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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

感謝も非礼も100倍返しで

作者: 冬原光

その国には『ギフト』と呼ばれる異能を持つ者達がいた。


身体強化をする能力、見た物を忠実に描ける能力、人間には聞き取れないほど遠くの音を聞く能力……。異能は様々な種類が発現した。


遠い歴史のはじめに異能を持つ人々が誕生した。

彼らは国の発展に貢献し、貴族として高い地位が与えられる。

四つの能力が発現し、それぞれに爵位が与えられた。


異能は代々受け継がれているが、何代か飛ぶときもある。研究によれば、世に与える影響が大きい能力ほど継がれる世代が飛ぶらしい。

人に与えられるには過分な力のため、休眠期間があるのではというのが通説だった。


だが、その空白は三世代空くことはないとされている。


異能は神から与えられたギフトと尊ばれ、王城の広間に異能と共に、それを受け継いだ家の名前とともに石碑に刻まれている。


『身体強化』のヒューズ家

『念写』のトンプソン家

『傾聴』のミラー家


公爵家など、爵位が上の家の名前ばかりだった。国の皆から憧れられる存在。

……けれど、最後の家だけが例外だった。


『 』のハリス家


ハリス家の異能だけが空白となっていた。

正確に言えば、何者かに削り取られていた。

では、彼ら自身の異能を見ればいいのではという話にもいかなかった。


というのも、初代の発現以来、ハリス家の異能は一度も継がれていないからだった。


建国当時の資料を見てもハリス家の物だけは抜け落ちており高位貴族の者達すらわからなかった。


証明になるのはその石碑と爵位が授与されたという記録だけ。

国の中でも一番の領土を授与され、爵位の序列も高いものが与えられている。

国の主要な行事には、ほかの異能の家と共に出席をする。


王は常にハリス家に信頼を寄せていた。

実際、異能こそないもののハリス家の者は優秀な者が多く、王城でも多く雇用されて実績もあった。


けれど、彼らは初代以降異能を持っていない。

そして、誰一人として自分たちの持つ異能を明らかにしなかった。


国の歴史が進むにつれて、人々に疑惑が広がっていく。


そもそも、ハリス家は異能を持っているのか?

初代が王族をだまして不正に爵位を得たのでは?


そういった疑惑が今世代で確信と言っていいほど広まってしまった。

今世代は偶然にも、異能をもつ家の子供が同い年で揃っていた。


首都にある貴族か能力のある平民だけが通える、選ばれた学園に彼らは通っていた。

選ばれし生徒達の中で、異能を持つ者は羨望のまなざしを向けられていた。



疑惑の家、メアリー・ハリスを除いては。



彼女もまた、他のハリス家の当主と同様に異能を明らかにしなかったし、使うこともなかった。

それにより、彼女にはギフトが与えられなかったとして、露骨に下に見られていた。

周りの異能持ちの家からは嫌悪され、そのほかの貴族や平民達からは馬鹿にされた。


それが最高潮になったのは、卒業式の後のパーティーだった。

学園の生徒達が一同に介し、最高学年であるメアリー達が卒業するのを華々しく祝う場だった。


異能の家が4人も揃ったということで、例年より華やかな場になったが、そこで爆弾が投下された。


「ハリス家に送られたギフトは『詐欺師』なんじゃないか?」


そう言ったのはマイケル・ヒューズだ。

『身体強化』のギフトを持つ家で、彼はその能力を生かして将来は王族を守る護衛騎士になることが約束されている。

直情型の人間で、貴族には珍しく感情表現が豊かだった。今も、メアリーに対して馬鹿にする表情を隠さない。


彼の言葉に反応して周りがくすくすと笑う。

言われたメアリーは彼をじっと見返すだけで口を開かなかった。


「だんまりなのは相変わらずですね。あなたの家には、そういった疑惑が付きものだ。ギフトが与えられた4家が集うこの場でいっそ異能の力を証明してみてはどうですか?あなたの汚名を晴らすことにもなります。……まぁ、何も持っていなければ証明もできないですね」


あきれたように言ったのは『念写』のギフトを持つイアン・トンプソンだ。

彼もまた異能の持ち主で、見たものを全て記憶して、それを正確に記録することが出来る。卒業後は王城で仕事をすることが決まっていて、後の宰相になるのではと期待されていた。


「そうよ!このまま詐欺師と噂されて、身分不相応な地位にいるのは辛いでしょう?だから、四家と主要貴族の者達が集うこの場で明らかにすることはハリス家のためでもあるわ!皆が証人になってくれるから、ねぇ?そうでしょ?」


かわいらしい声でそういったのはナタリア・ミラーだ。『傾聴』のギフトを与えられている。通常では聞き取れないほどの距離の音を聞くことができ、近ければ声や表情から多彩な情報を得ることができる。

