9、祝勝会と仕事の話
キングは不敵な笑みを浮かべ、サングラスを取る。
「どう?この後俺とデート……」
「丁重にお断りさせていただくよ」
「ふぅん、まぁ反抗的な子を犯すのも好きだからいいよ」
そう言って大きな斧を取り出しこちらへ向かってくる。
斧を振り上げると同時に彼女は囮としてわざとキングの間合いに入り横に避ける。
そしてキングが空振った斧を俺が奪い取る。
「あれ、連携取れてんじゃん」
その言葉からは緊張や焦りは全く感じられない完璧に舐められている。
今が叩くチャンスだ。
戦斧術はBなので上手く扱えるかは心配だが。
キングの頭上で人型に戻った彼女に斧を投げる。
斧を手に取った彼女は自称S級の戦斧術でキングの頭に斧を叩きつけた。
「ぐっ、やるじゃねぇか」
キングは血を浴びたのかってぐらいの出血、生きているのが不思議なくらいだ。
「出血多量でそろそろ目眩がしてくるでしょう」
「それは、どうかな」
「どちらにしても眠気が来るんじゃあないですかい」
どうやら今の攻防の間にデスロイドは睡眠をかけることに成功したらしい。
「そうだな、ちょっと準備が足りなかったかもしれねぇ。取り込む武器が少なかったからな」
「言い訳ですか?」
このやり取り、デスロイドとキングはどういう関係なのだろうか。
「ここで眠るのは嫌だな。てことで俺は帰る」
地面に刺さった斧を取り込み、包帯で頭を巻き始めた。
「また会おう。その時は是非俺とベットに」
キングはそうラヴァに告げ、来た道をトボトボと引き返していった。
「変な所で眠らないといいですけど」
デスロイドはそう言って帽子を深くかぶり直す。
「新しいコートに血が飛ばなくてよかったよ」
「普通に脱いで戦えばよかったじゃないですか」
「確かに……」
なんでそんなことに気が付かなかったのか、というのは置いておくとして、血しぶき1つも浴びないで近接戦闘ってやっぱりこの人はおかしい。
俺は少し離れた道端に脱ぎ捨てた、コートを取って着る。
「デスロイド、1つ聞きます」
「はい、なんでしょう」
「この戦い、あなたにメリットありませんよね。どうして協力してくれたんです?」
「強いて言えばジャレッド・キングの実力を見たかったんですよ」
剣についた血を拭きながら言う。
「それはどういう?」
「王国騎士団の強さ=その国の軍事力です。もしこれで弱かったら、デュバルは捨てようと思ったんですが、その心配は無さそうです」
このデスロイドという男も何を考えているのかよくわからない。
野心家ってタイプではないと思うんだが。
「それでは私はこのままデュバルに戻ります」
「そうですか」
「じゃあまたね」
「また機会があればお会いしましょう」
デスロイドは帽子を取ってこちらへ向けて深く礼をした。
「帰ろうか」
「ちょっと高い物食べますか」
「やったね」
簡単な祝勝会として賑やかな酒場に入った。
「ビール2杯とベーコンエッグを」
やはりこういう酒場は冒険者が多い。
酒場では酔がまわって重要な情報をばらまく冒険者がいるため、ある意味ギルドよりもいい情報が手に入る場所である。
「祝勝会ではあるんですけど、お金がないので飲みすぎないでください」
「えーケチだなぁ」
「ケチというか、お金がないんですよ」
キングと戦ってもお金は貰えないし、コートだったり飯だったりにお金を使いすぎた。
「そろそろ働きましょうか」
「えー、面倒くさいよー」
「明日あたりギルドに行って仕事を……」
「楽なやつがいいなぁ」
一体この人は何処まで怠惰なんだ。
こんなんで、今までどうやって過ごしてきたんだよ。
「ラヴァさんって食べなくても死なないんですか?」
「やったことないからわからないけど、死ぬ気がする」
「じゃあそれで死ねるんじゃ……」
「ルザード君、最高の死に方を見つけるって言ったよね?」
そう言えば最初にそんなこと言ったな。
なんかすごくラヴァさんから圧を感じる。
「はい、言いました」
「素直でよろしい」
なんか悔しい。
「そんな感じで今まで食べてこれたんですか」
「ちゃんと働いてたよ」
働いてた?ラヴァさんが?食べるためなら働くのか?
グスタフにはギルドがないから冒険者もできないだろうし、そもそも冒険者登録してなかったし。
となると……水商売……
「水商売じゃないよ」
「えっ、心読みました?」
「考えてたんじゃん」
「まぁまぁ、それじゃあ何してたんです?」
「ちっちゃな村のお手伝いしてたよ。魔法使える人が少ないからね」
なるほど、それで恵んでもらっていたのか。
「そんなに仕事ができるなら楽じゃない仕事でも頑張れますね」
彼女はすごく嫌そうな顔をしてビールを飲む。