように。私達の神は必ずあなたをみています。」
「ありがとう。リイン。キミはいい人だね。白い服が似合っているよ。まるで女神様みたい。バトランも。キミは神様に仕えるメイドさんだ。」
「ふふ。そうかもね。こちらこそありがとう。ねえ。私も聞いてもいいかな?アヴァが、ずっとここにいるのはなんで?」
「ああ。不思議だよね。それでも僕がここに留まる理由。それはね。復讐じゃないよ。これ以上の犠牲者を出さないこと。何も知らないでここに来た人を救いたいからだよ。カッコいいでしょ。僕が死んだらね。沢山褒めて貰うんだ!」
「・・・アヴァ。」
彼女が誰に褒めて貰うかなんて分かりきったことを聞くほど私は野暮ではない。憎しみを抱かないなんてことは私には到底、出来ない。それだけ、この目前の少女は誇り高く、強く生きているんだ。
もう夜も遅い。皮肉なことにアヴァが小屋に持ち込んだオピの花の光によって小屋の中で毛布を見つけた。幸い綺麗だったので、それを床に敷くと三人で包まって身体を寄せ合うようにして私達は眠りについた。
異世界転生。理不尽な仕打ちを受けた者を憐れんで、死後に他の世界に再び生を受けさせること。その際には神は生前の存在の願いを一つ叶えてあげる。
その願いのうち。出来ない事がある。それは、生前と同じ世界に生を受けることだ。世界は無数に存在する。異世界とは、生前にいた世界とは別の世界のことだ。お互いが望んだとしても、同じ世界で再び出会うことは難しい。これは、なんとも受け入れ難い事実だ。




