ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
今までの落下の感覚とは別物なことに気づく。世界への突入ではなく、これが過去への遡行だからなのか。私の前世だからという特別な理由なのだからなのか。
落ちていくではなく、沈んでいく。
視界は黒と銀色だけ。宇宙みたいな空間に切り替わる。さらに落下は加速していく。高質量に吸い込まれていくような感覚になった。
頭痛がしてきた。これ、大丈夫なの?不安になる。頭の痛みは拡散し、身体全体が痛み始める。目にぎゅっと力が入る。
ブチブチ、パンッと引っ張られた空間が千切れる。すぐに痛みは去った。目を開ける。
暗い。でも吸っている空気の匂いが違う。臭い。生乾きの雑巾みたいな。
手を動かしてみる。ガタガタと音がする。窮屈だ。もしかして、私。
「閉じ込められてる〜っ!?」
慌てて、暴れてしまい、ぐらっと足元からバランスを崩す。そのまま、横に倒れ込む。
バンッと扉が開いて、朝日が差し込む。眩しい。どうやら、私はロッカーの中に入っていたみたいだ。暴れて、ロッカーごと倒れた私は顔を打って悶絶する。
「いてて。痛え・・・。」
誰かに閉じ込められたんじゃなくて、ここがスタート地点ということらしい。
何も着ていない。随分と身軽だと思った。このままでは捕まるので、バトランに渡された制服を着る。
木と床に塗られたワックスの匂いがする。学校の教室だろう。窓からは、蝉の声と晴れ渡る空。雲はない。夏。でも、そこまで暑くない。今はおそらく朝だ。
まだ誰も来ていない。これから、部活の朝練が始まったら生徒も来るだろう。不思議だ。ワックス、朝練。そんなさっきまでの私が知るはずもない単語が頭の中から生まれる。
やはり、ここは私がいた世界なのだろうと、実感する。懐かしさもある。
・・・。おいおい。
待っても、待っても。誰も来ない。私は探検することにした。外の廊下が埃臭い。別の教室の黒板には『卒業おめでとう!』や『また会おう!』と書いてあった。
嫌な予感がする。何を急いでいるのか、焦っているのか。私は得体の知れない恐怖を感じながら、走った。校舎から逃げ出した。階段を下り、下駄箱に靴がないことを確認し、校庭まで出てみた。
「はぁ。はぁ。」
息が切れる。当然だ。なんの力もない人間の私が全力疾走したのだから。
校庭の砂を裸足で歩く。何度も小石を踏んで足が痛む。真ん中まで来たところで校舎の方向へ振り返る。古い校舎だ。ひび割れ、汚れている。今にも倒壊しそうで、ここに通いたいと思う生徒はいるのだろうかという外観。
既視感が襲う。懐かしさではない。最近、目の当たりにした世界の終焉までの様子。ロップの世界。あの環境に近い。まさか、ここも。この世界も。
・・・終わっている?だから誰もいない?
ガタン!
私の予想に反して、大きな音がした。おそらく向こうの体育館からだ。誰かいる!期待と緊張が同時に押し寄せてきた。疲労している身体に鞭打ち、また走った。
体育館の扉を開く。
「うわぁぁ!」
中から叫び声がした。少女と少年の二人の声だった。初めての人の存在に私は安堵したが、少女の右手に握られた刀の刃の鋭さに私は萎縮した。刃は私に向けられた。
私と同じくらいの背丈と年齢の黒髪の少女。私と同じ赤い瞳をしている。肩まで伸びた黒髪と刀が輝いている。私と同じ制服を着ている。
「誰だ!お前!」
少年が私に言った。少年も私を警戒している様子だ。
「落ち着いて欲しいな。ほら、そのお姉さんと同じ制服。」
私は着ている制服のスカートを引っ張って少年に見せるために強調する。
「え。ほ、本当だ!えっと。うん。」
こつんと黒髪の少女が少年の頭を小突いた。
「味方かなんて、まだ分からないでしょ。武器を持っているかも知れないし。」
少年がハッとした。
「あっ!そうか!脱げっ!」
今度は強めに少女が少年の頭を小突いた。
「うーん。それで信じてくれるなら別にいいけど。」
「えっ!?マジ!?」
ゴンッ!
鈍い音が体育館に響き渡った。
「いいや。あなたは敵じゃない。今ので分かったから。」
「そう?そこのエロガキはみたいらしいけど。」
「教育上、よろしくないからやめて。」
「キミの弟?私はリイン。」
「違うけど、そう。私は凛音。ここに置いてかれた子たちと暮らしている。私もその一人だけどね。」




