目的地、前世
書けない。今回は世界の終焉とそこで出会ったロップの話。私は自分の旅の体験談をカナイに報告しなければならない。締切はとっくに超過していた。
筆が重い。遅筆の原因は簡単だ。ロップについて、あの世界について。書きたくないからだ。いつものようにカナイから原稿を急かされる。それでも書けない。心が拒絶する。
ここから逃げ出したい。しかし、逃げ出しても意味がない。この白い空間が延々と続いているだけだから。
カナイからの原稿の進捗確認を何度もはぐらかしているうちに、全てがつまらなくなった。もう旅なんかせずに、また元の仕事をしよう。そう思うことが増えていった。
そんな私にカナイが言った。
「リインの報告は人気コンテンツなんだ。だから書いて欲しいんだよ。最近のキミからは、書こうという意思や、旅に出ようという意思が感じられなくなった。いつもなら、僕はキミを罵倒して、叱責して無理矢理にでも書かせるけれど。無理をさせ過ぎたのも事実。だから。」
意外だった。そのいつもの行動に出ると思っていたけれど、カナイは私を懐柔しようとしてきた。そんなに反響あるんだ、あれに。
「・・・だから?」
「キミの知りたいことを一個教えてあげようと思って。交換条件ってこと。」
「・・・ないよ。どうせ、それはダメとか言うに決まってるから。」
「ニライ様。『神々の遊び』の大ファンでね。リインのコーナーが一番楽しみだと仰っていた。どんな情報でも渡して良いと許可を頂いてきた。」
ズルい。ニライ様。カナイも私よりも上位の神だけど、ニライ様はもっと上。そんなお方が私に何でも教えて良いと言ったらしい。
神は大きく分けて二つのタイプがいる。最初から神だった者と前世を持ち、神になった者。私は後者だ。その中でも前世の記憶を持たない神だ。
私のルーツはどこで、アイデンティティはどこから生まれたのか。気になるのは当然だ。迷ったが、ニライ様がどれだけ私の原稿を待っているのが分かり、それが後押しとなって、私は渋々、提案してみた。
「じゃあ、私の前世。それが知りたい。ちゃんと人間だったんでしょう?」
「いいけど。きっと後悔するよ?キミは幸運に幸運を重ねて神様になったんだ。前世は不運だったことだろう。」
「知らないと享受出来ないから。」
「何を?」
「その幸運ってやつを。キミは幸運だ。キミは祝福されている。そんなの分からない。私はキミじゃなくて、リインだから。リインの前はどうだったか。それを知るのが今の私にとっての幸せなんだ。」
「そう。そこまで言うのなら。良いよ。じゃあ、行っておいで。」
「へ?行く?」
トン、と肩を押される。そうすると白い空間から私は落下した。まただ。でも・・・。あっ!
「カナイ様!バトランは!?」
「キミの望みだよ。キミの幸せはキミだけが享受してね。あっ。今からのは、報告をしたくないなら、それでもいいよ。でも、この間のウサギの世界に行った話は書いてよね。僕も気になっているんだから。」
「そんなっ!?バトランー!!」
叫びは届かずに、いつもの世界から剥離されて落ちていく。マジで一人で!?行くの!?
「呼びました?」
いや、届いていた。いつもの相棒が落下してきた。
「バトラン!!良かったー!!一緒に行ってくれるんだね!?」
「いや、これを。忘れ物です。じゃ。たまには一人で行ってきて下さい。リインだけで行くようにと念押しされています。だから行けません。・・・気をつけて。」
バトランが私に渡したのは学校の制服だった。それを渡すと、ふわっとバトランは浮き、戻っていった。
「そんなぁぁぁああっ!!」
メイドを天国に残して、私は一人で旅に出た。目的地は前世。




