ハーコートとガラスの美術館
「こんにちは。お嬢様方は観光ですかな?」
プリンうまい。うま、うま。ん?なんか言った?バトランの声ではない。誰?私はプリンを夢中でパクついていたので、その声を無視してしまった。
「・・・はっ!すみませんっ!夢中で食べてたっ!観光ですっ!」
ほっほっほっと、いかにもな、ご老人っぽい笑い声がした。声のする方をみると、白髪のお爺ちゃんが隣のテーブルに一人で座っていた。
着ている水色のシャツは仕立てが綺麗で、また、その優しい物言いからもお爺ちゃんの気品の良さが伝わってきた。
「ああ、すみません。こんにちは。私も友人も夢中で食べてました。ここの方ですか?」
バトランがそう聞くとお爺ちゃんは一枚の小さな紙をテーブルに置いた。カードか何かだ。ガラスの美術館。館長、ハーコート、とある。
「はい。ハーコートです。私、そこの館長、なんです。ハーヴンのガラスは、かつては、かなりの名産だったのですが。最近はどうも・・・。綺麗なガラス細工が沢山ありますので、もし、宜しかったら、お立ち寄り下さい。では。」
ハーコートと名乗るご老人は、それだけを私達に言い残して去っていった。貰ったカードの裏面には行き先の地図が記されている。そして、お洒落なことに目的地の美術館には目印として宝石のようにカットされた青いガラスが埋め込まれている。
「みて、これ。綺麗。ガラスの美術館かー。いいんじゃない?」
「高いですよ、そういうのは。きっと買わざるを得ない空気になるか、買わないまで閉じ込められるか。」
「バトラン、疑いすぎじゃない?」
「経験則です。リインについて行った場合の。」
バトランが訝しげにカードを拾いあげて、小さなガラスをじろじろとみながら言った。
「心外な。じゃあ、やめとくかぁ。」
「ま、まぁ。行き先も決まってないですし。行ってみてもいいかも知れません。」
「あれ。バトランってこういうの好きなんだっけ。」
「たぶん、綺麗なものが嫌いな人はいませんよ。ええ。」
実はかなり乗り気の様子だ。そのまま、彼女は続けて言った。
「記憶が無い前世にも。私はこうして皆と同じように石や硝子の輝きを見ていたのかも知れません。これらはきっと。どんな世界でも時代でも。ずっと輝いていて、ずっと美しいとされてきたものですから。永遠を感じることが出来るのです。」
「ふーん。そんなもんかね。ガラスなんて、すぐに割れちゃいそうだけど。」
「む。自分から言い出した割には興味なさそうですね。やめときますか?」
「いや、違う違う。見たいよ。じゃ、早速行こうか。」
興味がないわけではない。綺麗なものは好きだ。でも、バトランの永遠という言葉に引っかかったんだ。その理由は今までは、私の存在自体が永遠や無限みたいなものだと思っていたからだ。
永遠の存在は永遠を期待したりしない。人は有限の存在であるから無限や永遠を期待する。
全てのものは廃れ、失われる可能性を持っている。だからこそ、大事なそれらに私は名前を付ける。万物の中に埋もれさせないために。
私は人と神の価値観の違いについて考えていた。今、私は有限の存在としてここにいる。ここでは、私も下手すると死ぬのだから。勿論、死にたくはない。
ガラスや宝石だけじゃない。全てのものに永遠を期待しても良いのかも知れない。そう思った瞬間から興味が湧いてきた。
「私も人っぽくなったものだなぁ。リインは今、そんなことを考えていたのでしょう?」
ガラスの美術館へ向かう道中で、バトランが私の顔を覗き込んで言った。
こわっ!なんで分かるんだよぉ。




