1、不死身
「はぁ、どれだけいるんだよ」
俺はルザード・ローガン、デュバル王国騎士団7番隊隊長をやっている。
とは言っても元傭兵で高収入に惹かれ雇われただけなので、愛国心は高いわけじゃない。
今はデュバル王国北部で大量発生している亡者掃討部隊の隊長を任されている。
王国の専門家によると亡者の知能はF程度なので、もしかしたら名前付き個体が指揮を執っている可能性が高いそうだ。
Dランクの亡者を操るとなると低くてもBランク以上の強敵だ。
「俺が先頭で行く」
普通、将と呼ばれる人は隊の後ろから指示を出す。
その方が安全だからだ。
しかし俺は世界最大級の冒険者学校を首席で卒業した意外と凄い人だ。
兵の安全を優先したい。
「複数人で距離を取りながら鎖で木に縛り付けろ」
こうすれば朝になると陽の光で勝手に消える。
本来ならば再生が止まるまで剣で斬るのだが、死傷者を出さずに効率的に倒すためこの方法を採用した。
「拘束を抜け出してくる奴がいるかも知れない。夜明けまでここで野営するぞ」
兵士たちは野営用の大きいテントを組み立て始める。
まだゾンビを操っているボス魔物が見つかっていないので油断できない。
「隊長、ゾンビドラゴンがいました」
「すぐ向かう」
ゾンビドラゴンか、通常個体はCだからネームドだったらBランク程度になるか。
「まだこちらに気づいていません」
「被害者を出さないためにも一撃で仕留めよう」
俺のスキルの1つ”隠密”でゾンビドラゴンの後ろに忍び寄る。
「よっと」
1振りでゾンビドラゴンの首を落としそこに聖水を掛けた。
どうやらコイツがボス的存在のようだ。
「ゾンビドラゴンの死体は売れないから放置しておこう。後は明日の朝を待って帰るだけだ」
野営地では任務終了を祝って宴が開かれていた。
賑やかすぎるのは嫌いなのでこういうのにはあまり混ざれない。
俺は酒を飲んで亡者の監視に向かった。
「なんかいい匂いするなぁ、こんな山の中なのに」
「誰だ?」
少女?暗くて見えない。目が赤く光っている。
解析の結果も種族は???となっている。
「あれ、人間か」
その反応は、やっぱり人間じゃない。
「酔ってるから、帰ってくれたら助かります」
「なんでさ、いい匂いしたのに」
短い銀髪に長い耳の少女、特徴的にはエルフだな。
エルフの瞳は瑠璃や琥珀色が一般的だが彼女の場合は赤。
とても珍しい。
「ちょっと待っててください」
何を履き違えたのか俺は酒と串焼きを持ってそいつの所に戻ってきた。
「これ、食べます?」
「ありがとう」
彼女は切り株に座り串焼きにかぶりつく。
「おいしい!あっちにはこんなのなかった」
「あっちっていうのは?」
「グスタフ王国」
グスタフか、あそこは宗教の関係で食えないものが多いからな。
美味しいものがあるとは言えない。
「名前は?」
「ラヴァ」
「君は何なんだ?」
「質問が漠然とし過ぎていてよくわからないけど」
彼女は両手に串焼きを持ちながら言う。
「うーん、種族とか」
「エルフとヴァンパイアの混血だよ」
聞いたことがない。人間とエルフの混血が数年前大きなニュースになっていた。
この世界はまだ種族平等とかそういう思想が発達していないため異種混同はとても珍しい。
それも生殖本能が薄いエルフと、性交をせずに眷属として子孫を増やすヴァンパイアが混ざるのか。
「珍しいですね」
「うん、長いこと生きてきて私以外に見たことがない」
ん、ちょっと待てよ。混血ってことは父と母の特性を受け継ぐんだろ?
ヴァンパイアは太陽や聖水など、一部の弱点をつかない限り殺すことができない不死身。
逆にエルフはヴァンパイアの弱点となる物が効かない。
「あの、もしかして……」
「不死身だよ、私……」
本当かよ。この世界で一番強いのは魔王って習ったけど、本当はコイツだったんじゃ?
