勇者、リインとバトラン
舞台はようやく切り替わった。私達は1,001日分の長旅による疲労を取るために休むことにした。
ところで。昔っから人々が好きなものがある。紅茶や珈琲?否。砂糖や胡椒?否。もっと古くから。
それは伝説だ。伝説は、事実なのか分からないくらいに歪められた伝聞や出所不明の書物から生まれるものもあれば、ほぼ正史が語られたり記されているものもある。
どれが正しくて正しくないなんて、私にも分からない。
神や勇者には必ず伝説が付いてくる。私達は、偶然にも重なってしまった。何とって?
・・・その伝説とだ。私達が暫しの休養をとっていると、噂は瞬く間に広がった。異国から、あの広大な砂漠を3,000日かけて神の使いが現れたと。色々と違う。
数日後、宿屋の娘に呼ばれて階段を降りると、宿の入り口には王の従者を名乗る男性が馬車を置き、待機していた。私達を一目見ようと、人が集まる。手を振る人、ありがとう、などと感謝の言葉を叫ぶ人。
「神の従者のお二人!ささっ!こちらへお乗り下さい。王様がお待ちです。」
「実績解除、ですね。それとも、フラグ回収でしょうか。数日、疲れて眠っていただけですが、物語は進行するようです。」
バトランが嫌そうに言った。
「流石に早いって。もうちょっと休みたい。観光や食事を楽しみたい。何もこんなに早くに来なくても。」
王様の使いの老人は私達に馬車に乗るように促した。ここでも歓迎ムードなのが気に掛かる。あの時と一緒だからだ。私は一応、確認した。
皆の感情。その多くは喜び、期待、それに羨望。悪意はない。しかし・・・。
断ることは出来ない。私は理解している。この私達に対する態度は私の返答によっては豹変すると。何故なら、ここの国民は王様を信頼しているから。
段々とパレードのような騒ぎになっていき、私の声はいくら叫んでも誰にも届かないくらいに騒々しくなった。
バトランと目が合った。彼女は何も言わずに首肯した。行こう、ということだろう。
あまり目立ちたくなかった。しかし、この国の王様に謁見する機会をここに辿り着いた瞬間に獲得してしまったようだ。ガラン王国。栄えた市場と元気な人々。そして、伝説。
それは、ありきたりな古臭い英雄伝だ。砂漠を渡って来た異国の神の使いがこの国に厄災をもたらす悪の化身を打ち倒すらしい。私はそれを聞いて少し嬉しくなった。
けれど、同時に思った。英雄伝があるということは何か困ったことがこの国にはあったのだろう。それは今も続いている。そんな気がする。禍根が残っているというか・・・。
「くぁあ。」
あくびが出る。
「ふぁ。」
私のあくびがバトランに伝染する。馬車が進むにつれて歓声は小さくなった。
「ねえ、バトラン。あなたには役目がある。伝説の勇者だから。この国に訪れたばかりの人がそう言われたら、それはかなり、理不尽じゃない?」
「悪魔を倒してくれるか?その問いに対して、勇者には、いいえの選択肢がないのですから、理不尽そのものです。脅威に怯えながら、平穏に暮らすというのは駄目なのでしょうか。」
「脅威なんか無視して、皆が平穏に暮らしたい。その中で、立ち上がった者が勇者と呼ばれるんだろうね。それが不本意であっても。その行いは確かに勇者の行いだ。」




