屈強な青年、シーヴ
キキッ!
「うわっ!」
突然、高い音がした。馬車の中が大きく揺れる。放り出されないようにバトランにしがみ付いた。
「リイン、重いですよ。」
「重くない!平均くらいっ!仮に超えていたとしても誤差!」
馬車が止まった。何が起こったのだろうか。
「バトラン。当てようか。たぶん盗賊だろうね。」
「私もそう思います。盗賊でしょう。」
「ね。展開的に盗賊しか有り得ない。あーあ。これじゃ賭けにならないかあ。さて。正解は?」
私は答え合わせのため馬車を降りた。この世界では力は制限されてはいるが、それでも私は強い。退屈の気晴らしに神の力をお見せしましょう。神は気晴らしをするか?めちゃめちゃする!ムカつくから!
私は拳を強く握って構えた。
・・・あったのは休憩所。一旦、休憩するとのことだった。紛らわしい。
この辺りにはもう馬車に手を振ったり、追いかけてくる人はいない。城が近いからだ。白い城が遠くに見える。平穏な森の休憩所だ。私とバトランは簡易的に設置されている木の椅子に腰掛けた。
「そういえば。カナイ様からリインに渡しておけと言われたものが。」
「どうせ水でしょ。」
「み・・・。バレましたか。はい。水と弱体化の剣です。」
「ああ、ありがと。ちょうど欲しかったんだ・・・弱体化の剣?なんかぬるっと重要そうな武器出てこなかった!?ポケットは、生活必需品しか出せないんじゃなかったの!?」
「生活必需品ですよ。ここではリインの力は制限されていますが、それでも強すぎる。この剣はさらに制限を加えます。パワーバランスってやつです。」
「剣なんて持っていいの?私が?」
「勿論、殺めてはいけませんよ。これは持った者を弱体化する剣です。これなら戦いになっても苦戦を強いられます。いい戦いが出来ますよ。神様にはぴったりかと。」
「へえ。ありがたい。それに、カッコいい。騎士にでもなろうかな。」
剣の輝きがとんでもなく美しい。例えが難しい。光に照らされる雪のような銀色、かな。
私は剣を手でぐっ、としっかり握り、思いっきりブン!と振ってみた。横に一線。決まった。
ザン!
バキバキバキっ!!!
空気を切り裂く音速。遠くにあった巨木が両断され、大きな音を立てて木は倒れた。
・・・は?空いた口が塞がらなくなった。
「ああ、まだ制限が足りませんか。さっきは盗賊が現れなくてよかったです。やっぱりなし。なしで。」
呆れたような口調でバトランは言い、私から剣を奪った。
「やっぱり戦闘だけは避けないといけないみたい。残念。危なくなったらバトラン。頼むわ。」
「仕方ありませんね。」
休憩を経て、残りの道を進んだ。特段変わった景色は無かった。王城に到着すると、馬車の老人は、私達を下ろし、そそくさと去っていった。
今度は屈強な青年に門の中に流れるように案内される。顔以外は強固な鎧に覆われている。和かな笑顔とその武装にはかなりのギャップがある。
「リイン様、バトラン様。遠路よりお越しいただきありがとうございます。シーヴです。庭園を抜けたところに別館がございます。先ずはそちらにご案内します。ええと。」
シーヴと名乗る青年はどちらが私なのか、バトランなのかは分かっていない様子だった。
「バトランです。シーヴさん。私達が伝承として伝わる勇者だと皆が言います。それが私達なのかどうか分からないのです。それでも、王様に会っていいのでしょうか?」
「その点は問題ございません。それに、王様も楽しみにしております。さ、こちらです。」
・・・こちらとは。こんなに遠いものだっけ?こうして実際に来てみると城と城までの全域は遠くでみたときの想像よりも遥かに広大だ。城よりも近くにある別館ですら遠くにある。馬車はここまで来させた方が良かったのではないかと思う。神は不満を抱くか。めちゃめちゃに抱く。
ところでですけど。その理由には見当がついている。私の得意なことは。そう。人の善意や悪意が分かること。今までは、ここの人々に悪意を感じなかった。期待、それに羨望。それらの感情が支配的だった。
しかし。ここに来て。明確な敵視、つまり悪意を感じる。腰につけた長剣みたいに彼の感情は鋭い。
これは厄介者に向けられる感情だ。私達を快く思っていない。加えて、私達が伝説の勇者でなくても問題ないと言った。
だから。案内される場所にはおそらく。いや、絶対。王はいない。勇者でなくても良い、そんなことがあり得るとするなら。
ここで死ぬからだ。きっと、私達は殺される。逃げ道は立たれている。馬車を奪って逃走することも不可能。足の疲労もある・・・普通はね。
「着きました。すみませんね、広いもので。」
さあ、館の扉が開かれた。やはり何もない。誰もいない。血の匂いが微かにする。
予想と同じ事象が襲ってきた。だからこれは現実だ。早いね。長剣は既に抜かれている。首元か。狙いどころを確認してから私は言った。
「無駄だよ。私は欺けない。バトランっ!」
「はい。」
バトランが突きつけたレイピアは既にシーヴの首元に向けられていた。ピタリと長剣と彼は停止した。剣が私の首元を通過することはなかった。
「ムカつく。ムカつく!ムカつく!ムカつく!1000日も旅して。1000日も歩いて。この仕打ちかっ!!」
私はそう叫んで、シーヴの腹をぶん殴った。軽く。軽くね?鎧を纏っているのだから大丈夫でしょ。あれ、大丈夫?思ったよりも飛距離がある。
「あ、やべっ。ちょっと力込めすぎたかも。」
「いえ、ナイスです。ナイス脱力。気絶で済んでます。先程の経験が活きましたね。あー。肋骨が少し。いえ、なんでもありません。」
バトランが私に向けて親指を突き立てて賞賛してくれた。




