カフェ、アルコンシェル
貿易の中心、ハーヴン。一夜明けて気付いたことがある。ここには色が溢れている。赤、青、黄色、緑、ピンク、紫などなど。海を三日月型に囲むカラフルな石造りの建物の数々。エメラルドグリーンの海には荷物を積んだ大型船舶がたくさん。
人々も沢山。活気があり、栄えている。オーダーさんの言う通りだった。道標にあった左の行き先は知らないが、右に曲がって良かったと思える。
散策していると無数のカフェがあることに気が付いた。私達はアルコンシェルという名前のカフェに来た。コーヒーの豊かな香りを楽しみながら、最高の景色を眺めるためだ。このふかふかの青い椅子も素晴らしい。
人類は皆、安らぎのために豆を炒ったり、茶葉を乾燥させたりするようだ。私の知る限り、どの世界でも工程は違えど、コーヒーや紅茶のような飲み物が発明される。喜ばしいことに、どんな世界でもカフェブレイクは存在し、人々に安らぎをもたらしてくれる。
「ねえ、バトラン。今日はコーヒーの気分だよねぇ。理由は分からないけど。」
「なんとなくですが。コーヒーですね。」
バトランも同意してくれた。よくよく考えると、お互いに長旅で疲れて眠いだけなのでは?と思ったが、それは言わなかった。今日はコーヒーの気分だ。
潮風がふうっと入ってきて心地良い。ところで、私はあまり砂糖やミルクをコーヒーに入れない。入れることの方が稀だ。カップを近づけると焙煎の良い香りがした。
早速、飲んでみる。苦味と酸味がちょうどいい。バトランも同じものを注文した筈だけれども、ほぼミルク色の液体がカップに入っている。彼女がそれを飲む。
「ああー。美味しいですね。苦味と酸味のバランスが丁度だと思いませんか?味に何かとうるさいリインも納得の味でしょう。」
「鋭敏な舌をお持ちと言ってよ。苦味と酸味?本当にそれらはミルクと砂糖がジャブジャブの色付き牛乳に残留している?」
「もちろんです。このコーヒーから良い香りが漂って。苦味と酸味も漂って・・・どこに行ったのでしょうか?」
「知らんなぁ。潮風に飛ばされたんじゃない?ま、楽しみ方は人それぞれか。」
「ええ。美味しいのは確かですから。」
ぼぉーー、と汽笛の音がする。優雅な時間を楽しむ。スローライフは大事。最近を振り返ると戦ってばかりいたような気がする。ゆっくりと海や店の中を見る時間やバトランとの会話が心を落ち着かせる。
テーブルに置かれたメニュー表に目が行く。飲み物だけ頼んで、見ていなかったページがある。この店にはどんな料理があるんだろう。ぺらぺらとメニューを捲る。
「ん!?・・・ねえ、バトラン。これ。」
「特大プリンアラモード、でしょう。高いですよ。」
「で、でも。」
「そんなに落ち込まないで下さいよ。叱られた犬ですか。高いですよ、としか言ってませんよ。まあ、今日くらい、いいんじゃないですか。頂いた金貨を両替したいですし。リインはきっとこれだろうと、実は最初に頼んでいます。」
「唐突なんだけど。バトランって可愛いよね。頭も良いし。メイド服も似合ってる。強くて、メイド服も似合ってる。」
「ふふん、知ってます。賛辞が被っていますが。」
また、潮風が吹いた。この港では楽しいことが起こりそう。濃厚な甘さのプリンと甘酸っぱい果実。苦味のカラメルとコーヒー。口いっぱいに広がる様々な味を堪能しながら私達は期待に胸踊らせていた。




