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7話:篝火と謎の女性

「ウギャアアアァァ!!!!」

「ヘアァッ! アギャッッアァァアア!!」


 焼かれ爛れる兵士たちの悲鳴は塔の中にまで響いてくる。

 塔の外では未だに、飛竜のブレスが轟いていた。

 俺が塔に逃げ込んでから既に五分は経っているぞ……。


「あの飛竜様は全員を焼き殺すまで気が済まないのか」


 どこの誰が、飛竜の怒りを買ったというのだ。

 骨の髄まで焼き尽くされるなんて、そうそう体験できることじゃないぞ。


 だがその悲鳴も、轟音も、少しずつ減っていく。

 兵士の数が減ってきたのだろう。


 そして最後には、これまでが嘘だったかのように静寂が訪れた。

 飛竜の羽音も遠くなっていく。


 外の連中が全滅したのか?

 それとも、飛竜が虐殺行為に飽きたのか?

 いずれにせよ飛竜はここを去ったのだろうな。


 ひとまずの安全が確認できたようなので、現状について考えてみるか。

 飛竜との接敵……普通に考えれば絶望的な相手だ。

 しかし俺は、逆にこれをチャンスだと思っていた。

 なぜなら、よりによって現れたのが飛竜だからだ。


 死にゲー(ソウルライク)には、お約束がある。

 お約束とは、飛竜を倒せば強力な武器、つまり竜の武器が入手できるというもの。

 そんな強力な武器が欲しいか、いらないかで言うと、喉から手が出るほど欲しい!

 そうなると飛竜の認識が《《脅威》》から《《お宝》》に変わるというわけだ。


 この世界にそのお約束が適用されているなら、ぜひとも倒したいところ!

 そもそもアイテムドロップが確認できているのだから、飛竜のお約束も絶対にありえないわけでもないだろう。

 仮に竜の武器がドロップしたとして、問題は倒せるかどうかだ。

 今の俺では勝つビジョンがまったく見えない。

 ゲームなら敵の攻撃を予測し、ボタンを押すだけだが、今は違う。

 現実にいる飛竜と実際に戦わなきゃいけないからだ。

 さすがにゲームと現実とでは話が違いすぎる。

 だが――。


「くぅ~~~、どうしても欲しい!」


 んー! ダメだ!

 これ以上、考えても埒が明かない!


 よし、スパッと切り替えて、いったん保留にしよう!

 それに飛竜以外にも、この塔についても気になってたんだよね。

 飛竜が去った今ならば、多少は安全に調べることもできるだろうし。


 改めて俺は周囲を見渡す。

 俺が逃げ込んできた石造りの塔。

 部屋の片隅には螺旋階段があり、上へと続いている。

 逃げ込む際に見た限りの全景では、そこまで大きな塔ではなかったはずだ。


「ひとまず上ってみるか」


 俺は螺旋階段を上ることにした。

 一応、上階に敵が残っていることを考えて、警戒はしておく。


 螺旋階段を十数段上ると、先程と同じくらいの広さの部屋にたどり着いた。

 幸い敵の姿は見当たらない。

 壁には物見用の隙間窓がいくつかあり、中央には今にも消えそうな火が灯った篝火が燻っていた。


「なんだあれ……篝火……?」


 なぜこんな場所に?

 しかも無造作に、部屋のド真ん中……。

 暖炉でもない、建物の内部だぞ?


 異様な場所に篝火があることに違和感を感じる。

 だがそれとは別に、見覚えのある光景でもあった。

 そう、幾度も目にした馴染み深いその光景を……。


 そうだ……これは、もしや!

 俺の中の死にゲー(ソウルライク)知識が反応する。

 篝火に近づき、手をかざしてみろ、と。

 直感に従い、燻る篝火に近づき、手をかざしてみた。


 すると、今にも消え入りそうだった火が水を得た魚のように激しく燃え上がる。

 その炎は驚くほどに温かく、まるで身も心も癒してくれるかのようだった。


 なんだろう。

 俺の身体が、この篝火に当たりたいと訴えている気がする。

 不思議な欲求に逆らえず、篝火の前に座り込むことにした。


「おぉ、暖かいなぁ……」


 それだけじゃない。

 まるで疲れが抜けていくような感覚すらある。


 俺の予想が正しければ、これも死にゲー(ソウルライク)要素の一つ、回復地点の予感がする。

 そうだとすると死んだ際に復活リスポーンする地点ということも有り得る。


 つまりはここを起点に何度でも飛竜に挑めるってことか!

