ラビット・イン・ワンダーランド
「誰かいませんかー!」
叫んだけれどいない。ここには誰もいない。どうやら最初からそうだったわけではないらしい。かつて文明があったことが分かる。それも、長い年月を経てこうなったようだ。
何故なら、崩れ落ちたビルやひび割れたコンクリートの地面に苔が生えているからだ。これらは繁栄や発展の化石、又は残骸だ。
記憶はないけれどここのかつての姿も、私がいたことのある世界に似ている気がする。私でない私がそれを告げてくる。ここは、その衰退後でそんなかつての世界は埋葬されてしまっているけれど。
「魔力の反応、ありません。リインならここでは、制限無しで力を使えるはずですよ。」
「んー。使う予定もないし、使う対象も無さそうだけど。うーん。」
「どうかしましたか?」
「力はそうでもない。なんだか、ずっと力を使っていたら、電池切れを起こしそうな気がする。なんでだろう。私がこの世界に適合していない感じ。」
「繊細ですね。まあ、リインがそう言うなら、そうなんでしょうね。・・・どうします?」
バトランはこれ以上ここにいても何も収穫が無いと判断したのだろう。どうします?とは、疲れたからもう帰りましょうということ。
「カナイから依頼された調査なんでしょ。もうちょっといるしかないかな。いつもは曖昧な指示なのに。調査をお願いされたのは珍しいって。こっち。こっちにいけば、何かあるかもしれないし。」
「そうですかね。私には何にも見つからず、ガッカリする未来が見えます。どっちへ行きたいか分からないなら、どこに行ったとしても違いは無さそうです。」
確かに。見たところ何もない。穴の空いた道路と倒壊した建物があるだけ。荒廃が延々と広がっているようだ。
「誰かいませんかー。」
「はーい。」
呼んでみてもバトランが応じるだけだ。他にいないか、何度も呼びかけてみる。
「誰かいませんかー。」
「誰もいませんよー。」
これもまた私の呼びかけにバトランが応じているだけだ。馬鹿馬鹿しくなってきた。
「おいっ!それやめろっ!バトラン、珍しく私よりやる気ないじゃん!」
「本当ですね。なんだかやる気が出ないんですよ。おかしいです。この世界に適合していないというのは、私にも当てはまるようです。」
「あ、バトランも感じる?なら、やっぱりここは良くないね。これ以上居ても収穫なしか。早めに帰ろう。じゃあ最後!誰かいませんかー!!」
「おるぞ。金髪宇宙人とメイド宇宙人。」
「「は!?」」
声の主はバトランではない。そこにいたのは、ウサギのような大きな白い耳をした人間・・・なのか?
背丈は私と同じくらい。着ている服は白のワンピースで、地面にまで届きそうな長い髪も白い。瞳だけが赤い。ウサギだ。彼女が大きな白いウサギにしか見えなくなってきた。
「おるぞ、と言うたのだ。」
同じことを言わせるなと、煩わしそうな顔をしながらウサギのような者が言った。私とバトランは顔を見合わせた。気づいた。まさかの私達が好きな。
「「垂れ耳だ!」」
彼女のもふもふな耳に触ろうと勝手に手が伸びてしまった。誘惑の引力には抗えない。バトランも同じみたいだ。
私とバトランは、ぺちんと左右のうさ耳で顔を叩かれる。痛くない。それどころか、もふもふで幸せだ。
「うおいっ!触るなっ!無礼者!!我は神様だぞ!」
「「・・・ウサギの神様!?」」




