戦闘、全身全霊
「びぇええっ!!!負けた!ムカつく!ムカつく!」
敗北者は狭い小屋で泣き喚く。言い訳はしない。これでも神なので。
「そんな幼児みたいな泣き方するんですか。ほら、泣き止んで下さい。」
バトランが渡してくれたハンカチで涙を拭く。まるでメイドみたいだと少し感心する。
「うう。ありがと。さ、さあ。この悔しさを糧として明日も挑戦しよ!」
「明日も行くんですか。向上心が凄い。神にしておくには勿体ないくらいに。どうしちゃったんですか?」
「完璧主義の怠惰な神様。それが私。」
「では100点目指して頑張って下さい。」
何とも感情のこもってない声援を頂く。私が負けようが勝とうが関係ないというような態度だ。まあ、そうなんだけれど。神は自己満足のために行動するか?する、する、する。
「ありがとう。でも、100点は目指さない。私はね。常に60点を目指してる。実現性が増すから。いつか出来るなんて先延ばしにして遅らせない。必ずなんて自己暗示は言わないよ。それらは人がすること。合格が60点であれば、それは私にとって100点と変わらない。明日、合格する可能性は高いから。みてて。」
「えっと、ですね。水を差すようで申し訳ないのですが、この試験の合格点は75点以上らしいです。」
「えー。そうなんだ。じゃあ追加で合計5時間くらいかな。」
「5時間。・・・何の時間ですか?」
「試験に合格するために何が必要か考える時間。あと剣の振り方も良くないね。10時間くらいかな。練習する。最初は精神統一。滝に打たれようかな。」
「なるほど。神としての全ての能力を奪われたわけでは無いみたいですね。平然と話してますが、そんな努力は人間には出来ません。のめり込み過ぎて死なないで下さいよ。」
「うん。じゃ、滝に入ってくるね。」
「お風呂みたいに言わないで下さい。」
翌日。有言実行。私は全てを終わらせて、二度目の挑戦へ。なんでまた来たんだよ!とか帰れ!とか暴言が観客席から聞こえてくる。
「みんな!声援ありがとう!」
私の感謝の言葉は罵詈雑言の観衆の声で掻き消される。手まで振ってあげたのに。
カァン!
ベルの音が響く。開始の合図。始まった。今回は距離を取る。石畳の床に穴が空く。今度は躱す。しかし、安堵するほどの時間はなかった。
爆発が次々と起こる。私が走ると足跡みたいに穴が次々と開き、追ってくる。石は砕けて、砂と石の砂塵が舞い上がる。
私は逃げ回る。絶え間ない爆発に、いつの間にか闘技場は快晴から砂埃と煙という天気に変わった。視界は不良。お互いに何も見えない。存在を確かめられない。視認性を奪って少しでも条件を平等にすることができた。
さて、考えよう。魔力の差を埋めるには、私が条件を悪くしていくしか勝ち目はない。能力は見切られているし、見限られている。そんな相手との戦いなんて早く終わらせたいに決まっている。
だから工夫しない。勝手に相手は油断する。その油断が私に付け入る隙を与えてくれる。
狙い通りの展開。剣は平等だ。先に切った方に勝機があるのだから。見えない中で私は剣で表現できるありとあらゆる方法で攻撃に転じた。縦に切付け、横に切付け、突いた。
普通、視界が塞がれているなら人はどのように行動する?答えは下手に動かない。だから私は動く。
では相手は?分からない。試験官の実力は普通ではない熟練者のそれなのだから。ここからは賭けに出る。まず真ん中で突っ立ってる可能性を放棄する。
私の中では右に寄るか左に寄るかしかない。時間がないから今回は右にする。斬撃を求めて振った剣は何度も空を切る。無謀?無計画?よく言われるから気にしない。
私は可能性があるなら何でもする。得られる成果のために試行回数を増やす。今は私が立っていられる時間なのだから。
無謀で無計画なことすら私の綿密に練られた計画だ!魔法という力の大前提が無いなりに。いや、無いからこそ!足掻くんだ!
急げ!煙が晴れる前に。
突っ込んで!!斬って!斬って!斬りまくる!
剣は何度も空虚を捉える。それでも!まだ、まだ、まだ、まだ!
何度も大剣を振り回す。そろそろ手ごたえが欲しいところと思った矢先、キン!と、高い音がした。見つけた。ここだ。振動が伝わってくる。ここにいる。そう私の剣が教えてくれた。
「うりゃっ!」
その音に反応して、素早く横に一線。ここでも金属と金属がぶつかった音が反響した。そして、剣と剣の鍔迫り合いになる。達人なら、きっと反応してくれる。期待を裏切らない結果が起きた。これだ。この状況。この状態になるのを待っていた!
剣の硬さと鋭さには自信がある。私が知り得る強化法を無数に施したし、めちゃくちゃ磨いた。私自身にも自信がある。作戦と精神統一。全ての凝縮された努力を拡散させる。
地面を思い切り蹴り、瞬発力を加えて無理矢理にでも剣を上に振り払う。自分ながら上手く弾いたと思う。
これで敵のガードが空いた。作戦は前回と変わらない。でも状況は今のが良い。やることは単純明確。魔法よりも早く・・・攻撃をする!剣を極める努力なんて一秒もしていない。この試合に勝つための努力だけをした。今だ。
ーーーこれが私の全身全霊の一撃!強く握りしめたこの剣を!!天空に向けたこの剣を!!この世界で一番の力で思い切り振り下ろす!!
ザン!
努力の結果。そこには手にしたものがあった。確かな手ごたえがあった。空気や風なんて、そんな柔らかいものじゃない。硬い物体の感触を握る剣から衝撃をビリビリと両手で感じた。反発する衝撃の痛みすらも押し切って両断した。
私の剣が何かを通過した。振り抜いた。敗北を切り裂いた。これは勝利だ。その事実によって次第に小さかった私の達成感や高揚感が大きくなっていく。そんな勝利の余韻の中で砂塵が晴れた。
天気は元通りの快晴。砂のベールが取り払われて、明らかになったことがある。まだ勝利していない。目前に現れたのは石で作られた騎士だった。ガラガラと音を立てて、石の騎士は砕け散った。
「戦っていたのはフェイクね。本体は真ん中、かあ。さすが。深読みが過ぎた。」
歓声があがる。これには私に対する賞賛も少しは含まれている気がした。でも結局、私は観客を沸かせるための踏み台になっただけだった。
「ごめんね。バトラン。また負けちゃった。ああ、楽しかった!!」
私を取り囲む無数の爆発がフィナーレを演出して盛大に私は散った。




