決着、クロニアナ
世界が霞む。これは私の視界がぼやけているだけなのか?苦しい筈なのに。苦しさを感じないや。安らかでない筈なのに。安らかになっていく。
重力を感じない。脱力している。自由だ。風船みたいにふわふわと浮かんでいく。天に近づいている。
まばゆい閃光が見える。私を照らしてくれている。これは夢?なんでもいいや。凄く綺麗な光。温かい光。優しい光。心地いい。
ああそうだった。思い出した。死の間際だ。私は死ぬんだ。これが最期の体験だったなら。幸せだったと言えるのかもね。包まれている。囲まれている。沢山の光に照らされている。祝福の光に。永遠に。
私は。
祝福されていて。光に。
照らされて・・・い・・・る。
えっと。・・・眩しすぎない?
「オラァァアアアアアッッ!」
バトランの叫び声がした。光を放つレイピアで何度もクロニアナを突く!何度も何度も何度も突く!滅多刺しだ!
「痛った!ガッ・・・!グ!アアアアァァァアアアアアッッ!!!」
気圧されたのか、油断したのか。クロニアナは抵抗出来ずに苦悶の表情で悲鳴を上げる。バトランの猛攻に耐え切れず彼女は私から離れた。そして、痛みからゴロゴロと床を転がる。
「ゲホッ!ゲホッ!あぁ・・・。バトラン。」
私は咳き込む。久しぶりの呼吸に身体が驚いている。酸素が流入して意識が戻ってきた。
「リイン!まだ、くたばってはいませんね!?ほらっ!ハーコートさんからのお土産です。」
バトランが私に駆け寄る。瓶に入った何かを飲ませてきた。それを飲むと、すぐに気分が良くなってきた。折れた骨の再生とまではいかないが、ぼやけていた景色が鮮明さを取り戻すくらいには回復した。
「・・・ねえ。バトラン。きっとクロニアナは膨大な魔力で再生する。また襲ってくる。で、私は歩けない。こんな状況下でも打開することは出来ると思う?」
「随分と弱気じゃないですか。私が信じた神様とは思えません。出来ますよ。私を信じるなら。あなたは強いです。だから生きている。」
「そうだね。嬉しい言葉。まるで女神様だ。なら。もう一回だけ。頑張ってみますか。信じる。バトランを。」
激痛が身体を駆け巡る。でも立つ。逃げない。逃げればいいのに?その通りだ。でもやだ。この世界くらい救わせてよ。
「リイン。一度しか言いません。実現の可能性は高くありません。でも、これくらいしか思いつきませんでした。」
バトランが私に耳打ちする。内容はかなり馬鹿げていた。それを私に伝え終えると同時に黒い刃がズン、とバトランを貫いた。
「痛ってえなあっ!!!このバカメイド!気は済みましたかっ!?あっ!殺しちゃった!?ごめーん!」
クロニアナが嘲笑しながら、バトランから刃を引き抜く。彼女はぐったりして動かない。声が出ない。恐怖している。私の身体は勝手に震え出した。
「はははっ!怯えてる!可哀想!女神様が弱いから!バトランは死んじゃった!」
私は深呼吸した。息を整えた。今から、馬鹿げたことを実行するために。
「ねえ。クロニアナ。お願いがある。契約をして欲しい。私と戦って。私が負けたならなんでも言うことを聞く。今の私は神の力が使えない。だから、この武器だけで戦って欲しい。お願いします。私が勝ったなら。あなたの命は保障します。」
私は床に顔を擦りつけて懇願した。クロニアナがくすくすと笑う。
「おかしくなっちゃったのかな!?馬鹿じゃないの!?私にメリットがないじゃん、そんなの!誰が!命は保障するって!誰が誰に向かって言ってんの!?」
その通りだ。だから、そのメリットを今創出するしかない。
「じゃ、良いじゃん。私は今この瞬間。別の世界に逃げ出すことは可能。でも、それはしたくない。逃げたと思われるから。生きていけない。私はメンツを守りたいし、君は私を殺したい。その場合は逃げるけどね。だから、約束で縛っておきたい。」
あえて、私は余裕ぶった。余裕がないことを悟らせるために。
「クズだね!仲間が死んだのに。メンツ!?神様でもいるんだね!こういうのが!」
「軽蔑した?」
「ううん、気に入っちゃった!決めた!いいよ!」
私がスノードロップを投げるとクロニアナの目の前の床に刺さった。
「私の剣。スノードロップって言うんだ。あとバトランのレイピア。どっちがいい?私はレイピアがいいな。」
「うふふふっ!メイドのレイピアの方が強いんじゃない!?強い方を使うなんて!姑息だね、神様!でも、いいよ!私は剣で!やってあげるっ!どうせ勝つのは私だから!それに案外、使ったら便利かもね、お前!じゃ、契約!」
クロニアナがスノードロップを引き抜くや否や、私に突っ込んできた!
初撃をレイピアで弾く。剣の軌道を変えて防いだ。手が痺れる。そのまま、次撃がきた。クロニアナの背中の黒い刃。さっきよりも禍々しくて速い。
・・・は!?武器だけだって言ったじゃないか!?
「おい、それはっ!汚いぞ!」
防御が間に合わない。刃が私を貫く前に身を躱すには時間が足りない。
「ばーかっ!これは武器でーす!気が変わった!やっぱり死んでもらいまーす!」
「そうか。残念。・・・ばーか。お前がな!!」
「何を言って・・・!あ、あれ。あれあれあれ。刃が出ない。それに力が!?出ない・・・!?」
クロニアナがフラフラしだした。ついには立っていられなくなって倒れ込んだ。
「クロニアナ。契約不履行だね。この武器だけ使用しろって、ちゃんと言ったよ。なら、この契約は無かったことにする。」
「なんで!?魔力がっ!無くなる!流れちゃってる!」
「命を保障する必要はなくなったね。死ね。クロニアナ。」
「答えろよっ!?クソ野郎!!」
クロニアナが叫ぶ。苛立ちが伝わってくる。私に慈悲が芽生えた。慈悲深い私は答えてあげることにした。
「仕方ないなあ。その剣、格好良いでしょ。スノードロップ。元は弱体化の剣って言うんだよ。握るとかなり力が制限される。バトランが色々と強化してくれてね。この世界だと弱体化はしないらしいんだけど。」
「あ、あ、あ、あ、あ。まさか!」
「おいおい、最後まで聞きなって。それって、ここでは私に特別な力がないだけで。剣としての機能は残っているんじゃないかってバトランが。魔力依存の悪魔に効くのかは賭けだったけど。」
「うわあああっ!この剣が!?弱体化の剣!?汚い!リイン!私にはお前が神様だとは思えない!汚い!ずるいっ!」
流石に気付いたようで、クロニアナはスノードロップを私に思いっきりぶん投げてきた。それをレイピアで弾く。決着だ。もう遅い。漏れ出た魔力は返ってこない。彼女に蓄積された魔力は完全に失われた。
「よく言われるよ。君が剣を選択しなければ。勝ちだったね。君は警戒すらしなかった。驕りだね。その時点で君の負け。じゃあね。クロニアナ。」
「や、やめろぉぉっ!近づくなぁっ!!」
私はレイピアを彼女に突き刺した。




