旅は続く
私の生まれた国はジパ。確定だ。
ところで、世界と神の掟がある。その世界の神でない限り、神は一度訪れた世界に再び行くことは出来ない。私がここを離れれば、その後は分からない。
ずっと心で復唱してきた掟だ。疑う余地すらない絶対的なルールとされている。例外はない。だから、神は感情移入すべきでない。二度と行けない世界と会えない人に想いを馳せないように。
簡易な食事を経て体育館の真ん中で輪になり、寝袋で眠る。凛音はビスケットの食事を洗い物が出ないから楽だと喜んでいたが、残念そうにも見えた。
「みんなで食事、洗い物。その大切な時間を奪ってしまったのかもね、私は。」
私は暗闇の中で思ったことを口にした。
「そんなに残念そうだった?それに、そんなことないよ。私は、私達はリインに感謝してる。」
凛音の声だ。その声は続ける。
「私達が話している間に、子ども達には何かご馳走がないか探してもらってたの。リインの歓迎会のために。だから、ほっとした気持ちと何も出せないっていう残念な気持ちがあった。ところでさあ。リイン。」
「何?」
「君は・・・誰?」
『さあ。ここまでだ。リイン。おはよう。』
最悪の声と不快な目覚め。瞬時に理解した。真っ白な世界。何度もみた世界。
「・・・カナイ様。おい。約束が違う。」
「いえ、守りましたよ。あなたが知りたいこと。あなたの前世。あなたがいた世界。あれは夢のようなものです。まさか続きを見たいと。そんな人間のようなこと。」
「みたい。みせろ。いや。まて。」
私はここにいる。ならあの世界へは二度と。
「残念でしたね。」
苛立ちを抑えきれずにカナイに近づいて私は腕を振り上げた。ガシっと手を掴まれる。誰?振り向かなくても分かる。
「バトラン、離して!お願い!」
「リイン。落ち着いてください。カナイ様。揶揄わないで下さい。約束しましたよね。きちんと原稿を提出すればリインに続きを見せるって。」
「おっと。ごめんね。そう、交換条件だ。ニライ様からお許しを得たのは僕だよ?労いの言葉が欲しいくらいだよ。リイン。君が見た世界は過去だから。さっきも言った通り夢みたいなもので。再び見ることは出来る。だから、頑張ってよね。」
カナイを侮った。頑張るための激励なんてくれる筈はないけれど。懐柔ですらなかった。これで私は頑張るしかなくなった。カナイを殴りたい気持ちを抑えて、いつかまたあの世界に行くために。ここは我慢する。
「はい。ですが。こんな交渉をしたなんて、ニライ様は想定していないはず。カナイ様、どうですか?」
バトランが私よりも先に同意の言葉を放った。彼女の目はカナイを睨んでいる。バトランは私のために戦ってくれているみたいだ。
「うっ。それは。」
珍しく明らかに狼狽えるカナイ。平静を装う余裕すらなかったようだ。バトランはそれを見逃さなかった。
「提案します。原稿を提出したら続きを見せる。見せる内容を小分けにされても困りますから。必ず、次回はその世界の終焉まで、若しくはリインが納得するまで。」
「・・・わかったよ。あと5つ。それくらいは原稿を出して欲しい。随分と優秀なメイドみたいだ。リイン。君の相棒は。」
今、私はロップの話を書いている。原稿はもう少ししたら完成する。原稿のストックはない。これが終わればあと4つ。それでジパに行ける。凛音達に出会うことができる。だから待ってて。
『はじめに』
『旅には。目的があってもなくてもいい。どちらにせよ、旅は旅だし。つまらないとか面白いとかは目的の有無によっては左右しない・・・と私は思う。私には私のために怒ってくれる相棒と旅で出会えた様々な存在がいる。ムカつくやつもいた。いや、いる。これは私による私が感じた、大変個人的な。報告である。』