彼女の言葉に周りの者が同意して、メアリーの事をニタニタと見ていた。


きっと、これは最後の余興なのだろう。学生時代のいじめを今日で最後にして、明日から大人になる。だから最後の最後に盛大に楽しみたいのだ。


メアリーは小さなため息をついた。


それがいつも見ている彼女とは違う反応だったので、場が静まりかえる。


彼女はいつもほほえんでいた。

何を言われても、何をされても彼女の反応は変わらず、それがおもしろくなくて皆過激になっていたというのもある。

そんな彼女が人間らしい反応をしたのだ。



メアリーは周りを見据えて言った。


「証明……してあげましょうか」


その表情が、今まで見たことのないものだった。穏やかな空気は霧散し、底知れない闇を感じさせるほの暗い笑顔。

周りにいた者が、思わずメアリーから距離を取る。


メアリーは自分の声が皆に届くよう、ホールの上手にある壇上に上がった。


「初めてお話ししますが、初代以来の異能を、私が発現しました。今からその力をお見せしましょう」


思ってもいないことを言われて、ホールに困惑の空気が広がった。

ついに狂ったのか?と笑う者。嘘を重ねて後に引けなくなってしまったのかと哀れむ者。そして、彼女のいつもと違う雰囲気に恐れを感じる者。

その中心にメアリーはいた。


メアリーは辺りを見回して、すぐ近くにいた男子生徒に目線を合わせた。


「あなた、三日前に私に足をかけて転ばせましたね?」


名指しされた生徒はうろたえたが、すぐに平静を取り戻してメアリーに向き合う、


「何のことです?あなたの注意散漫で転んだところに居合わせましたが、私はそのようなことは……」


「そう?では私の異能で確認しましょうか?」


メアリーは彼を見つめて一言言った。


「『お返しいたします』」


そうメアリーが言ったとたんに、男子生徒の足がいびつな音をしてありえない方向に曲がった。


「ギャアァァァアアアア!!!!」


ホール全体に叫び声が上がった。男子生徒はその場に倒れ込んで、自分の足を信じられない目で見ていた。


「な、何が起こったんだ……?」


呆然としてマイケル・ヒューズがつぶやく。それにメアリーが答えた。


「これが私の異能。自分がされたことを相手に100倍でお返しするという能力。良いことには良いことで、悪いことには悪いことを返すことができるの」


言われたことが理解出来ず、マイケルはぽかんとしたが、我に返って激昂する。


「そんなものが在るわけ無いだろう!聞いたことが無い」


「でしょうね。言ったこと無いもの」


メアリーの言葉に怒りを覚えて、マイケルは彼女を殴ろうと手を振り上げたが、近くで足を押さえて痛みにわめく男子生徒の存在を思い出してその先を動くことはなかった。


そこに、イアン・トンプソンが話を続ける。


「我々が持つギフトは人間の能力を強化するものがほとんどだ。そんな人智を越えた力があるわけが……」


彼が言った言葉はメアリーによって遮られた。


「そう、人智を越えた力よね。けれど本当。……次は彼女で証明してあげましょうか?あなた、私の陰口をずっとしていたわね。そこかしこで、私が聞こえる場所でも。だから、あなたにも……『お返しいたします』」


