4話:下水管、ネズミ、経験値
俺の予想通り死にゲー世界だとする。
だとすると、果たしてどこまで俺の知っている死にゲー要素があるのか。
ここは前世とは違い、SNSもなければ情報交換できる友人もいない。
結局のところ、臨機応変に対応していくしかないってか。
まぁ、いいさ。
幸いリトライは可能なんだ。
鬼畜要素を逆に楽しむぐらいでなくっちゃな!
さて、とりあえず現状の目的を整理してみよう。
さっきの男が言っていたことをまとめるとこうだ。
まずは各地の王を倒して強くなる。
そうして強くなっていき、そして最終的に王たちの頂点を倒せば元の世界に帰れるという話だったな。
最初の『不死潰しのデーモン』のことを考えると、おそらく王は尋常じゃない強さを持っているだろう。
だが、勝つまでトライ&エラーを繰り返せばいずれは倒せるかもしれないということだ。
この展開に死にゲー好きとしては燃えないわけがない。
「へっ……やってやるぜ……!」
俄然やる気が湧いてきたところで、気がつくと階段を登り終えていた。
目の前にあったのは、人が入れるサイズの下水管。
他に進めそうな道はない。
つまり、この中を通れということか。
でも、こういう場所は嫌な予感しかしないんだよなぁ。
下水管の内部を歩いていく。
床には汚水が流れており、歩くたびにピチャピチャと水が跳ねる。
「まさかこんなところを歩く日が来るとはなぁ」
下水管を歩くという初体験に嫌な感動をする。
そんなしたくもない感動をしていると、俺の足音と重なるように奇妙な音が奥からしてきた。
それは、クチャクチャと咀嚼音のような不快な音だ。
近づくにつれ、その正体が明らかになる。
「あー、やっぱりアイツがいるよなー」
死にゲーでよく見かける嫌な敵だった。
ブクブクと肥え、肌は腐り落ち、不衛生の極み。
異常に発達した前歯には毒の状態異常が含まれており、ゲーム内で幾度も殺された憎き獣。
そう、巨大ネズミだ。
毒攻撃には数々のトラウマを思い出すが、こいつはその筆頭だった。
思わず俺はため息をついてしまう。
本当なら無視したいところだが……死にゲーの鉄則を思い出す。
『初見の道は慎重に、確実に』
なので、ここは確実に仕留めて、安全を確保するベきだろう。
俺はそっと巨大ネズミに近づく。
幸い、あいつは今食事中で俺に気づいていない。
静かに武装し、一気に距離を詰める。
そして目一杯の力を込めて《ロングソード》を巨大ネズミの顔面に突き立てた。
「ピギャァァァァァッ!」
甲高く耳障りな断末魔を上げる。
確実に絶命に追いやる一撃だろう!
巨大ネズミは倒れ込む。
即死だったようで、倒れてからはピクリとも動かない。
無事に撃破したことに安堵していると、絶命した巨大ネズミは体がボロボロと崩れ始めた。
急ぎ、俺は距離を取り、《カイトシールド》を前に構える。
「な、なんだ?!」
崩れた体は砂塵となり舞い上がり、やがて塵となる。
塵はキラキラと輝いているが、それがまた妙に綺麗であった。
「おー、綺麗だなー」
って、感動してる場合じゃないぞ、俺。
塵は次第に俺の周囲へと集まり、まるで溶け込むように体内へと吸収されていく。
「おわっ?! なんだこれ!」
奇妙な現象に思わず驚く。
……ん、待てよ?
俺はこの現象に既視感を覚える。
そうだ、もしかしてアレじゃないか?
死にゲーにおいて敵を倒した時に出てくる魔素とか魂とかそんな類のものにそっくりだ。
もしやこれは経験値兼通貨なのでは?
そんな予感が俺の脳裏をよぎる。
ともかく、集めておいて損はない。
どうやって使うかは追々調べていけばいいか。
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【TIPS】
下級騎士の鎧
種類:胴
特殊効果:なし
下級の騎士に配給される金属鎧。
追加の鉄板が打ち付けられている。
重量はあるが、それに見合った高い防御性能を持っているだろう。