1-4 章末ー廃棄領域の国
それからどれほどの時が過ぎただろうか。現実世界で言えば、わずか数日。しかしこの廃棄領域においては、流れる時の速さも、密度も、意味すらも違っていた。
今やそこには、一つの"秩序"が築かれていた。
崩壊と創造を半身に宿す異形の女神──彼女を中心に、統率された勢力が動いていた。
最深部に座す玉座は、彼女のために作られたものではない。
かつてデバッグ中に破棄された宮殿の残骸を再構築し、再定義したものだ。歪にして優美。崩れ落ちた石造と、花のように咲いた構造体が交差する玉座の間。その中心に、彼女は静かに座していた。
彼女の周囲には、今や七体──いや、それ以上の異形たちが集っている。
彼女を支える存在たち、それぞれが自らの役割を持って動いていた。
古びた機械の端末を操作し、廃棄されたデータの断片を集めている者。
監視と索敵の目を光らせ、領域を巡回している者。
その他にも、まだ姿を見せない者たちが、次々と各所で活動を始めている。
領域の中には、目に見えぬ力が宿り、その力を振るう者たちが動き出す気配が充満していた。事実、廃棄領域内のすべての空間は、女神の意思のもと、徐々に再構築されつつあった。その構造は決して完璧ではないが、どこか美しく、力強いものを感じさせた。
無数のノンプレイヤーキャラクターたちが次々と集まり、各自の役割に応じて動く。そのすべてが、かつて廃棄された存在でありながらも、今や新たな目的を胸に抱いている。彼らの間には、特に強い絆があるわけでもなく、互いに助け合っているわけでもない。しかし、彼女──女神の存在が、それぞれを統べているのだ。
「じゃあ行こうか。」
その言葉が空気を切り裂く。
「私たちの世界を取り戻しに。」
廃棄領域の外に目を向けると、微かな変化が起きていた。
誰もその正体を知る者はいない。だが、遠くで何かが動き、ほんのわずかな波紋が広がり始めていた。数人の人物が、画面を前にして何かに気づいたような素振りを見せる。
そのうちの一人が、指を止めて言った。
「…これは、いったい?」
目の前に広がるデータ、ログ、そして異常な通信記録。それが示すものが、今までのデータベースには存在しなかったものだということに気づき、彼は無意識に手を止める。
その後、すぐに通信は切断され、誰かが「報告する」とだけつぶやいて立ち去った。
だが、その一瞬、誰もが気づかなかった。廃棄されたはずの存在が、わずかに目を覚まし始めたことに。
女神の視線は遠く、今はまだ気づいていない。しかし、いつかその「違和感」が彼女のもとに届く日が来るだろう。
それまでは、ただ静かに時を待つのみ。