6話:飛竜アカムギルト
俺は引き続き下水管を探索していた。
ひたすらに暗く、じめじめとした嫌な空間が続いている。
そんな中、進行先から、何やら明るい何かが入ってきているのに俺は気付いた。
「なんだ……? 光が差し込んでるのか?」
明るい何かの正体は穴から差し込む太陽の光だった。
俺から見て左手の壁に、人が通れるほどの穴が空いている。
だが明らかに本来の出口ではなさそうだ、
しかし、光が差し込んでいるということは外の空間に通じているのではないか?
だったら確かめるしかないな。
それに、長い事暗いところにいたので、太陽を拝みたかったのもある。
俺は迷わず穴をくぐり抜ける。
すると、眩い光が視界に飛び込んできた。
期待半分、不安半分の気持ちで、一歩踏み出す。
「うっ! 眩しっ!」
途端に強烈な日差しが降り注ぎ、思わず手で目を覆った。
暗闇に長くいたせいで、目が慣れるまで少し時間がかかる。
しばらくして、ようやく周囲の景色が見え始めた。
目の前には見たこともない建造物群が広がっている。
「おぉ……すげぇ……!」
いつの間にか、城塞都市の内部に出たらしい。
その瞬間、不意にウィンドウが出現する。
―― 城塞都市、レムイル ――
これがこの都市の名前なのか!
どうやら図らずとも、俺は新しいエリアに踏み込んだらしい。
新しいエリアはやっぱりテンションが上がるな!
確か城塞都市の最奥に、倒すべき“王”がいるんだったか。
ということは最初の目的地もここに違いないな。
「どんな強敵が待ってるのやら……!」
ワクワクが止まらない。
だが、まずは探索だ。
周囲を見回すと、近くに石畳の道路が伸びていた。
道順的にはここだろうか。
とりあえず、そこへ向かうことにする。
都市内部には、正気を失った流人たちの姿が所々にいた。
彼らも俺と同じように、この地の王へ挑んだ者たちなのだろうか?
にしては、数が多すぎる。
一人二人どころじゃない。
道端や建物の影、広場の隅……視界に入るだけで十人以上はいる。
それだけ心折れた者がいるということか。
こいつらも、下水管にいたやつと一緒で、俺を見つけたら襲いかかってくるのだろうか。
さすがに、これだけの数を相手にするのは無理だ。
ならば見つからないようにしないとな。
そして、もうひとつ気になることがあった。
流人たちとは別に、剣や鎧を装備した者たちがいる。
まるで城塞都市の兵士のように、じっと周囲を警戒していた。
「兵士連中はさすがに強そうだな」
いずれにせよ、今は関わらないほうがいいか。
多勢に無勢。
下手に動けば一瞬で囲まれる。
今は気づかれないようにやり過ごすしかない。
その時だった。
「グギャォォォォオオ!!!」
うるさッ!!!
な、何が起こった?!
鼓膜が破れそうなほどの轟音が響き渡る。
俺だけじゃない。
流人や兵士たちも同様に苦悶の表情を浮かべていた。
何事かと、場にいる全員が一斉に音のした方角を向く。
『飛竜アカムギルト』
ウィンドウが突如として表示される。
「おいおい……飛竜ってマジかよ!!!」
思わず俺は笑ってしまった。
“飛竜”というワードに色んな感情が溢れ出る。
アニメやゲームはもちろん、様々な作品で登場した男の子心をくすぐる素敵ワード。
その声の主が、巨大な翼をはためかせ、視界の中に入ってきた。
赤黒い鱗を持つ巨大な飛竜。
一戸建ての家ぐらいのサイズはあるんじゃないか?
ゲームとは違い、眼の前にして感じられる圧倒的な存在感。
その姿に、胸の鼓動が一気に高鳴る。
だが、今の俺じゃ到底勝ち目はない。
堪えろ、俺。
挑戦したいという無貌な思考を、必死で俺は抑え込む。
とにかく今は観察だ。
近くにある建物の裏に身を潜めることにする。
飛竜はどうやら兵士たちを標的に定めたようだ。
巨大な翼を翻し、人の胴体ほどはあるような鋭い前爪を煌めかせ、急降下する。
圧倒的な暴力が兵士たちの前に立ちはだかり、安々とちぎり捨てた。
先ほどの強そうに見えた兵士たちも、飛竜相手ではブルブルと震えてしまっている。
だが腐っても兵士だ。
怯えながらも剣を構え、戦う意思を見せる。
だが、そんなものが意味を成すはずもない。
飛竜の口が大きく開かれる。
次の瞬間、業火が解き放たれた。
兵士たちの悲鳴が飛び交う。
流人たちも、次々と焼かれていく。
それは地獄絵図だった。
すると炎に包まれながらも、兵士の一人が声にならない叫びを上げつつ、こちらへ向かって走ってきた。
燃え上がる体。
兵士の死は免れない。
だが、問題はそこじゃない。
こっちに来ると飛竜に、俺がここにいるってバレちまうだろうが!
本当なら飛竜と戦いたい。
だが現状では勝ち目がない。
ならば逃げるしかない!
焦りながら周囲を見渡すと、視界の端に石造りの塔が映る。
あそこだ!
俺は迷わず駆け込んだ。
====================
【TIPS】
火炎ブレス
種類:祈祷
消費MP:21
必要能力値:筋力:- 技量:- 知力:- 信仰:15 神秘:10
竜の御姿を象り、自身の口より火炎を放射する禁忌の祈祷。
灼熱の火炎を前に弱者は成すすべもなく焼かれるだろう。
その圧倒的な力を恐れた王たちは、竜神教の祈祷師を闇へと葬った。