メアリーが指さした女子生徒は急に怯え始めた。皆が固唾を飲んで見守っている中、彼女が周りを睨みながら叫んだ。


「今、私に成金って言ったの誰!?」


誰も口を開いていないのに、近くの人を睨みつけている。


「私の家は悪い商売になんて手を出していない!でたらめを言わないで!やめて!もう聞きたくない!」


大声で周りを威嚇して、そして最終的には耳をふさいでその場でうづくまった。その後も小さな声でやめてとつぶやき続けている。

メアリーがその様子を見て言った。


「私に悪口を言い続けた分、100倍になって返される。一年365日24時間言ってたわけじゃないから、寿命の範囲内で終わると良いわね」


ホールには二人のうめき声だけが響いていたが、別の声が上がる。


「……あの、ひとまず彼を医務室に連れて行ってもいいでしょうか?」


声をあげたのは輪の外にいた女子生徒だった。ブルブルと震えているが、まっすぐにメアリーに目線を送っている。


メアリーは、ほんの少し微笑んだ。


「えぇ、かまわないわ。静かに話が出来ないから二人とも連れて行ってくれるとうれしい。今から言う人は手伝ってあげて?」


ナタリーは数人を指して、女子生徒を助けるように促す。


「あなたたちはそのまま家に帰りなさい」


声をあげた女子生徒はいぶかしげな顔をして質問する。


「何故私達なのでしょうか」


「あなた達だけが、私を人間扱いしてくれたでしょう?話しかけてくれたり、支えてくれたり……人にとっては些細なことでも、私にとっては嬉しいことだった」


女子生徒はそれに首を振って答えた。


「私は、皆が見ていないところでしかメアリー様と話すことは出来なかった。臆病な人間です」


「……でも、私はあなた達の小さな親切に救われたのよ。ありがとう」


指名された数人の生徒達は、表だっては出来なかったが、時折メアリーに声をかけたり、助けたりした人たちだった。

食堂で食事をひっくり返された時に、そっとサンドイッチを差し出した生徒もいる。


彼女達がいたから、メアリーは心が折れずに学園に通うことが出来た。


わめく二人を支えながら外に向かっていた生徒達の背中に、メアリーは小さくつぶやいた。


「小さな親切、ありがとう。『お返しします』」


助かる方法があるかも知れないと分かった者達が動き出した。

そこかしこで、声をあげる生徒達が出てくる。


「あ、あの!私は以前あなたが課題で困っていた時に助けて……」

「私はこの前!」

「俺は!」


自分がメアリーをいかに助けたかを語り出す。だが、その声にメアリーが片手をあげて静かにさせる。


「けれど、それ以上に私を困らせた。だから、それをすべて……」


メアリーは言い終わる前に、該当の生徒達は駆けだした。その姿にほほえみながら続ける。


「『お返しします』」


その瞬間、阿鼻叫喚がこだました。ホールにいる生徒達は、駆けだした彼らがどうなったのか見る勇気はなかった。





メアリーは他の異能の家の者達に向き合って話し始めた。


「我が家に伝わる異能はご覧になった通り。異能の持ち主に与えれたものを100倍に返すもの。お金を渡せば、その100倍のお金が返る。それは権威でもそう。我が家が初代に高い爵位を与えられた理由の一つはそれです。初代に渡した爵位の分、王族は確固たる権威と100年続く国の安寧を得た」


マイケル・ヒューズが疑問を挟む。


「そんな異能を持っていながら、なぜ黙っていたんだ」


「初代国王が決めたのですよ。今後、我が家に恩を売れば自分よりも権威を持つ存在が現れるかも知れない。家臣に裏切られるかもしれないし、他国に知られれば、ハリス家そのものが戦争の種になるかもしれない。だから、ハリス家の異能は秘匿された。石碑をはじめ、記録に残すこともせずね」


「だが、人の記憶からは消えないはずだ。伝承などもないなんて……」


イアン・トンプソンの問いに、メアリーは答える。


「この長い歴史の間に、王族が手を変え品を変えて記憶と記録を抹消し続けたのですよ。書物を多く持つ高位貴族の家に王家の姫が定期的に嫁ぐのはそのため。彼女たちはその家に入り込んで記録を廃棄し、記憶を書き換えてきた。生んだ子供には情報を持たせないなどしてハリス家の情報を断絶していったの」


「なぜ、そんなことを知っている?」


「王家から一世代ごとに、お伺いのように状況報告が降りてきますからね。我が家を蔑ろにすればどうなるかを、王家が最も知っていますから」


ナタリア・ミラーが絞り出すように言った。


「なぜ、こんな状況になるまで隠していたの。そうだと知っていたならあんな事しなかった。王の命令とはいえ、同じ異能の私たちだけには……」


メアリーは呆れたように答えた。


「異能の力を隠すことは、初代の希望でもありました」


「初代の?」


「与えられる善意に疲れ果てたのよ。利益を得ようとする者ばかりに囲まれて、彼は病んでしまった。人を信じられなくなってしまったのよ。だから、子孫に同じ思いをしないように異能を隠し続けることにした。あなた達と違って、ギフトの力が強いから継承まで間はあくだろうしね」


馬鹿にされた3人は悔しそうな顔をするが、反論することはなかった。


「やはり、過ぎた力は人のためにならないわね。驕りを産み、人を傷つけるものになってしまった。……私の代で異能が発現したことは意味があったのかもしれない。そろそろ、神に返す時なのかしら」


「神に返す?」


マイケルの呟きに、メアリーは美しい笑顔で答えた。


「あなた達の命ごと、という意味よ」


その言葉に、誰もが恐怖したが泣き喚くことも出来なかった。もう、自分がやってきたことは取り返しがつかないことはわかったからだ。

過去の自分がしたことが戻ってくる。

良いことは100倍に。悪いことも100倍に。


メアリーはほほえんで、皆に向けて言った。


「今までされたこと『お返しします』」


ホールから、言葉にならない悲鳴と断末魔が響いた。


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― 新着の感想 ―
初代王は、まさに王というべき人で、その後の姫たちも王家の人間足る人たちだったのに、いつの間にか、古臭く腐った血になったんだね
面白かった。 短いストーリーの中に様々な要素が入っていて楽しめました。 ありがとう。
王家は、王家と積極的に何回も縁続きにして、伯爵でなく公爵や大公などの爵位と王家の分家としての礼遇を与えておけば良かったのでは。
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