5話:初アイテムドロップ
あれから何体かの巨大ネズミと遭遇したが漏らすことなく全て倒した。
おかげで輝く塵もそこそこ集められたと思う。
しかし、これの使い道は依然として分からない。
そもそも何なんだ、これは……。
「うーん、考えても分からん」
とりあえず悩むのは一度保留にして、今は下水管の出口を探したいところ。
幸い、分かれ道はなく、迷うこともない。
行き止まりであれば……面倒ではあるが引き返せそう。
「お? なんだ、あれ……人か?」
視線の先に人影らしきものが見えた。
会話のできる相手であればいいのだが、こんなところにいる以上まともな人間ではないだろうな……。
少なくとも敵ではないことを願う。
接触を避けるのが一番だが、残念ながら一本道なので、仕方なくそのまま進む。
そして距離が縮まるにつれ、それの正体が徐々に明らかになった。
それは、痩せ衰え、虚ろな目をした男だった。
まるで抜け殻のような姿だ。
挑戦することを諦めてしまった者。
人間性を失った者の成れの果て。
正気を保っているとは思えず、気が狂ったかのように壁に頭を打ち続けている。
これは、元の世界に帰れなかった未来の俺の姿とも言えるのかもしれない。
「何もできなければ、俺もこうなるってことか……」
こんな風にはなりたくない。
一応、警戒ということもあり、武器を手に取った。
戦う意思がないのならそのまま過ぎ去りたいところだが……。
「ウゥ……ウゥァァ……」
「うっ、気づかれた……!」
虚ろな目をしていた男が俺の存在に気づいたのか、よろめきながらこちらに向かう。
手には剣……というにはあまりにもボロボロな、刃が折れた代物を握っていた。
男は折れた剣を振りかざし、俺に向かって飛びかかってくる。
だが動きは鈍足で、避けるのは容易いだろう。
「襲ってくるのだったら、俺も身を守らないとな」
戦うつもりはなかったが、襲いかかってくるのであれば話は別だ。
俺は軽く横に避けると、男はそのまま勢い余って俺の横をすり抜け、地面に倒れ込む。
反撃といわんばかりに、俺は右手に握る《ロングソード》を振り上げ、一気に振り下ろした。
「……ウッ!」
男は叫ぶことすらできず絶命し、その身体は塵となって消えていった。
その身体は塵となり、ゆっくりと俺へと吸収されていく。
「こいつも死んだら塵になるのか」
この世界では動物も人も、死ねば塵になって他者に吸収されるようだ。
ということは俺も死んだら塵になるのだろうか?
さすがに自分の死を客観的に見ることは叶わないので、それの真偽は確認できないが。
――フワァ……。
そんなことを考えていると、塵となった男のいたところに微かな音とともに白い人魂のようなものが出現した。
このような代物を、俺は死にゲーで見た覚えがあった。
そう、これは……。
「もしかしてアイテムドロップか!」
だとすると、確認せずにはいられない!
好奇心が勝り、俺はその白い塊に手を伸ばす。
すると、白い塊は消え、代わりにウィンドウが現れた。
『《折れた剣の柄》を取得しました』
やっぱり予想通り、アイテムだったか!
この世界では、敵を倒したらアイテムをドロップするらしい!
どうやら《折れた剣の柄》というものを手に入れたらしい。
《折れた剣の柄》というと……さっきの男が持っていた武器か?
というか、手に入れた武器がどこだ?
手に持っているわけではなく、どこにいったのか分からない。
もしや直接手に入るのではなく、所謂アイテムボックスに収納される仕様なのか?
だとしたら有り難いぞ。
さっそく、俺は頭の中で〈インベントリ〉を強く意識する。
すると、新たなウィンドウが目の前に出現した。
〈装備〉の項目を確認していくと、確かに《折れた剣の柄》が収納されている。
どうやら、ここで性能を確認したり、装備の切り替えや管理ができるようだ。
さらに、見たところアイテムの重量や数量に制限はなさそうだった。
問題の《折れた剣の柄》の性能は……。
「……うーん、微妙な性能!」
やっぱり刃が折れているだけあって、《ロングソード》には遠く及ばなかった。
あらゆるパラメータが劣っている。
さすがにこれを武器として使うのは、ちょっと厳しいだろう。
だが、アイテムの仕様が分かっただけでも収穫はある。
それに、敵を倒せばアイテムがドロップするとなれば――。
気になる敵を見つけ次第、バシバシ狩っていくのもアリかもしれない。
色んな武器を試してみたいし、何よりこういう蒐集要素は結構好きだ。
これからが楽しみになってきたぞ!
自然と俺の表情に笑みが滲んでいた。
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【TIPS】
折れた剣の柄
種類:直剣
スキル:なし
特殊効果:なし
必要能力値:筋力:6 技量:3 知力:- 信仰:- 神秘:-
刃先が折れて、柄だけとなった剣。
正気であればこれを使い続けようとは思わない。
強いて挙げるならば、刃先がなくなった分だけ軽量になっているのでスタミナの消耗は少ないだろう。