3、酒場
「おいルザード、もう一度考え直せ」
「ですから、十分に考えた結果がこれです」
「王国騎士団の隊長など本来庶民がなっていい職じゃないんだぞ!それを辞すというのか!」
「はい、そうです」
「もういい、許可しよう。ただし条件をつける」
今話していたのはアーサー・デュバル、この国の王だ。
国を救った元英雄なのだが、もう既に現役時代の輝きを失い今ではただの老害だ。
最も、こんなこと口に出したら殺されるがな。
元は庶民だった俺は冒険者学校を首席で卒業した腕を買われ、爵位と王国騎士団隊長という職業を与えられた。
とは言ってもいいのは給料だけで、それ以外は傭兵時代の方がよかった。
「行きましょうか」
「うん」
ある程度お金が貯まるまでは、冒険者としてやっていくつもりだ。
「仕事辞めちゃってよかったの?」
「いつか辞めたいとおもってました。良いのは給料くらいですし、その給料もAランク冒険者と同じくらいなので」
彼女には心配されているが、実際騎士団のやり方にはうんざりしていた。
「次はこのクエストにしましょう」
「手早く終わらせよう」
何度かクエストをクリアしていくうちに分かった。
彼女はとても強い。
まだ魔法を使っているところしか見ていないがとても洗練されている。無詠唱だ。
無詠唱はその名の通り詠唱をせずに魔法を使うことだ。詠唱破棄とも言われる。
そもそも詠唱は長いものが多く、一流と呼ばれる人たちは省略して使う。
しかしその分威力が落ちたり魔力消費が大きかったりする。
詠唱を一切しないというのは離れ業、人間卒業だ。
無詠唱をできる魔法使いは大魔道士と呼ばれ、王を守護する近衛隊からお呼びがかかる。
「ラヴァさん、魔法は基本的に詠唱したほうが良いかと」
「なんで?」
「無詠唱って異常なんですよ。1国に1人いるかどうかくらいの」
「え!?そんなに?」
すごく驚いている。無詠唱が当たり前だったのか?
隠れ里に住んでいるエルフは魔力が膨大だと聞いたことがある。
半分エルフだからそこの所は引き継いでるのかもな。
「わかった、技名くらいは言うよ」
「本当は全部言ってほしいんですけどね」
詠唱省略もできる人が少ないからな。
あまり目立ちたくはないだろうし。
「ルザード君ってお酒飲める?」
「飲めますけど」
デュバルでの成人年齢は15歳。
もちろん国によって成人年齢は変わる。
そもそもお酒が禁止されている国や、逆に煙草からヤバい薬まで許可されている国もある。
「飲んで帰ろうか」
「それならいい店を知ってます」
酒場というのは冒険者が打ち上げに来て盛り上がる、席がたくさんあって料理も充実しているものが一般的だ。
しかしこの酒場は50年ほど前に異世界人が作ったとかで全然印象が違う。
まずお酒の種類が多い。
醸造酒、蒸留酒、混成酒などという分類こそあるものの、技術がないため多くは造れなかった。
全て異世界の技術だそうだ。
次にお酒以外の食事が少ない。
あくまでお酒を楽しむ場であって、食事の場ではないそうだ。
「私はウォッカ・アイスバーグ。ルザード君は?」
「カルヴァドスで、氷もお願いします」
こっちの世界の人間にとってはアルコール度数が高すぎる酒が多い。
ビールを飲む人が多いからな。
俺は結構酒に強い方だがな。
「ウォッカ・アイスバーグとカルヴァドスのロックですね」
店主は50年以上前に、こっちの世界に来てこの酒場を始めたそうだ。
歳を重ねても腕は落ちず、世界中の酒豪達から愛されている。
「お待たせ致しました」
甘酸っぱい芳醇な香り、これが好きでここに通い続けている。
「お客様、お酒強いですね」
何杯飲んでるんだ、この人は。
「もう一杯よろしく」
「全然酔ってないじゃないですか」
「不死身だからね」
2本も瓶を空けている。
これは不死身関係ない気が……
「この後どうするの?」
「急にどうしたんですか?」
「いやもう結構お金貯まったし」
確かに、これ以上冒険者を続けたとしてもランクが上がって目立っちゃうよなぁ。
そろそろこの国も出るべきなのだろうか。
「デュバルを出るならロスウェル共和国がオススメですよ」
「え?」
いつの間にか隣に人がいた。
長髪、長身で深く帽子をかぶった男。
「誰ですか?」
「申し遅れました。私Sランク冒険者をやらせてもらっています、デスロイドと申します」
「Sランクですか、Sラン……Sランク!?」
Sランク冒険者って言ったら単独で1軍隊に匹敵すると言われているほどの凄腕だ。
「あなたに伝えたいことがあるんですけど、ここでは言えなそうなので。ロスウェルで待ってます」
「え?あの、ちょっと」
行ってしまった。何だったんだろうか。
「ロスウェル行くの?」
「そうしたいんですけど」
「どうしたの?」
騎士団を抜ける時の条件として、爵位の没収と出国禁止を言い渡されていた。
そのため簡単に出国する事はできない。
「まぁいいか、行きましょう。ロスウェルへ」
ということで、俺たちの次の目的地はロスウェルの王都に決まった。
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