 なんてグッドタイミング!

 俄然、やる気が出てきた!


「だとして、どうやってあの飛竜を倒すか……」


 遠距離武器や投擲物を使い、遠くからチクチクと攻撃する。

 飛竜の攻撃をひたすらに回避し、倒すまで攻撃・回避をし続ける。

 共闘してくれる仲間を探し、一緒に戦う。

 兵士や流人を囮に、ひそかに俺が飛竜を攻撃する。

 

 いろんな戦法を思い浮かべるが、現状ではいずれも現実的ではなく、実行には移せない。

 俺自身にレベルの概念があるのだから、飛竜を倒せるレベルまで上げる方法が見つかれば、もしかしたら倒せるようになるかもしれないが。

 そもそも、あいつは初期レベルで倒せる相手なのか?

 ――と、その時だった。


「初めまして、エスラリヴに来訪せし流人様」


 誰かから不意に話しかけられた。

 俺は驚き、声のした方を振り向く。


 何もなかった空間から、幽霊が実体を持つかのように、その人は現れた。

 声からして女性であろうか。

 だが顔は被ったフードで隠れて、顔はもちろん性別すらも判別がつかない。


 そして、その人は静かにこちらへ歩み寄ってくる。

 やがて俺の前で膝をつき、視線を合わせると、フードを脱いだ。

 フードを脱ぐことで女性であることがハッキリとした。


 赤茶の髪をしており、首元ほどの長さで、緩く癖がかかっている。

 顔立ちは全体的に整っており、その炎のように赤い瞳は真剣な眼差しを宿していた。


「私の名前はカドナ。流人様、私と取引をしませんか?」


 急に現れて、取引だとぉ?

 怪しさ全開だな!

 こんな世界で取引だなんて、まともな内容とも思えないが。

 とりあえずいきなり刃を突き立ててこない以上、話を聞いてみるか……。


「取引って?」

「話を聞いてくれて、ありがとう」


 女性は恭しく頭を下げる。

 先の、疲れ切った男性と比べると、随分と礼儀正しく見えてしまう。


「私の願いは一つ。貴方にこの世界の王になってほしい」

「ほう……?」


 元の世界に戻るためには、この人に言われずとも俺は王にならなければならない。

 つまりこの取引、俺にとって不利益がまるでないことになる。

 だとしたら受けるのもアリか……?

 いや、それだと話がうますぎるか……?


「取引としての対価は?」

「貴方は元の世界に戻るべく、この世界の王たちを倒すための旅をしている……私は、そのための力を与えることができる」


 力?

 なんだ? パワーアップイベントか?

 内容が曖昧すぎてなんとも言えないな。


「具体的には?」

「貴方の内に眠る“エナ”を、力に換える術を与えられる」


 エナ……新しい単語が現れたな。

 死にゲー(ソウルライク)でも、そんな感じの単語は見たことがないな……。


「それにより貴方は、今より強力な存在になれるはず……」


 “エナ”とやらを力に換える術……ステータスの上昇……?

 いや、待てよ……。

 そうだ、一つ思い浮かぶイベントがある。

 つまりはこれは、レベルアップのことではないか?


 胡散臭い人が来たと思ったが、この人……。

 |レベルアップしてくれるキャラ《メインヒロイン》ではないか?



====================



【TIPS】

竜の武器


竜は己の魂を変質させ、武器と一体化することにより、強力な武器へと姿を変えることができる。

個体により能力の差はあるが、いずれも絶大なる力を宿す。


古の竜狩人たちはそれを求めて竜を討ち、力を得た。

だがそのいずれも、竜の長により大陸ごと滅ぼされたと伝えられている。

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