異世界転生の神、リイン
ああ、ムカつく。どれくらい?コップに入ったミルクをぶちまけて、割れたコップの破片が飛び散ったくらいに。ムカつくことに世の中は理不尽なことだらけだ。理不尽なんて、ない方がいいに決まっている。なのにそれがあるのは何故なのか。
私への試練のため?・・・違う。
そんなんじゃない。違うに決まっている。
自然の力?・・・確かに一理ある。でも、現代においての最もな理由を私はこう考える。人間だ。自然を除けば、私達が理不尽を生み出しているといえる。誰かの行動により、他の誰かに影響を与えている。
どこかで誰かが傷付いている。そんな当たり前のことがとても腹立たしい。きっと、知らない誰かによって、私は理不尽を被ったのだろう。私の最後の瞬間は覚えていないけれど。過去の私が伝えてくれている。怒りの感情をね。きっと、この怒りは前世のものだ。
そう、私は理不尽にも死んだんだ。理不尽に抗うことなど出来なかった。だから私はここにいる。
ここには、ほぼ何もない。無限に広がる白い空間に同じ椅子が二つ。今、私が片方の椅子に座っている。座り心地はとってもふわふわである。それと同じものが、大きな白いテーブルを挟んで、あっちの真向かいにある。まだ誰も座っていない。今日は少ないのだろうか。早く済ませたいのに。変わらない一面の白さと待てどもこない客人。退屈にムカつく。この怒りは今世のものだ。
「もうちょっとしたら。おそらく来ますね。はい。これでも飲んでて下さい。」
そう言ってテーブルに温かい紅茶を置いてくれたのは、この何もない空間の私の監視役かつ、給仕役であるバトランだ。名前は私が勝手に決めた。役割がバトラーだから、バトランだ。
バトランは私と同い年くらいで、見た目だけは超絶可愛い。まるで私が望んだかのような容姿をしている。でも、口は悪いし、怒ると恐い。死んだ魚のような目をしているのはいつものことだ。
私の趣味で彼女にはメイド服を着させている。白と黒の服に長い銀髪が映える。趣味というよりは趣向かもしれない。もしかしたら、私の趣味のせいでバトランは、いつも死んだお魚ちゃんのような目をしているのかもしれない。
ところで。実は私は偉いのです。大多数は私の要望に従うしかない。何故なら私は、今世では・・・。
「ありがと。相変わらず適温だね。たまには、うわっ!アチチ!とか言いたくなる。」
「次はそうしましょうか。沸騰するくらいの。」
「いやいい。大丈夫。風味も飛んじゃうし。」
「そうですか。それは残念です。」
バトランは心の底から残念そうにした。
「さて、流石に資料くらい目を通しておきますかね。」
私はテーブルに置かれた大量の資料に目を向けた。その中から一枚を手に取ってみる。
「おや、珍しく前向きではないですか。珍しい。いや、気まぐれで柄にもなく。珍しく張り切っているのですね。じゃあ、精々、頑張って下さい。あなたは転生の神様なんですから。」
「珍しいを連呼しないで。そう。私は転生の神様だから。今日も慈悲深い私が。理不尽な死を遂げた人間を異世界に送り届けてあげるのです。」
「・・・もう来たようですよ。」
「ええっ!?早っ!!」
誰もいなかった椅子に丸い小さな光の玉が集まっていく。その光の玉は少しずつ人の形を形成し、それが終わると光は消えていった。そして。
「・・・あれ、ここは?どこだ?うわあっ!神様!?」
現れた客人が言った。ここに招かれた者はだいたいこんな感じだ。おろおろと慌てふためくその客人に、私は咳払いをして、いつも最初にいう台詞を言った。
「前世はお疲れ様でした。安心して下さい。神様は見捨てない。理不尽な死を遂げたあなたを。私は神様。あなたが生まれるべき世界へ。あなたに相応しい世界へ。案内してあげます。」
異世界転生の神様、リイン。私はそれに。その存在に転生した。
その後はテンプレの会話。もう慣れた。何十回、何百回、何千回、何万回と繰り返す言葉、会話、かけ合い。だから割愛。流れるようにここに来た来客を転生させてきた。
「・・・というわけで一つだけ願いを叶えた状態であなたを異世界へと送り出します。」
人々を転生させるのを繰り返す。私は心では辟易としながら、ここまでの流れを問題なく来客に伝え、次々と転生させた。今日は十人で彼が最後の一人。この最後の彼が曲者だった。少年の信じられない言葉に私は驚いた。
「リインだっけ。キミ、つまらなそうだな。本気でやってる?」
「は?はぁ!?は!?神に向かって!?キミ!?」
「もっと楽しそうにしたら?あと考えて?もっと一人一人を理解した方がいいよ。何故、そいつが死んだのか。死ななければならなかったんだって。願い?そうだね。転生の神様。キミにもっと誠実に向き合って欲しいかな。」
少年は私にとんでもないことを言い出した。神にダメ出し!?失礼極まりない。ムカつく!
「バトランっ!こいつ不敬すぎっ!」
「そうですか?彼の言っていることに誤りはありません。あなたは人の人生を理解した上で願いを叶えて人々を転生させるべきです。」
バトランはニヤリと笑って言った。こいつを擁護した、だと!?むぎぎぎ、ムカつく。私は神様なのにっ!
「そうそう。そうしてから、僕に相応しい世界と願いを決めて欲しいな。」
調子づく少年。名前はええっと、カナイだっけ。・・・なんなんだこいつ!!偉そうに!神様は大変なんだよ!私よりガキじゃんっ!こいつはそんなに早くに死・・・。いや、違う違う。
「は?意味分かんない!なんで私が!?それにそんな時間はないっ!どれだけの人間がここに来ると思ってるの!?」
「それでしたら、問題ございません。」
腕を組んだ自信満々のバトランが発言を続ける。
「他の世界での時間の経過はこちらの世界へ影響を与えませんので。」
「だってさ。じゃ、行ってら。」
「行ってらっしゃいませ。」
バトランとカナイにトンと肩を押された。白い空間から私が弾きだされる。これは。凄い勢いで私が落ちている。降下している。
はっ?
はぁっ!?
「なんでぇぇっ!?」




