50話:腐敗のロングソード+2
白霧の森を掻き分け、俺は再びアスナールの鍛冶小屋へと辿り着いた。
小屋の煙突からは細い煙が立ち上り、打撃音が微かに森へと響いている。
扉の前に立ち、叩こうとした、その瞬間だった。
「入れ」
家の中から低く、無愛想な声が聞こえた。
俺は扉を押し開け、小屋の中へ入る。
炉の赤々と燃える光が、影を大きく揺らしていた。
俺が入ってきたことに気づいたアスナールは金槌を置き、こちらを振り返った。
「帰ってきたか」
「出来たのか?」
「《ロングソード》の強化は完了した。受け取れ」
アスナールは布に包まれた一本の剣を差し出してきた。
慎重に受け取り、包みを解く。
現れたのは、馴染み深い……だが、どこか異なる《ロングソード》だった。
『《ロングソード+2》を取得しました』
目の前にウィンドウが浮かび上がる。
柄も鍔もそのままだが、刃渡りに僅かな輝きが増していた。
鍛え直された鉄はより密度を増し、握った瞬間に違いが分かるほどだった。
手に馴染む感覚も申し分ない。
これなら、確実にこれまで以上の戦いができる!
「すげえな……!」
思わず声が漏れた。
その賛辞を聞いて、アスナールの口元が微かに綻んだ気がした。
「当然だ」
そう言った後、アスナールは机の上を親指で指指す。
そこには、黒紫色に鈍く光る、不気味な砥石が置かれていた。
「次に例の《腐敗の結石》だが、《腐敗の砥石》に加工できたぞ」
「おぉ、できたのか」
「これを使えば腐敗の武器に変質できるが、どうする?」
試すような眼差し。
だが、俺に迷いはなかった。
「それじゃあ頼む、この剣を変質してくれ」
受け取ったばかりの《ロングソード+2》を差し出す。
腐敗属性。
《腐敗の結石》に書かれてた説明文によると、竜すら蝕む呪いのようなものだと。
アカムギルト、腐敗ヒュドラ、これからも強敵は現れるだろう。
なら、備えておくに越したことはない。
「いいだろう、少し待ってろ」
アスナールは短くうなずき、手早く作業に取り掛かった。
《ロングソード+2》を《腐敗の砥石》で研磨していく。
室内に立ち込める鉄と腐敗の匂い。
研磨されるごとに、刃の色が暗く、そして赤黒く濁っていく。
まともじゃない、まるで呪われた剣のように。
時間にして、ほんの数分。
アスナールが仕上げを加え、そっと言った。
「……出来たぞ」
慎重に手渡された剣を、俺は受け取った。
『《腐敗のロングソード+2》を取得しました』
受け取った剣をよく見てみる。
刃には微かに瘴気が纏い、禍々しい気配を放っていた。
竜を呪うという禍々しい気配。
ただ構えているだけで、手にする者すら侵食しそうな気迫を纏っていた。
「お前の剣は期待に応え、強くなった。そいつをどう使いこなすかは、お前次第だ」
その言葉に、俺は静かにうなずいた。
剣を鞘に収めた瞬間、〈インベントリ〉に収納され、俺の手から消えた。
ここでやるべきことはひとまず終わりか。
「ありがとう、アスナール。助かった」
「仕事をしたまでだ、礼はいらん」
相変わらず職人気質な男だ。
俺が背を向けかけた、その時だった。
「待て」
アスナールが声をかけ、手にしていた革製の袋を投げてきた。
俺は反射的にそれを受け取る。
『《武器袋》を取得しました』
「これは?」
「武器を納めておくための袋だ。これで武器の切り替えが楽になるだろう」
なるほど、ありがたい!
言うなれば、スロット2とか、サブ武器スロットのようなものか。
つまりは《腐敗のロングソード+2》と《ウォーランの大剣》を使い分けられる。
そういうことだな。
今までは装備変更が地味にストレスだった。
だが、これで一気に解決だ!
「色々とすまないな」
「気にするな、捨てようと思ってたものだ」
そっけない態度ではあるが、どことなく優しさを感じる。
本当に不器用な人だな、この人は。
準備は整った。
底村に……っと、そうだ。
せっかくだし、アスナールにこの国“アドスリール”のことを聞いてみるか。
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【TIPS】
武器袋
種類:貴重品
アスナールが昔使っていた革製の袋。
武器を納めておくことができ、武器の切り替えを容易にしてくれる。
武器の数が多ければ強いというわけではないが、
生き残るための可能性を広げてくれるのは間違いないだろう。