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3話:心折れた先達者

 真っ暗な世界の中、燻る魂の種火は暗く、しかしやがて燃え始める。

 濁っていた意識が徐々に浮上し、目蓋が開いた。

 視界が広がる。


「……俺は、また死んだのか」


 確かに俺は死んだはずだった。

 だが、こうして生きている。

 しかもこれでニ回目だ。

 また転生したっていうのか?

 それにここは……?


「よう、新米。“二度目の死”は楽しめたか?」


 不意に誰かが話しかけてきた。

 咄嗟に声のした方向を見ると、岩に腰掛けている男がいた。

 くたびれた《チェインメイル》に《革のブーツ》という軽装。

 短い黒髪とニ枚目な顔をしており、しっかり整えれば格好がつくだろうが、この男の顔つきはどこか疲れ切っていて、やる気のなさが滲み出ている。

 会話するのも疲れてやりたくなさそうな男が、どうして俺に話しかけてきたんだ?


「……あんたは?」


 やり合うつもりはないが、とりあえず警戒しておくべきか。

 俺は《ロングソード》と《カイトシールド》を構える。


「おいおい、そう怖い顔するなよ。俺をよく見ろよ新米。こんなやる気のない顔したやつが襲いかかってくるように見えるか?」


 男はダルそうに片手をプラプラさせ、敵意がないことを示してくる。

 信用はまだできないが、確かに俺を襲うチャンスはいくらでもあったはず。

 だったら話に乗ってやろうじゃないか。

 ひとまずは武器を下げ、こちらも敵意がないことを示す。


「……それで?」

「それで、って?」

「色々と聞きたいことがあるんだが」

「おお、向上心のある新米なこった」


 男は鼻で笑い、肩をすくめる。


「まぁいいさ、どうせ暇だしな……クソみたいな話、聞かせてやるよ」


 待ってましたと言わんばかりに深く息を吐くと、男は語り始めた。

 本当は話を聞いてほしかったのだろうか。


「ここは“エスラリヴ”。お前さん、ここに来るまでに二回死んだだろ?」

「二回?」

「一度目は元いた世界での死。二度目は《不死潰しのデーモン》による死。で、訳も分からずここに流れ着いた……まぁ、そんなところだろ?」


 驚いた、全部合ってる。

 こいつが黒幕かってぐらいにピタリと。

 俺の驚いた表情を見て、男はニタニタと笑いつつ話を続けた。


「何の因果か知らねぇが、そういう奴らがここに来る。そして“不死の呪い”を植え付けられる。俺も、お前も。もう普通には死ねねぇってこった」

「な、なんだって!」


 男は俺の反応を見て満足げな面を見せる。

 人の不幸を見て、そんなに笑うんじゃない。

 なんだか少し腹が立ってきた。


「驚くのはまだ早いぜ、新米。俺たち“流人るにん”は人間性を保っている限り、何度でも蘇る。だが、それを失った奴は化け物になり、どこまでも彷徨うことになる……ご愁傷様だな」

「じゃあ、俺もいずれは化け物になるってことか?」 

「まぁ、そういうこった。だがそうならない方法はあるらしいぜ?」

「というと?」


 男はニヤリと笑う。


「各地にいる王たちを倒し、その力を手に入れる。そして、王たちの頂点に立つことができれば……どうやら元の世界に戻れるらしい」

「本当か!?」

「さぁな、俺が試したわけじゃねぇ。所詮、噂話よ」


 男はふんっと鼻を鳴らす。

 確証はないものの、不明瞭なこの世界の数少ない情報だ。

 大変ありがたい。


 でも待てよ。

 王たちの頂点に立つということは……。

 俺の中で浮かんだ疑問を男にぶつける。


「それってつまり、王になれるのは一人だけってことじゃ?」

「おっ、気づいたか。そういうこった。この世界にいる流人どもは全員、王を目指してる。つまりは最終的に椅子取りゲームってことだ」


 男はつまらなそうに地面を蹴る。

 ニヤついてた顔つきも一気に沈んでしまった。


「そんなこと俺に教えてよかったのか?  もし本当なら、お前と俺は敵同士になるんじゃ?」


 ここで人に善くして、一時的に仲間を増やしたとしても最後には殺し合いだ。

 だったら出会い頭に潰しておくのが常套手段では?


「いいのさ。たまには善行でも積んでおかねぇと、人間性ってやつはすぐに擦り減るからな」


 なるほど。

 人に善くして正気を保ってるというわけか。

 確かに、王になる前に狂ってしまっては元も子もない。

 

「意外と良いやつなんだな」

「ふん、お節介な善人ぶってりゃ、ちっとは正気を保てるってもんさ」


 男は自嘲するように笑う。


「それに、俺はちょっと疲れた。もしお前さんが“王”になる気があるなら、せいぜい頑張ってくれよ」


 そう言って、男は空を仰いだ。


「……で、王はどこにいるんだ?」

「お前、乗り気になるの早ぇな」


 男は呆れながらも、指を二方向に向ける。


「噂によると、そこにある階段を登った先の城塞都市の玉座に一人。それと、裏手にある地下墓地の最奥に一人いるらしいぜ」

「親切にどうも。とりあえず見て回ってみるよ」

「お前さんの活躍、楽しみにしてるぜ……ハハハ」


 男は疲れたように笑う。


 色々と情報を得られて良かった。

 いきなり死を経験をするという酷いイベントもあったが、男から得た情報のおかげで目的がハッキリとして良かった。

 とりあえずは情報通りに城塞都市を目指すことにしよう。


 男に指さされた階段の前まで行き、登り始める。

 階段を上がりながらも、これまでに得た情報と俺の中にある知識を整理する。


 そうこう考えている内に一つの結論が導き出された。

 おかげで、今まで感じてた既視感が具体的に固まってくる。

 そう、俺は知っている。

 この世界のジャンルを。


 そう、この世界は……死にゲー(ソウルライク)世界だ。



====================



【TIPS】

チェインメイル

種類:胴

特殊効果:なし


細い鋼線で作った輪で編まれた鎧。

見栄えはしないが、堅実で優れた防具。

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