いや今まで死ぬような状態になっていないだけかもしれないからな。
「ちなみに今は何歳?」
「女性に年齢を聞くのは失礼なんだよ?」
「ごめんなさい」
「ううん、冗談だよ。今年でちょうど340歳かな」
普通のエルフの寿命が2000年くらいだからまだ全然若いのか。
けどこの先何千年も死ねないってある意味地獄だな。
「じゃあ次は私が聞くね」
足をブンブン振っている。
何故かとても楽しそうだ。
「あなたの名前は何ですか?」
「ルザード・ローガン、ルザードでいいよ」
「何歳ですか?」
「17です」
「まだ子供なんだ」
「あなたから見てだよね」
その後夜明けまで質問攻めだった。
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「あの、そろそろ夜が明けるんですけど」
「そうだね、私はデュバル王国に向かうよ」
彼女はバックを持ってその場に立ち上がる。
その後水魔法で焚き火の火を消した。
「危ないと思いますよ」
「大丈夫!ギルドによるとデュバル王国は治安ランキングNo.1だからね」
ギルドというのは冒険者ギルド、冒険者の役に立つ情報を発信している。
「それは人間は安全ということです。エルフがひとりで歩いてたらすぐ奴隷商人に捕まります」
「私エルフじゃないもん」
彼女は牙を見せながら言う。
「見た目の問題です」
「じゃあどうすればいいのさ!」
とは言っても、異種族に対する規制や差別があるわけでもないので、奴隷商人に見つからなければ大丈夫か。
「じゃあ一緒に行きますか?」
「そう言ってくれると思ってたよ」
「それじゃあ兵士たちを待たせてるから急ぎましょう」
日が昇った後も彼女は元気そうに動いている。
やはり、ただのエルフなのだろうか。
「まだ信じられない?」
「え?いや、そんなことは」
「ちょっと聖水と剣を貰えるかな?」
すぐに兵士が持ってくる。
その2つの道具はそれぞれ、ヴァンパイア、エルフにダメージを与えられる。
「私を斬ってみて、それでわかるよ」
「いいんですか?」
「もちろん、聖水も貰うよ」
彼女は聖水の瓶の蓋を開け、頭から被る。
これでエルフならば死だ。
「1つ聞きます、痛覚はありますよね」
「うん、痛みは感じるよ」
これ程の自身、さすがに嘘ではないか。
俺は剣を地面に刺す。
「馬鹿らしい、行きましょう」
「斬らなくていいの?」
「これで聖水拭いてください」
その後兵士たちと城で解散し、報酬を受け取った。
王国兵は時間給ではなく出来高なので、結構フリーだ。
というか生産系の職業以外は大体そうだ。
彼女は長い耳が見えないよう、深くフードをかぶっている。
「それで、どこに行きたいんですか?」
「冒険者登録をしたいんだよ」
グスタフ王国はギルドが進出していないもんな。
「それじゃあギルドに行きましょう」
「うん」
王国は感謝祭前で浮かれムードだ。
感謝祭というのは王様も参加する国の一大行事。
国内だけでなく国外からも商人が集まる。
「ここがギルドです」
「大きいね」
「王都のギルドですからね」
周囲の家がほとんど2階建なのに対し、ギルドは3階+高い屋根。
国中の冒険者が昇級試験や情報収集にやって来る。
「冒険者登録をお願いします」
「はい、それではここに必要情報の記入を」
「ラヴァさん、自分で書いてください」
腕を引っ張って前に押しだす。
「わかってるよ」
「あのーあっちで書いても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
後ろに人が並んでいたので違うテーブルに移動する。
「ねぇルザード君、住所ってなに?」
「ラヴァさん家ないでしょ」
「名前の他になに書くの?」
「苗字ってわかりますか?」
「能力って?」
「それはあなたしかわからないでしょう」
なんだかんだでほとんど空欄のまま提出した。
だめかと思ったのだが何故か通った。
ギルドもガバガバだな。
「証明写真を撮るのでフードを外していただけますか?」
「それってどうしてもですか?」
「証明写真なので……」
「ラヴァさんすぐに終わらせてくださいよ」
「まかせてよ」
そう言ってラヴァはフードを外す。
受付嬢も状況を察してくれたのか1枚だけとって終わらせてくれた。
「はい、こちらのカードが証明書となります」
「ありがとうございました」
お礼を言い足早にその場を去る。
「宿をとって早めに安全を確保しましょう」
「どうして?」
「あの場に結構人がいました。噂が広まるのはあっという間です」
王都の中心部から少し離れた所に宿をとった。
「ルザード君大変だ」
「どうしました?」
宿の部屋に入った途端何か言い出した。
「おなかが減った」
「そうですか」
「何か食べたいよ」
「はい?」
「怒るよ」
魔力を解放してきたので流石にやばいと思い、出かける準備をする。
「どこに行くの?」
「祭りの前だから屋台とかあると思いますよ」
彼女はスキップしながら宿を出る。
奴隷商人とか危ないって言ったばっかなのに、もう忘れたのかあの人は。
「あれ食べたい」
「串焼きって、前食べませんでした?」
「いいからいいから」
やっぱりなにを考えているのかイマイチわからない。
「おじさん、串4本」
「あいよ、ちょっくら待ってくれ」
まだ祭り前なのにこんなに混んでるのか。
すぐ迷子になりそう……ってラヴァさんは?
「ごめんおじさん、後で取りに来る」
まったく、どこに行ったんだあの人は。
不定期投稿です。
1話目なので少し長め。
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