2話:俺は死んだ!
俺は墓石から起き上がり、ゆっくりと歩き出した。
周囲は高い崖に囲まれ、鬱蒼な森、まるで巨大な壁の中に閉じ込められたような景色が広がっている。
空には暗雲が立ち込め、陽の光は一切差し込まない。
人っ子一人いないし、風景はなんだか薄暗くて不気味だ。
異世界転生ってもっとこう……可愛い女の子を助ける展開があったり、モンスターを無双する展開とかあるものじゃないのか?
あまりにも静かすぎて、イベントらしいイベントが起こる気配がない。
「せっかく異世界に転生したってのに、なんだかなぁ……」
いけないいけない、ついついぼやいてしまった。
まだ俺の冒険は始まったばかりだぜ。
とか考えながら歩いていると何か見えてきた。
「あれは……吊橋か?」
崖と崖を繋ぐ吊橋だった。
古びてはいるが今にも崩れ落ちるというわけではなさそうだ。
渡るには問題ないだろう。
というか、吊橋は人が作ったものだよな。
もしかして近くに集落でもあるんじゃないか?!
期待感が少しだけ膨らんだ。
とにかく進んでみよう。
俺は慎重に吊橋を渡り終え、少し歩くと目の前には広い空間が広がっていた。
周囲は崩れかけた石壁で囲われており、建造物のようにも見える。
明らかに人が作ったものなのだが、人の気配そのものは感じられない。
それに、なんだか嫌な雰囲気を感じ取った。
無駄に広い感じ、人はいないが何か出そうな感じ。
戦うことを想定された空間……。
この雰囲気は幾度も感じ取ったことがある。
そう、まるで前世でやっていた死にゲーで、ボス戦が始まる直前のような……。
その時だった。
――ドゴォォンッ!!
「な、なんだ?!」
轟音とともに、突如として巨大な影が降り立った。
俺の前に現れたのは、創作上でしか見たことがない異形の化け物だった。
一言で言えば“悪魔”だった。
肌は全体的に青黒く、腹や手の内は白い。
瞳は赤く光り、歯は異様なほどに伸びている。
力士のように膨れ上がった巨体は三メートルは優にある。
ただでさえ化け物じみた巨体に加え、手には有りえないぐらいデカい大槌のようなものを持っている。
一振りでも当たればミンチになるに違いないだろうな……。
それに見てみろよ、あの殺意に満ちた凶悪な面構えを。
何人も葬ってきましたよって顔をしている。
「いやいや……これと戦えってか?」
半笑いになりながらも腰が引ける。
あんな化け物を前にしてしまえば、俺の立派な鎧もコスプレにしか見えない。
いやー、無理無理。
とりあえず撤退だな。
うん! それしか手はない!
そう思い、吊橋へ引き返そうとするが——。
「え、帰れない……?」
振り返り、吊橋へ戻ろうとする。
が、吊橋の手前に白いモヤのようなものが覆っており、通ることができない。
侵入者は誰も逃さないぞと言わんばかりだ。
「ボス戦からは逃げられないってことか」
散々ゲームで味わってきた、ボス戦からは逃げられない仕様。
まさかここで自分が味わうとは思わなかった。
俺は異世界転生したばかりだぞ。
このまま何もできずに死ぬのか……?
……いいや、ごめんだね。
なら、やるしかないか……!
それに、まだ希望はある。
異世界転生といえばチート能力だ。
こんなピンチ展開ならきっと、何かしらの力が発動して楽勝で倒せるに違いない!
「……よし、やるぞ、やってやるぜ!」
俺が戦意を向け、化け物へ歩みを進める。
すると、視界に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
そこには化け物の名前らしき文字が表示されていた。
『不死潰しのデーモン』
これがあの化け物の名前か。
なんて物騒な名前なんだ!
それにしても“デーモン”ときたか。
ますます前世の死にゲーみたいなじゃないか。
だが、そんなことは関係ない。
俺は右手に《ロングソード》を、左手に《カイトシールド》を握り、一気に駆け出す。
不死潰しのデーモンの前へと滑り込み、《ロングソード》を振り上げ……。
――ピシュッ
刃が肉を裂き、僅かに血が滲む。
……って、硬ッ!
全然攻撃が通らねぇ!
こいつの巨体からすれば、ささくれが剥がれた程度の傷ってところか?
痛みを感じてる様子すらないぞ。
だが、血が出るということは、こいつも生き物であることの証明だ。
つまり、倒せる可能性はある!
そう確信した——その刹那。
不死潰しのデーモンが反撃と言わんばかりに巨大な大槌を振り上げた。
「やばい!!」
どうする!
受け止めるか?
あの巨大な大槌を?!
俺は咄嗟に左手の《カイトシールド》を突き出し、防御態勢を取る。
次の瞬間——。
――ゴォオンッッ!!
視界が暗転し、重々しい金属音が響き渡る。
何も見えない。
だがこの嫌な金属音だけは分かった。
それは《カイトシールド》ごと俺の鎧を叩き潰した音だった。
――YOU DIED
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【TIPS】
カイトシールド
種類:中盾
スキル:パリィ
特殊効果:なし
必要能力値:筋力:10 技量:- 知力:- 信仰:- 神秘:-
標準的な金属製の盾で、ロングソードと合わせて騎士が装備する基本的な兵装。
物理攻撃の耐性に加え、魔法や炎熱などの耐性にも優れている。
攻撃を受けたり、また攻撃を受け流すにも適している。