16、降参します
「リベンジマッチといこうか」
ラヴァさんが魔力を解放すると、覚えのある魔力に反応して雷霆龍がこっちを見る。
「無理しないで下さいね」
「何言ってるの、ルザード君も戦うよ」
相手は雷霆龍、俺はちゃんと死ぬかもなんだよな。
とか考えていたら、ラヴァさんは真正面から突っ込んでいる。
「はぁ、俺も行くか」
俺は呪權を取り出し、雷霆龍の後ろから忍び寄る。
ラヴァは龍の息吹を避け、気をずらしてくれている。
後ろから龍の後頭部に呪權を叩き込む。
龍はそれを気にせずラヴァの方に攻撃を続けている。
「ラヴァさん、龍の発電能力を奪いました」
呪權は斬った相手の生命力を奪いどれかの機能を停止させる、それは相手が何だろうと関係ない。
「オッケー、このまま使い切らせるよ」
雷霆龍の1番の強さは底なしの魔力から変換される電気、そのため変換させる機能を奪ってしまえば何もできない。
恐らく雷霆龍が昨日の魔法を防ぐことができたのも電気のお陰だ。
「あれ、少し電気の量が減ってきたね」
「もう少し待ってから叩きましょう」
発電ができないと言っても、今まで貯めてきた大量の電力が無くなるまでは戦えるだろう。
「ラヴァさん、少し挑発しましょう」
挑発をして相手に大きな技を使わせれば一気に貯めている電気を減らすことができるはずだ。
「二重詠唱、超新星……」
ラヴァさんは挑発にしては強すぎる魔法を出そうとしている。
「ちょっと待って、死んじゃう、ボク死んじゃう」
ラヴァが詠唱を始めると、雷霆龍が人型になる。
必死で命乞いをしてきているようだ。
「えーと、降参ってことでいいのかな?」
「うん、降参します!」
雷霆龍は金髪の中性的な子どもの容姿に変わっていた。
降参のはずなのに何故かとても元気そうだ。
「ってことで発電できるようにして欲しいんだけど」
「そしたらまた暴れるでしょう」
「いや!ボクはもう人間と敵対しない!」
雷霆龍はすごい事を言い切る。
「さっきまで戦ってた龍を信用できるかってことですけど」
「うぅ、それを言われるとなぁ」
痛いところを突かれたのか、モジモジして喋らなくなってしまった。
「まぁ、いいじゃん」
「えっ!ほんと?」
「うん、暴れたとしても私が止めるからね」
ラヴァさんが魔力を解放して威嚇すると、雷霆龍はブルッと1回震えて頷く。
「返してあげてよ、ルザード君」
呪權は生命力を奪うだけでなく、奪った生命力を他者に譲渡、返還することができる。
「手を出して下さい」
雷霆龍が出した手の甲に呪權の先で少し傷をつける。
「これで戻ったはずです」
「お、戻ってる!ありがとう!」
指の先から微量の電気を出してみせる。
「ボクはサーリ、種族は雷霆龍で上に龍があと3人いるよ」
雷霆龍は4大竜種の一角だ。
上の3人というのは残りの4大竜種、狡知龍、豊穣龍、絶海龍の事だろう。
「これから2人はどうするの?」
「どうって、いろんな所に行きたいなって」
「それさぁー、ボクも行っていい?」
「別にいいけど」
「よくないですよ」
龍というのは暴れなくても、発する魔力だけで一般人は失神する。
そんなのが町中を歩いたら大量殺人をすることになる。
「魔力を抑える事が出来るならいいですけど」
「ボクできるよ!」
サーリは全身に力を入れて、魔力を引っ込ませる。
常人と同じぐらいには抑えれているようだ。
「これで決まりだね」
「本当に来るんですか?」
「え?ボクは行くけど」
こうして、俺の仲間の人外が2人に増えた。
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「誰だこのガキは?」
船に戻って早々、アルバに見つかる。
「まぁかくかくしかじかだよ」
「そりゃあどういうことだよ」
アルバだから適当に流せるが、ソフィーに見つかったら面倒なことになる。
「ということで、サーリは隠れててください」
「なんかここ暗いよ!」
「まぁしょうがないよね」
昨日寝るのに使った貨物室、人が来ないのでサーリには航海中ここに隠れてもらうことにした。
「えー、ボクこんなとこで1人なの?いやなんだけど!」
「じゃあ置いて行きますけど」
「それはちがうくない?じゃあがまんするよ」
サーリは数千年生きているはずなんだが精神年齢は、幼い見た目と相違ないらしい。
「1つ聞くけど、サーリはなんで私達についてこようと思ったの?」
「家族に会いたいんだよ」
「会ったことないの?兄姉には」
「うん、ないよ。あと一応性別はないから兄姉ではないよ」
他の龍種の場所はほとんど特定できていない。
数十年に一度、人里に降りてきて街を荒らす事があるがそれがいつどこで起きるかはわからない。
つまり探すのはかなり難しいということだ。
「それじゃあ、ボクも聞くね!ラヴァちゃんってさぁ……何なの?」
満面の笑みで核心を突くような質問をしてくる。
どこまでが本気なのかがわからない分、普通の人よりもよっぽど怖い。
「えっと、それは……」
ラヴァは助けを求めるような目でこちらを見る。
「ボクの雷撃1発だけラヴァちゃんの防御魔法を破ったんだけど。どうして生きてるの?」
「……気合かな?」
考える事を放棄した彼女はいい加減な答えを返す。
「あの時ラヴァさんは長靴を履いていたので、そのゴムに当たったんじゃないですか?」
「……なんだ、そういうことか!」
長靴を履いていたかも覚えていないが、適当を言う。
とりあえず誤魔化すことができた、のか?
やっぱりこういうのが1番怖いのかもしれない。