6、鍛冶職人と海蝲蛄
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「ちょっととか言っておいてほとんど持ってきてるじゃないですか」
「1つは残したよ」
この黒いかけら、ロスウェル首都に行ったら鑑定してもらおう。
「さて、寄り道はこれくらいにして首都に向かいますか」
首都までの道は石畳で整備されているので、馬車や人の往来がとても簡単だ。
そのためロスウェルは商業大国としての地位を確立し始めている。
共和制なので国力はそこまで強くないが、人々の願いが通りやすいので、そのうちデュバルなんかより暮らしやすくなるだろう。
「ねぇねぇ、ルザード君」
「はい」
「なんで私たちロスウェルに来たの?」
そう言えばなんでだっけ?
なんかSランク冒険者がいて、ロスウェルに来てって言われて……
確か酒場にいて酔ってたんだよな。
もしかしたら夢、幻覚?
「なんででしたっけ?」
「それがわかんなかったら来た意味ないじゃん」
そうこう話しているうちに首都についてしまった。何するかも決めてないのに。
「まずは黒いかけら鑑定してもらってから考えますか」
「そうだね、もしかしたらお宝かもしれないしね」
と言うことでギルドの戦利品換金所に来た。
ここならそこそこの値段で買い取ってくれるだろう。
まぁただの石かもしれないけどね……
「おい、そこの嬢ちゃん」
「はい?なんですかね?」
「ちっと来い」
なんかいかついおじいさんに呼び出された。
髭を蓄えた帽子を被ったおじいさん。
ドワーフ?ってことは職人か。
「そのかけら見せてみい」
「はい」
信用できるのか?
まぁなんか雰囲気あるから大丈夫そうだ。
「間違いねぇ、これはドラゴン、それも戦神龍の鱗だ」
戦神龍、神話の時代の馬鹿でかい古代龍種だ。
その鱗はそれなりに見つかってはいるが、その中には偽物も多くある。
「儂はロウリュ、1級鍛冶職人じゃ。頼む、コイツで武器を作らせてくれ」
おじいさんは土下座をして必死に頼み込んできた。
「良いですけど」
「ありがてえ!!!」
聞く所によると伝説級の素材で武器を作ると、特級の鍛冶職人と認められるらしい。
そのための素材を探す為に、ギルドに情報収集に来たところ俺等を見つけたらしい。
「さて、何の武器を作るんでい?」
「えー、俺は呪權あるんで」
「じゃあ私のを作ってもらおうか」
「何を作ってもらうんですか?」
「斧だよ、斧」
斧は力がある人に適正があるはずなんだが。
「私は近接戦闘の中で戦斧術だけSランクなんだよ」
まぁ使ったところを見ないとわからないよな。
「わかりやした。1カ月時間をくだせい」
了解はしたけど1カ月って結構長いな。
ゼロから作るとするとそんなものなのだろうか。
1級鍛冶職人と言っていたので心配はないと思うが。
「さて、何をしようか」
「そのへん歩いてみましょうか」
首都ガンフォールは今はまだ発展途中だが、あちこちに工事途中の看板が立てられている。
ちなみにガンフォールの由来はロスウェル建国の英雄フェルム・ガンフォールから付けられたらしい。
「ルザード君、なんだここ?」
ノバスと言う店、大きい海蝲蛄の看板がとても目を引く。
「ここ、入ろう」
「いいですよ、俺も見たことがありません」
店内は騒がしく、何かいい匂いがする。
お酒も出しているのか、とは言っても酒場みたいな感じではないが。
「当店はアルシャク湖で捕れた、海蝲蛄しか使っておりません。是非お楽しみください」
アルシャク湖とはロスウェルと魔王領との国境にある湖だ。
というか海蝲蛄って淡水なのか?
「ラヴァさん、海蝲蛄って臓器が退化しなくて脱皮を繰り返す、不老らしいですよ」
「え?おんなじじゃん」
「まぁ、死んだのが出てくるんですけどね」
メニューは至ってシンプル、味別3種類の海蝲蛄とドリンク各種だけ。
「海蝲蛄、ガーリックバターで」
「あとワイン、赤で」
「俺は白でお願いします」
「かしこまりました」
なんかラヴァさんが赤ワイン飲むとヴァンパイアって感じするな。
「お待たせいたしました」
料理が来る。
思った以上にでかい。
テーブルが埋まるほどの大皿に1匹丸ごと乗っている。
店に入った時に匂ったのはこれか。
「これどうやって食べるんでしょう?」
「豪快にいこう」
そう言って彼女は右バサミを切り落とす。
俺も尾のところを半分に割り、中の身を取り出す。
殻はとても硬く、割るのにも力が必要だ。
そんな殻からは想像できないほど身はとても柔らかく、海鮮の風味が口いっぱいに広がる。
大きかったとはいえ、2人で酒を飲みながらだったので、すぐに食べ終わった。
「ふぅ、おいしかったね」
「そうですね」
「意外と殻も食べられるもんですね」
「え?」
隣にいたのは、前の男。
デスロイドと言ったか……どうやら俺の勘違いではなかったようだ。
「流石に殻は食べないほうがいいよ」
何真面目に答えてるんだこの人は。
「そうですか、ではもう一匹……」
「私達もう出るよ」
「そうですか、それでしたら私も」
デスロイドはそう言って手を拭く。
その後俺達は、首都中心部にある公園に場を移した。
「まずは来てくださってありがとうございます」
「はぁ……」
「かなり酔っていらっしゃったのでてっきり忘れているかと」
何が目的なんだ?
Sランク冒険者に目をつけられるような活躍はしていないのだが……
「それで何の用?」
「ラヴァさんでしたかね。まぁ落ち着いて聞いてください」
デスロイドはベンチに長い剣を置く。
彼の身長とほとんど同じ、2mくらいの剣だ。
「ここまで来ていただいた理由、それはあなた方の為なんですよ」