2、旅立ち
ただの迷子なのか、或いは……
どちらにせよ1回ギルドに行くか。
「フードを被ってるエルフ見ませんでしたか?」
「今日の昼来た方ですよね」
先程、冒険者登録をしてくれた受付嬢だ。
「はい」
「見ていません。もしかしたら……ドーラ神殿にいるかもしれません」
ドーラ神殿というのは王都郊外にある遺跡で、王が保護を命じていて警備隊ですら入れない。
そのため周辺は奴隷商人の巣窟となっている。
つまり、さらわれた可能性が高いってことか。
「わかりました。ありがとうございます」
5分ほど走っただろうか。
神殿が見えてきた。数人の声が聞こえるためここで間違いないだろう。
「おい、今日は上玉だぜ。エルフだ」
「おぉ、ちょうどいい、明日の朝市で売ろう」
「しかもこの幼い容姿!高く売れるな」
エルフの外見は15から25歳位で成長が止まる。
ラヴァさんの場合は15歳くらいに見えるな。
「キモい趣味のやつもいるもんだぜ」
実を言うとこの国の貴族は幼女趣味が多い。
デュバルでは成人未満の性行為は禁止されている。
法律と女を同時に犯すのが随分な快楽らしい。
まぁ俺には、いやほとんどの人には理解できないだろうがな。
「早朝に運び出すんだからこっちに移動させとけ」
お、ラッキー。移動する手間が省けた。
「じゃあ君は獣人なんだね」
彼女は檻の中でちょこんと座っている。
誰かと話しているようだ。
「おいうるさいぞ」
「私もコウモリになれるよ」
監視役に注意されても話し続けるのか。
「ラヴァさん大丈夫?」
「えっ!?あっごめんなさい。この子が攫われてて」
彼女はモジモジしながら言う。
隣には子どもの猫の獣人がいた。
怖さからか一言も言葉を発していない。
「助けようとして一緒に捕まったってところですか」
「怒ってないの?」
「流石に怒れません」
「迷惑かけてない?」
「かけないようにおとなしく従ってください」
彼女は大きな音をともに魔法で檻を破壊する。
「逃げますよ」
「私がこの子を連れてくよ」
「よろしく頼みます」
「おい、なにしてるんだ!」
見張りの下っ端に気づかれた。
まぁ、もう遅いがな。
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「ふぅ、追手は来てないですね」
「遅かったね」
「ラヴァさん、コウモリで飛んで行きましたね」
あの子を背中に乗せれるくらいってことは相当な大きさのコウモリだ。
それと混血ってのは本当なんだな。
上位のヴァンパイアは太陽を克服しているので少し疑っていたが……
混血という話は信憑性が溢れ出てきたな。
「コウモリになれるのって上位のヴァンパイアだけですよね」
「うん、私の場合、父親が上位のヴァンパイアなんだよ」
「なるほど」
彼女に関してはまだ謎が多い。
どんどん探っていきたい気もするが、傷つけたり怒らせたりすると面倒臭そうなのでやめておこう。
それよりこの獣人の子ども、だいぶ落ち着いたみたいだ。
この子は親が見つかるまでギルドで預かってもらった。
あの受付嬢にはここは託児所じゃないです、と怒られたがな。
「とりあえず、お疲れ様です」
「お腹減った、人助けしたからかな」
「何が食べたいんですか?」
「これこれ」
屋台を指差しながら言う。
「これは、クレープですか」
「くれーぷ?」
「知らないのに食べたいって言ってたんですか?」
「そうだけど」
少し高いけどしょうがない。
「これどうやって食べればいいの?」
「かぶりついてください」
口を大きく開けた割には小さな一口で、彼女はクレープにかぶりついた。
クレープも知らないってことはずっとグスタフにいたのだろうか?
まぁ、楽しそうで何よりだ。
「1つ聞いていいですか?」
「いいよ」
「どうして冒険者になろうと?」
彼女は少し考えて言う。
そんなに答えづらい質問だったのか。
「人がいないとこで話そっか」
彼女に手を引かれて宿に戻る。
「それで、どうしてなんですか?」
「うん、話すと長くなるけど」
「はい」
「まず私は生まれてから1人だったんだ。
物心ついた時からグスタフにいて、つい数十年前まで他の国の存在すら知らなかった。
デュバルに来ようと思ったのはギルドの雑誌に"いい国だよ"って書いてあったから。
その情報を教えてくれた冒険者ギルドも気になってそれでやってみたいなって」
彼女は楽しそうに話す。
「それだけですか?」
「"だけ"とは何だい」
「もっと他にないんですか?」
少し下を向いて、深く考えてから口を開く。
「さっき話したのはホントのこと。
けどこっちの方が本来の目的。
何年も1人で生きててこの先も1人って考えるとさ、もういいかなって思っちゃったんだよね」
彼女はあくまで明るく振る舞う。
「……つまり死にたいんだよね」
「はい?」
「冒険者って職業もその第一歩」
これだけ明るい彼女がこれ程大きな葛藤を抱えていたとは……想像もできなかった。
「何回も自殺みたいなことしてるんだけどさ、痛いだけでなんにもならなくて……」
話している彼女の明るさと、話の暗さに差がありすぎて、見ていて不思議な気持ちになる。
「……見つけませんか?俺と」
「え?」
「とびっきり楽しくて誰もが憧れるような最高の死に方を」
「なに言ってるの?」
彼女は笑いを堪らえている。
無理もない。死というのはこの世界だけじゃない、どんな世界でも普通は恐れられていることだろう。
それを最高だなんて馬鹿げてる。
「いいよ」
「いいんですか?」
彼女は満面の笑みで俺の提案を受け入れる。
慰めるために掛けた言葉がまさか受け入れられるとは。
「うん、見つけよっか!」
「はい」
始まりなんてこのくらい軽い方が良い。
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