有能なる使用人、バトラン
記憶。それは自身を構成するもの。自分の考えや行動は記憶から引き出される。
では、私の記憶はどこから始まっているか。はっきりと覚えているのは神様になってからだ。ぼんやりと覚えているのは、おそらく前世の記憶だ。私の頭には鮮明と曖昧な記憶の入り混じった情報が入っている。
で、今の私が、くっきりとはっきりと一番覚えている記憶がある。あの何もない真っ白な空間から突き落とされて、別の世界に来たということだ。夢ではなく、紛れもなくこれは事実。受け入れがたい、理不尽で忌々しい事実だ。
私は大の字で眠っていたようだ。目を開けて、まず視界に入ってきたのは空だった。青い。私は眩しい太陽の光を受けながら、生い茂る草木に囲まれている。
立ち上がって深呼吸する。土、草、空気といった自然の匂いがする。美しいよりも懐かしい感じがした。 感激した。外はこんなにも開放的で心地良いものなのか。私がいた前の世界もこんな感じだった気がする。過去の私がそう伝えてくる。
「良い機会です。全くこんなことになるとは。」
後ろから聞き覚えのある声がした。
「バトランっ!ああ、良かった。ね。まさかこんなことに・・・って。バトランが私を落としたんじゃん!それにあのカナイとかいうクソガキっ!!」
「落ち着いて下さい。あれは監査人です。」
「監査人?あの子供が?」
「身分を隠して私達の業務を監査していたんです。結果はバツ。あなたの流れるような、機械的な立ち振る舞いや業務態度が問題視されたんです。異世界転生工場じゃないんですから」
「む。効率的だって褒めて欲しいけど。」
「確かに処理速度はとても速いですが。そこだけはマルでした。だからこその温情ですよ。でも、それでは神様ではなく、仕事に慣れてきた会社員です。私が改善に協力的だと思わせて何とかやり過ごしたのですよ。私という優秀なメイド・・・じゃなかった、ええとアドバイザー、というか使用人ですかね。が、いなかったら、とっくにあなたはクビでしたよ。ガキとか不敬とか余計なことばかり言って。」
「身分?あのカナイってやつは偉いの?」
「ええ。例えるなら。あなたがミジンコなら、カナイ様は神です。あなたがアメーバなら、カナイ様は神です。」
「私も神なんだけどっ!」
「詳しい話は後で。面倒なので。あと、この世界では神の力や権限は剥奪されておりますので。」
「おりますので?」
「リイン。あなたに対しての辛辣度がいつもの二倍くらいになります。尊敬度も・・・。いや、これは変わりませんか。」
・・・ゼロに何を掛けてもってことか。まあいい。ここで反抗しても私が不利になるだけだ。バトランの話ぶりからして、彼女はこの世界を知っている・・・ん?呼び捨てぇ!?いや、狼狽えるな。これくらい。
「ね、ねえ、バトラン。私は何をしたらいいの?」
「万物には意味があります。きっと、カナイによって準備されています。だから、ただ過ごしていればいいのです。何かが起こります。具体的には私も知らねえよ。自分で考えろ。」
「バトランにも分からないのね。ん?今、半分くらい口が悪くなかった?」
「そんなことありませんよ。リイン。とりあえず考えてみましょう。もし、あなたが善良な神である場合。あなたはまず何をしますか?」
バトランの私への問い。私が神であるならば、するべきことは、か。これしかない。
「そんなの決まってる!!寝床の確保でしょっ!!あと、ずっと呼び捨てなのが気になるけど!」
「はあ。これは、なかなかな長旅になりそうですね。呼び名?敬称略ってことで。立派な神様に戻ったら、呼んであげます。リイン様と。はあ。昔はこんなんじゃなかったのに。はあ。」
何度か溜息が漏れた。軽蔑するような目でバトランは私をみた。あと、私は思った。会話で敬称を略すやつはいない。




