11話:宝物が逃げていく……
『赤い聖炎瓶、空』
「ちぃっ! 回復が底を尽きた!」
六分を超える激闘。
間違いなく、これまでの戦績では最長記録だ。
しかし、問題はここからだった。
回復手段がない。
残された生命力だけでアカムギルトを仕留めなければならない。
つまりはここからが本当の勝負……!
ヤツの一撃一撃が必殺だと思え。
無駄な被弾は許されない。
集中力を研ぎ澄まし、防御と回避を使い分けるんだ。
次の瞬間、アカムギルトが鋭い爪を振り下ろしてきた!
「っと、爪攻撃は回避ッ!」
俺は瞬時に横へ飛び、ギリギリの距離で回避する。
同時に、流れるような動きで《ロングソード》を振るい、反撃を加える。
――ザシュッ
その刃は確かにアカムギルトの前脚を捉えた。
一撃、また一撃と、俺は攻撃を刻み込んでいく。
その結果、アカムギルトの身体には無数の切り傷が刻まれ、ところどころから血が滲み出ていた。
しかし、ここでアカムギルトが突如として身を捻る。
「なんだ、ここにきて新しい攻撃パターンか?」
次の瞬間――。
大木の幹のような尻尾が振り抜かれ、強烈な打撃が放たれた!
咄嗟にローリングで回避!!
「危ねぇッ!!」
これまた防御なんて無意味そうな攻撃だ!
油断も隙もあったもんじゃねぇな……!
だが……この尻尾攻撃、結構な隙があるぞ!
――ザシュッ、ズシュッ!!
俺は《ロングソード》を振り下ろし、一撃、ニ撃を叩き込む!
意外にもダメージによる出血量が多い。
今までの攻撃の蓄積か、はたまたダメージの通りが良かったのか。
「グォォォオオオン!!」
突如としてアカムギルトが咆哮を上げる。
その叫びは咆哮というよりも、むしろ悲痛な叫び声に聞こえた。
「おぉ、なんだ?! 苦しんでるのか!?」
ということは……もう少しで倒せるんじゃね!?
いける……いけるぞ!!
あともう一踏ん張りだ!!
俺は気合を入れ直し、次の攻撃へ――
と思ったその瞬間。
アカムギルトが大きく翼をはためかせ、飛翔準備に入った。
「おいおい、なんでこのタイミングで!?」
ボタボタと血を垂らしながらも、ヤツは飛び立とうとしている。
まさか……逃げるつもりか!?
「ちょっと待て! ここまで戦ったのに、逃げるっていうのか?!」
俺は反撃のリスクも顧みず、全力で駆け込む!!
そして《ロングソード》を振るい、斬って、斬って、斬りまくる!!
二撃、三撃――。
「うぉおおおおおお!!!!」
四撃――。
だが、五撃目は届かなかった。
アカムギルトは十分な高度を得てしまい、俺の攻撃範囲の外へ。
そのまま、俺に背を向けて飛び去っていく。
「……おいおい」
一人残った空間に、俺の虚しい声が響き渡る。
「おいおいおいおい!!! うっそだろぉ?!?!」
ここまで戦ったのに、逃げるってアリか!?
武器どころか、エナすら落とさない!!
そんなの有り得ねぇだろぉぉぉおおお!!!
俺はあまりのショックに膝から崩れ落ちた。
全身の脱力。
失望感……。
「竜の武器……逃げちまった……」
飛び去る飛竜を、ただ見送ることしかできなかった。
手足が生えた宝物が、俺の目の前から飛び去っていくような感覚だ。
そんなアカムギルトを遠巻きに眺めることしかできない。
アカムギルトは城塞都市の最奥にある城へと向かっていく。
そして、その城の中へと入り込んでしまった。
「あんな奥の城まで逃げてしまった……」
……ん?
いや、ちょっと待てよ……?
城……?
俺の中で直感が光る。
エリア外の遥か遠くに逃げるならともかく、どうしてアカムギルトは建物に入ったんだ?
建物……棲み家……家……。
単語から単語へと繋ぐ。
帰るべき場所……もしや!
あの建物、アカムギルトの巣、なんじゃないのか……?
ヤツは休息を取るために巣に逃げ帰ったと。
つまり、あそこに行けば、アカムギルトにトドメを刺せるってことか!
見えない壁のあるゲームとは違い、今は現実。
俺が行ける範囲である限りは、どこまでも行けるはずだ。
そうひらめいた瞬間、俺の全身に活力が戻ってくる!!
まだ完全にアカムギルトを逃したわけではない!!
よーーーし!! 待ってろよ、アカムギルト!!!
絶対に、絶対に竜の武器を手に入れてやるからなぁぁぁぁ!!!
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【TIPS】
ダガー
種類:短剣
スキル:なし
特殊効果:致命の一撃
必要能力値:筋力:5 技量:8 知力:- 信仰:- 神秘:-
短い刃を持つ剣。
リーチは短いが、重量と携行性に長けており、ひ弱な者でも扱える。
[致命の一撃]
背後や姿勢を崩した相手に与える致命の一撃は、他の武器よりも威力が高い。