ドラゴンとプライド
衝撃を超える大衝撃が私を襲った。私にも翼が生えたのかと思わせるくらいに吹っ飛ばされた。約2秒間のフライトは闘技場の壁に離陸することで終わった。
痛てて、で済んだのは私だからだ。勿論痛いよ?激痛。感じる痛みは変わらない。少しずつ上体を起こして立ち上がる。幸いにも牙が私を貫くことは無かった。
私に触れる寸前でドラゴン自らが頭突きに変えたからだ。つまり・・・。いや、その前に私の天才メイドに伝えたいことがある。
「おいっ!バトランっ!それ、禁止!普通なら死んでるからっ!」
「すみませんでした。リインのためにもっと練習します。」
「するなって!」
「・・・生きているのか?君達には何度も驚かされる。どこで鍛えればそんな強靱な肉体に?」
心配そうな表情でオーダーさんが駆け寄ってきた。彼女は唯一の良心といってもいい。
魔法は使えなくても、神自身の加護はある。そのことをバトランは知っている。一方でオーダーさんは知らない。黙っていた方が優しくしてくれそうだ。私は笑顔でこう答えた。
「ええと。ナニモナイ国では、身体の強靱さを競う祭りがあるんですよ。」
「ほう。素晴らしいな。是非、参加してみたいものだ。ところで、リイン、バトラン。」
「「はい。」」
私とバトランはオーダーさんが言いたいことを察した。
「このドラゴン。手加減をしてくれているか、操られているか。どっちだと思う?」
バトランが手を挙げる。挙手制?
「前者かと。ドラゴンは知能が高い生物です。人間と同等だとしても驚きません。ただ、私達と共通の言語を持ち合わせていないだけ。先程のリインへの攻撃。事情があって、戦っていることを伝えるような見事な手加減でした。」
真似して私も手を挙げて答える。
「それに、今、襲ってこない。流石の私も何度も攻撃してきたら、やられちゃう。ドラゴンからのメッセージだね。近づくなっていう。だから、分かる。操られているわけじゃない。」
オーダーさんは、うーん、と少しだけ唸った。そして、すぐにカッと、目を大きくした。閃いたのだろう。
「ああ、そういうことか。リイン、バトラン。わかったぞ。このドラゴン、産卵が近いんだ。街に出て栄養を蓄えながら、巣の候補地を探していたんだ。」
「なるほど。でも、流石に闘技場を巣にすることは考えにくいのでは?」
バトランの問いにオーダーさんが静かに笑う。良い質問だったのだろう。
「適切だと思う。何故なら餌に困らないからだ。」
「・・・ああ。そういうことですか。餌は私達人間だと。そして今は家畜を喰い散らかして、お腹いっぱいだから。」
「今は私達を食べない。鮮度を保つ方が良い。殺したら勿体ない。美食家なんだ。でも、家畜の方が美味いのだろう。人間は非常食くらいにしか思われていないと思う。」
「・・・ねえ。バトラン。オーダーさん。ドラゴン。寝てる。」
ああじゃない、こうじゃないと話している間に、ドラゴンは眠ってしまった。
どうしたものか。ドラゴンという生き物は、睡眠をたっぷり取るらしい。寝ている者を襲うのもなぁ。一応、そこらへんのプライドはある。ギリギリ残っていた。
わかっている。それは意味のないものだって。この目の前で眠る災害を退けなければ、新たな災害を生む。退治することにプライドを持っているオーダーさんやファイター達に失礼だ。わかっている。
神はドラゴンにエゴを抱くか?うーん。今日はそんな気分ということで勘弁してもらえないだろうか。なんだか嫌になっちゃったのだ。生命のやりとりが。
穴の空いた屋根から星が見える。綺麗だけれど素直に喜べない。明日への不安が勝る。雨が降ったらどうしよう。
「ねえ、バトラン。オーダーさん、呆れてたのかな、それとも怒ってたのかな。」
「ふふ。優しいんですよ。あの人も。私達を帰らせたんですから。」




