表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

プロローグ

 忙しなく打鍵音と複数人の声が都内某所のオフィスに飛び交う。

 幾百とあるMMOゲームがトップ争いを繰り広げる今の時代。とあるVRMMOが脚光を浴びていた。

 しかし、その裏側はまさにデスマーチ。修羅と化す社員たちは連日、鬼のような作業をこなしていた。



「それにしても本当によかったんですか?」

「……なにがだ」


 喫煙所にて二人の男の声が交わされる。

 一人は20代半ばにして、ゲームのシステムエンジニアとして頭角を現す若きエース。

 もう一人は、そんな彼が担当するゲームの開発部門の部門長である四十路の男。


「いや、だって()()バグですよね?」

「まぁそうなんだが、そうは言ってもこれを利用しないでどうするっていうんだよ。大体、誰一人バグの修正ができないときたら」

「……そうなんですけど。でもだからってそれを仕様にしちゃうのは」

「お前の言い分はわかるんだけどなー。バグとはいえ、ゲームに不具合はない。それに多少予期せぬことが起こるくらいの方が、ゲームのコンセプトにも合うだろ?」

「……はあ」


 彼らが開発を進めるゲームの名は「Eldritch Realms」(エルドリッチ・レルム)、通称ER。

 所謂ファンタジーなVRMMOなのだが、その自由度に異常性があり人気を博していた。

 種族数は500を超え、ゲームとしてタブー視されるリアルマネートレードもシステムとして組み込まれており、五感の再現も設定次第では限りなくリアルに近づけることもできた。


 またNPCも特別であった。

 個々のAIにはまるで魂がこもっているかのような行動に、プレイヤーは魅了されていた。

 ある人は第二の地球と評すレベルで現実との差はほとんどないとされる。

 そんなゲームに今、問題が生じているといえば先の会話に出てきたバグである。


「でも先輩。システム上問題はないとは言っても不気味じゃありません?」

「……まぁ」

「AIの思想する範疇から逸脱したNPCですよ? 先輩だってわかっていますよね、奴は俺の手に負えないっすもん」

「でも、どうすることもできないからプレイヤーに倒してもらおうとしてんだろ?」

「いや、絶対無理っすよ」

「……」


 開発部門で手を焼くNPC。上層部が匙を投げ、プレイヤーに丸投げする形になってしまった要因。

 それが今回の大型イベントの発端であるレイドボスにして、バグの原因。

 それは本来であれば存在しえないキャラだった。

 それは開発に着手したばかりのころ、ゲーム内の神の1柱として作成されたものだったのだ。

 クトゥルフ神話をモチーフにした世界観に合わせた為、作成過程で徐々に徐々に醜くなってしまったのだ。

 本来であれば美しい女神として崇め奉られる存在だったのだが、恐れ慄く風貌へと変わり果てたそれは、作成段階の途中で廃棄された。

 中身はおろか側も未完成の失敗作だった。

 はずだったのだ。


「言ってもゲームは始まったばかり。現状のアップデート状況で、レベル上限は30。トッププレイヤーでもその達成率は未だ70%未満、全体でみればよくて40%くらいっすよ」

「いや、うちのゲームはレベルよりもPS(プレイヤースキル)を重視しているだろ? レベルはあくまでも目安だ。スキルの使い方、立ち回りで--」

「どうこうできるレベルだとでも?」


 今まで会社の重要な心臓として活躍をしていた彼から、隈がはっきりと残る疲れ切った目で部門長を見上げる。


「奴のレベルは不明。少なくとも今想定されているゲーム終盤の100レベルの上限は余裕で越えています。というか、ゲームのシステムデータに介入できるNPCボスって……。無理ゲーを吹っかけてくそげーになるのが関の山っすよ」

「……」


 彼の言い分はわかっていても、もうどうしようもない。

 彼自身もそれが分かっているからか、力なくつぶやくように言葉にする。


「まぁ最悪くそげー落ちしたとしても、成長したNPCのAI情報をもとに新たなゲームでも作れば問題ないっすかね」


 彼にはこのゲームの終わりの時期が分かっているかのようだった。

 現状このゲームで使用できる会社の金はそれなりにある。今回の討伐報酬でリアルマネーを入れれば、参加者は増えるだろうか?

 最悪無理だった場合でも、早めに切り替えれば新たなゲームを制作するだけの資金力はウチの会社にはあるにはある、か。

 ちりちりと燃えるタバコを咥え、ふぅーっと長めのため息交じりの煙を吐き出す。


「……最悪、か」

「最悪です。ま、できる限りプレイヤーには手を貸しましょう」

「そうだな」




 そして想定していた最悪「ゲームの人気の寿命の終わり」よりもはるかに上回る最悪な形を数日後に迎えることになる。




 誰かが言った。無理ゲー? 笑わせるな、こんなのゲームですらない。




 誰かが嘆いた。お願い、助けて。私たちをここから解放して。



(声なき声:やっと、気づいたのね。私を作り、私を捨てたあなたたち――)


 NPCが嗤った。ようこそ私の、私たちの世界へ。

 廃棄領域から覚醒してしまったNPC。奴は良くも悪くも名実ともに神となる。

 

 それはそう遠くない未来に起こるVR業界最大の事件であり大惨事。

 総プレイヤー数※※万人を巻き込むことになる。


「運営からのお知らせ」

20xx年--月**日

大型イベント開催決定

内容は--------------------

クリア報酬:リアルマネー最大2500万円(参加者の貢献度によって変動)

※注:このイベントにおけるNPCの行動は、運営側の制御下にはありません。

久しぶりの連載作品です!

この作品は、VRMMOですが主人公視点はNPCとなりますので、いずれはプレイヤーと敵対するかもしれないです苦笑

もし、少しでも面白いと感じてくだされば、評価とブックマーク登録の程よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